4 / 25
第4話 会場
しおりを挟む
「うわぁー……。思ってたより立派だ」
目の前にそびえ立つ巨大な建物──パーシヴァル魔法学院の校舎を見て、僕はそう呟いた。
さすがは、三百年前の大戦の時に、幾人もの英雄を送り出し、魔法省の官僚を、今も多く輩出している名門校だ。
校舎からして規模が並外れている。
聞いた話によると、生徒は千人強で、教師・講師の人材も豊富。
魔法教育に必要不可欠な施設や設備も十分に整っており、ティーブレイク用の東屋や、泊まり込むための宿舎、はては隷属魔用の牧場まで存在するらしい。
もちろん、貴族や聖職者も多く在籍しており、王族もいるとかいないとか……。
詳しいことは、実際に学校生活が始まらないと分からない。
だけど、一つ確かに言えることがある。
「僕みたいに、清掃員の制服を着た人は誰もいない……!」
周囲を見回してみると、生徒たちは、みんな高級そうな服装だ。
あぁ、あそこのイケメン、身に付けている宝飾品が煌めきすぎてて、顔がまったく見えない!
ぐおぅ! あそこの美女、ドレスの刺繍が細かすぎて、見ていてこっちの目が疲れる!
対して僕は、見るからに労働者っぽいシャツとズボン。
一応、汚れの少ないものを選んで、上にベストを羽織っているけど、周りの生徒から浮いてしまっている。恥ずかしい……。
なんて考えていると、どんッ! と、背後から肩をぶつけられた。
「ご、ごめん……っ!」
ばっと振り返って、素直に謝ったけど、
「立ち止まってんじゃねぇよ、チビ。邪魔なんだよ」
返ってくるのは罵倒だった。
「なんだ、その服装は? ……あぁ、新入生じゃなくて、清掃員だったのか、ははは!」
「いや、僕も新入生なんだ」
「はっ! 皮肉だよ、馬鹿が」
突っかかってきた男は、憎たらしい笑みを湛え、去っていった。
ぐぬぬ……。嘲笑されたのだ。
高貴で高慢な貴族様にとって、見すぼらしい僕は、気に食わない存在なのだろう。
だから、あえて肩をぶつけ、その上で罵倒したのだ。ムカつく……!
当然、馬鹿にされたこちらとしては苛立ちを覚える。
だけど、絶対に目立ちたくないし、大人しく入学式の会場へと向かった。
入学式は、他の学校と同じように講堂で行われる。
無論、パーシヴァル魔法学院は講堂の大きさも凄まじい。
僕は圧倒されてしまった。
「理事長って、すっげー……っと、棒立ちしてたら、また怒られちゃう」
周りをきょろきょろとしながらも、中に入り、手頃な席に腰掛けたところで、ほっと一息。
「ふぅ……みんな服装が派手だし、どことなく空気がピリついてて怖いな……」
なんて、特に意味も無く呟いたのだけど、
「それ、私も同感かな」
隣の席の、並人(ヒューム)の少女に拾われた。
見れば、少女も質素な服装だ。
別段珍しい訳ではないけど、平民出、それも一般家庭の出身なのだろう。
緋色の瞳は丸々として大きく、橙色の髪もポニーテールに纏められていて、とても活発的。
健康さや元気さが大事になってくる平民ゆえなのかもしれない。
と、頭で感じたが、思いもよらない同調に、僕は変な声を漏らす。
「んぬぅっ!?」
「大丈夫!?」
「だっ、大丈夫だよ……! さっき少し嫌な事があったから、それを思い出して……」
「あぁ……見てたよ。校門の近くで、肩をぶつけられてたよね」
「いいや、外の太陽光が眩しかったから」
「えぇ!? そっち!? いや……太陽光!?」
僕以上に素っ頓狂な声を上げて、少女は驚いた。
その様子に、周囲から好奇の視線が集まる。
「ちょ、ちょっと、声を抑えて」
「ごめんっ」
恥ずかしそうに口を覆って縮こまる少女。
集中していた視線は外れていった。
少女は居住まいを正し、僕に名前を問う。
「ふぅ……で、君の名前はなんて言うの?」
「僕はシロガネ。シロガネ・フォ……シロガネ・シュテルだよ。気軽にシロって呼んで、よろしくね」
「私の名前はリタ・アーネット。こちらこそよろしくね」
ものすごく簡単な自己紹介を終え、僕たちは軽く握手した。
すると直後。気になったのか、服装について聞かれる。
「その服装……"ライテン掃除屋さん"の制服だよね?」
「うん。数か月前まで清掃員だったんだ」
「数か月前まで?」
と、首を傾げるリタだったが、事情を察したのか、一人で相槌を打つ。
「あぁ! 魔法学院に入るために辞めたのね」
「いいや、解雇だよ」
「えぇ!?」
リタにとっては驚きの連続だ。
予想外の返答に、また素っ頓狂な声を出した。
僕は彼女を落ち着かせようと、事情をきちんと説明する。
「元々、魔法が使える人の方が優遇されてたんだけど、今年度からそれが更に厳しくなっちゃって……ついに解雇されちゃったんだ、『初級魔法の資格が無ければ、清掃員に非ず』って」
そう、昨今は厳しいのだ。
あらゆる職で、魔法が使えるか否かが問われる。
軍事関係や土木は当然、ベビーシッターや性産業でさえ魔法が使えるだけで給与が倍になる。
僕の元いた清掃会社でも、迅速かつ丁寧な清掃のために、最低限の魔法技術が求められるようになったのだ。
「……もしかして、清掃員に戻るために魔法を学びにきたの?」
「うん」
「別に魔法を必要としない職なんていっぱいあるのに……。それに、パーシヴァル魔法学校を卒業すれば引く手あまたなのに……。世の中、色んな人がいるものね」
信じられない、と言わんばかりに顔を引き攣らせるリタ。
「逆に、リタはなんで魔法学校に入ったの?」
「あー……。私はね……」
と、話しかけたところで、
「新入生の皆さん、始めまして」
入学式が始まった。
目の前にそびえ立つ巨大な建物──パーシヴァル魔法学院の校舎を見て、僕はそう呟いた。
さすがは、三百年前の大戦の時に、幾人もの英雄を送り出し、魔法省の官僚を、今も多く輩出している名門校だ。
校舎からして規模が並外れている。
聞いた話によると、生徒は千人強で、教師・講師の人材も豊富。
魔法教育に必要不可欠な施設や設備も十分に整っており、ティーブレイク用の東屋や、泊まり込むための宿舎、はては隷属魔用の牧場まで存在するらしい。
もちろん、貴族や聖職者も多く在籍しており、王族もいるとかいないとか……。
詳しいことは、実際に学校生活が始まらないと分からない。
だけど、一つ確かに言えることがある。
「僕みたいに、清掃員の制服を着た人は誰もいない……!」
周囲を見回してみると、生徒たちは、みんな高級そうな服装だ。
あぁ、あそこのイケメン、身に付けている宝飾品が煌めきすぎてて、顔がまったく見えない!
ぐおぅ! あそこの美女、ドレスの刺繍が細かすぎて、見ていてこっちの目が疲れる!
対して僕は、見るからに労働者っぽいシャツとズボン。
一応、汚れの少ないものを選んで、上にベストを羽織っているけど、周りの生徒から浮いてしまっている。恥ずかしい……。
なんて考えていると、どんッ! と、背後から肩をぶつけられた。
「ご、ごめん……っ!」
ばっと振り返って、素直に謝ったけど、
「立ち止まってんじゃねぇよ、チビ。邪魔なんだよ」
返ってくるのは罵倒だった。
「なんだ、その服装は? ……あぁ、新入生じゃなくて、清掃員だったのか、ははは!」
「いや、僕も新入生なんだ」
「はっ! 皮肉だよ、馬鹿が」
突っかかってきた男は、憎たらしい笑みを湛え、去っていった。
ぐぬぬ……。嘲笑されたのだ。
高貴で高慢な貴族様にとって、見すぼらしい僕は、気に食わない存在なのだろう。
だから、あえて肩をぶつけ、その上で罵倒したのだ。ムカつく……!
当然、馬鹿にされたこちらとしては苛立ちを覚える。
だけど、絶対に目立ちたくないし、大人しく入学式の会場へと向かった。
入学式は、他の学校と同じように講堂で行われる。
無論、パーシヴァル魔法学院は講堂の大きさも凄まじい。
僕は圧倒されてしまった。
「理事長って、すっげー……っと、棒立ちしてたら、また怒られちゃう」
周りをきょろきょろとしながらも、中に入り、手頃な席に腰掛けたところで、ほっと一息。
「ふぅ……みんな服装が派手だし、どことなく空気がピリついてて怖いな……」
なんて、特に意味も無く呟いたのだけど、
「それ、私も同感かな」
隣の席の、並人(ヒューム)の少女に拾われた。
見れば、少女も質素な服装だ。
別段珍しい訳ではないけど、平民出、それも一般家庭の出身なのだろう。
緋色の瞳は丸々として大きく、橙色の髪もポニーテールに纏められていて、とても活発的。
健康さや元気さが大事になってくる平民ゆえなのかもしれない。
と、頭で感じたが、思いもよらない同調に、僕は変な声を漏らす。
「んぬぅっ!?」
「大丈夫!?」
「だっ、大丈夫だよ……! さっき少し嫌な事があったから、それを思い出して……」
「あぁ……見てたよ。校門の近くで、肩をぶつけられてたよね」
「いいや、外の太陽光が眩しかったから」
「えぇ!? そっち!? いや……太陽光!?」
僕以上に素っ頓狂な声を上げて、少女は驚いた。
その様子に、周囲から好奇の視線が集まる。
「ちょ、ちょっと、声を抑えて」
「ごめんっ」
恥ずかしそうに口を覆って縮こまる少女。
集中していた視線は外れていった。
少女は居住まいを正し、僕に名前を問う。
「ふぅ……で、君の名前はなんて言うの?」
「僕はシロガネ。シロガネ・フォ……シロガネ・シュテルだよ。気軽にシロって呼んで、よろしくね」
「私の名前はリタ・アーネット。こちらこそよろしくね」
ものすごく簡単な自己紹介を終え、僕たちは軽く握手した。
すると直後。気になったのか、服装について聞かれる。
「その服装……"ライテン掃除屋さん"の制服だよね?」
「うん。数か月前まで清掃員だったんだ」
「数か月前まで?」
と、首を傾げるリタだったが、事情を察したのか、一人で相槌を打つ。
「あぁ! 魔法学院に入るために辞めたのね」
「いいや、解雇だよ」
「えぇ!?」
リタにとっては驚きの連続だ。
予想外の返答に、また素っ頓狂な声を出した。
僕は彼女を落ち着かせようと、事情をきちんと説明する。
「元々、魔法が使える人の方が優遇されてたんだけど、今年度からそれが更に厳しくなっちゃって……ついに解雇されちゃったんだ、『初級魔法の資格が無ければ、清掃員に非ず』って」
そう、昨今は厳しいのだ。
あらゆる職で、魔法が使えるか否かが問われる。
軍事関係や土木は当然、ベビーシッターや性産業でさえ魔法が使えるだけで給与が倍になる。
僕の元いた清掃会社でも、迅速かつ丁寧な清掃のために、最低限の魔法技術が求められるようになったのだ。
「……もしかして、清掃員に戻るために魔法を学びにきたの?」
「うん」
「別に魔法を必要としない職なんていっぱいあるのに……。それに、パーシヴァル魔法学校を卒業すれば引く手あまたなのに……。世の中、色んな人がいるものね」
信じられない、と言わんばかりに顔を引き攣らせるリタ。
「逆に、リタはなんで魔法学校に入ったの?」
「あー……。私はね……」
と、話しかけたところで、
「新入生の皆さん、始めまして」
入学式が始まった。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
転生王子の異世界無双
海凪
ファンタジー
幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。
特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……
魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!
それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!
百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜
幻月日
ファンタジー
ーー時は魔物時代。
魔王を頂点とする闇の群勢が世界中に蔓延る中、勇者という職業は人々にとって希望の光だった。
そんな勇者の一人であるシンは、逃れ行き着いた村で村人たちに魔物を差し向けた勇者だと勘違いされてしまい、滞在中の兵団によってシーラ王国へ送られてしまった。
「勇者、シン。あなたには魔王の城に眠る秘宝、それを盗み出して来て欲しいのです」
唐突にアリス王女に突きつけられたのは、自分のようなランクの勇者に与えられる任務ではなかった。レベル50台の魔物をようやく倒せる勇者にとって、レベル100台がいる魔王の城は未知の領域。
「ーー王女が頼む、その任務。俺が引き受ける」
シンの持つスキルが頼りだと言うアリス王女。快く引き受けたわけではなかったが、シンはアリス王女の頼みを引き受けることになり、魔王の城へ旅立つ。
これは魔物が世界に溢れる時代、シーラ王国の姫に頼まれたのをきっかけに魔王の城を目指す勇者の物語。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する
平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。
しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。
だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。
そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる