魔法学院のヴァンパイア、強かったのも昔の話 ~昔は最強の吸血鬼だったけど、目立ちたくないので、ひっそりと学院の事件を解決していきます~

一条おかゆ

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第6話 測定

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 新入生の人数は340人ちょい。
 その全員が第一体育館に集合し、測定するのだ。
 必然的に、数列に並んで、順番を待つこととなった。

 退屈そうに僕の番を待っていると、前の男子生徒に話しかけられた。

「なぁ」
「んんっ!? な、なにかな?」
「名前、なんつーの?」

 な、名前……?
 きゅ、急にどうしたんだろう?

 男性は犬の獣人(セリオン)。
 頭頂部に茶の犬耳が二つついており、どことなく人懐っこそうな雰囲気を纏っている。

 だけど、身長は180センチはゆうにある長身。
 しかも獣人特有の骨太で、制服のコートの上からでも分かる筋肉質な肉体だ。
 背丈が小さく身体も細い僕とは、比較にならない。

 彼を見上げていると、恐怖や猜疑心が湧いてくる。

「……りっ、理由を聞いてもいいかな?」
「理由って……ぷっ、別に理由なんてねぇっしょ!」

 ばんッ! 彼の大きな手が僕の背を叩いた。

「が……ッ!」

 吐き出される肺の空気。
 鳩のごとく突き出る僕の胸。
 足元の平衡を失うが──ぎぃッ、と一睨み。瞬時に腰を落として態勢を整え、相対する。

「おぉっと、わりーわりー、強すぎた。と、そんな怖い顔すんなよー。ただダチになりたかっただけじゃん」
「……え?」
「良い奴そうだったから、声掛けたっしょ」

 にっ、と人の好さそうな笑みを浮かべる獣人の彼。

 悪い人では……なさそうだ。
 力加減を間違えただけか……!
 勘違いしちゃったじゃないか、こんちくしょう……っ!

「もうっ、初対面で背中を叩かないでよ!」
「いいじゃん、フレンドリー、フレンドリー! 実際、俺っち達の壁、無くなったっしょ?」
「う、うぐ……確かに」
「ならダチじゃんっ!」

 そう言って、差し出してくる右の手。

 少し、手の平で踊らされた感があって気に障るけど……。
 でも明るくて優しそうだし、友達は多くて損することは無い(ほとんどの場合)。

 少し不服ながらも、握手した。

「よろしくね。えっと……名前は?」
「ランドルフ・カイウーヴ。そっちは?」
「シロガネ・シュテルだよ」
「おぉ、"シロっち"ね! よろピクゥー!」

 す、すごい距離感を詰められてる気がする……!
 しかも、どことなくチャラい!

「ランドルフって、フレンドリーなんだね……」

 と、僕に友達? が増えたところで、

 ぱりィんッ!

 ガラスが割れるような音が、体育館に響いた。

「な、なに今の!?」
「あっちじゃね?」

 僕とランドルフが音のした方向を見てみると、

「あわわ……やっちゃいマシた……」

 割れた水晶の前で、龍の少女が慌てていた。

 入学式の時。尋常ではないインパクトを残してくれた、あの龍の少女、ジンユー・ファンウェイだ。
 目の前のテーブルでは、割れた水晶に驚いた教師が、眼鏡の位置を整える。

「こ、これは……! 魔力量だけで言えば、第七位階以上は確実ですっ! この測定水晶では測れません!」

 同時に、その発言を聞いた生徒達と教師陣がざわめきだす。

「聞いた、シロっち? 第七位階以上って、マジヤバくね? 一発で宮廷入りっしょ」
「……その話し方から宮廷ってワードが飛び出すと思ってなかったから、そっちの方に驚いてるよ」
「ひ、酷ぇべー!」

 と、笑いながら肩を組んでくるランドルフ。
 肩を組むって、出会って一週間くらいからじゃない?
 いくらなんでもボディタッチが激しすぎるよ……。

 なんてランドルフに驚いていたのも事実だけど、内心、ジンユーさんにも驚いていた。

 位階(いかい)というのは、魔法使いの世界において、一種の格付けみたいなものだ。
 この帝国の魔法省が発表している基準で言えば、全十三位階が存在する。

 最高位の第十二位階は、神や、神龍(シェンロン)のレベル。
 未来永劫、超える者はいないと言われている。

 一つ下の第十一位階は、三百年前の大戦で死龍と呼ばれた四匹の龍、百年に一度現れる人間の天才、あとは……不死王(ノーライフキング)。
 まぁ、辿り着く者はまずいない。

 その下に、第十、第九、第八……とあって、次に第七位階が存在する。
 低いように思われるかもしれないが、90パーセントの魔法使いが、第六位階を越えられずに生涯を終えることを鑑みると、そのすごさが改めて感じられる。

 ま、ありていに言っちゃえば、彼女は"化け物"だ。

「はいはい、みんな落ち着いてー! 測定を再会してー!」

 ぱんぱん、と手を打ち鳴らしながら声を張る森人(エルフ)の先生に従い、測定が再開される。

 だけど、あんなものを見た後だ。
 測定を終えた生徒の大半は、なぜかしょんぼりしている。

「おっし、次は俺の番じゃん! シロっち、ルックミー!」

 そうこうしているうちに、順番は僕の前のランドルフにまで回ってきた。

 彼は測定水晶に手をかざし、目を瞑ると、意外にも集中し始める。

「ほぉぉぉぉ……」

 手から魔力を流され、光を帯びだす測定水晶。
 先生が見てみると結果は、

「第三位階ですね。お疲れ様です」
「うぇ~い! 普通、サイコー!」

 新入生としては、ザ・普通だ。
 だいたい、魔法を勉強したことない人間の平均が第一~第三くらい。
 魔法学院の新入生なら、その一段階上と考えても、問題ないだろう。

 と、冷静な分析をいっちょかましたところで、

「僕の番か……」

 先生が記録用紙に記入し終えたのを見計らって、僕は前に歩み出た。
 ランドルフと同様、測定水晶に手をかざし──魔力を流すッ!

「ふおおぉぉ……」

 研ぎ澄まされる右腕の神経。
 イメージするのは、身体を巡る血の流動。
 僕の血はまるで津波のようで、勢いよく手の平に押し寄せる、そんな感覚。

 そして、全身全霊を投じて魔力をこめると──光らないッ!

「あのぉ……もう、魔力を流していいですよ?」
「……すみません、流しています」
「え、本当ですか……?」

 やめてください、その疑うような眼差し。
 心にぶすりと突き刺さります。

「……これが、全力です」
「……あっ、はい。では、第零位階ですね……」

 悲しいかな、これが現実だ。
 僕には魔力がほとんど無い。
 完全にゼロ、という訳ではないが、ジンユーさんと同じように測れないのだ。全く逆の理由で。

「……ありがとうございました」

 感謝だけ伝え、僕は測定水晶を後にした。

 優しいかな、ランドルフは「大丈夫っしょ! 元気があればなんでも出来るっしょ!」とか「逆にすごくね? マジでパナいって!」と、慰めてくれた。
 うん。持つべきものは魔力じゃない、友達だ。

 あ、負け惜しみじゃないからねっ!
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