魔法学院のヴァンパイア、強かったのも昔の話 ~昔は最強の吸血鬼だったけど、目立ちたくないので、ひっそりと学院の事件を解決していきます~

一条おかゆ

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第3話 魔法学院

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 チュンチュン。
 小鳥のさえずりが耳に届く。

「はぁ……。またやってしまったぁ……!」

 所々湿ったベッドの上で、膝を抱くようにして体育座りする賢者・僕。
 横には、こちらに背を向けている、全裸の少女・リリー。いまだに火照った肢体を、小刻みに痙攣させる。

「くっ、くふふっ……。夢魔のわらわに勝るとは……」
「そんな事で褒められても、嬉しくないよ……」
「嘘をつくでない。魔術を維持できなくなったわらわを押し倒して……途中からお主もノリノリであったではないか」
「ち、違うよっ! あれは、ほらっ、粘膜が触れたから!」

 言い訳にもならない理由だ。
 しかし、僕の場合は言い訳になる……はず。
 少なくともリリーは理解を示してくれた。

「ふっ、そういう事にしておいてやる。……さて、今のお主と先程のお主、どちらが本当のお主かのぅ?」

 彼女は薄い肌布団を手繰り寄せ、"自主規制"か"黒い海苔"の必要な部分を隠しつつ、疲れ切った様子でベッドから這い下りた。

「どうしたの?」
「初級魔術の取れるところじゃよ。最高に美味い精が手に入ったのじゃ、約束は違えん」
「あっ、ありがとうっ!」
「おぉ。そんな可愛い顔をして、二回戦がし……すまんすまん、怖い顔をするな」

 起き上がったリリーは、机の上に並べられた書類を広げ、蕩けた目を通していく。

 リリーは夢魔だ。
 種族的には、いわゆる性産業に就く人が多い。
 そうすれば、夢魔にとって魔力の源である"精"が簡単に手に入り、なおかつ、それで賃金が稼げるからだ。

 しかし珍しく、彼女の職業を一言で言い表すなら──"資本家"だ。
 企業に資本を提供するとともに経営したり、労働者に資本を与えて雇用したりする……らしい。

 本人は自身を機能資本家と呼ぶけど、正直、清掃員の僕には縁遠い世界だ。
 だけどこうして、初級魔法の資格が取れるところを教えてもらえるのだから、人脈というのは素晴らしい。
 ……ちょっと卑怯な気もするけど。

 書類と睨み合うリリーだったが、めぼしいものを三枚ほどを抜き取って、少し枯れ気味の声で読み上げた。

「一つ目は……魔道具屋への品入れ・仕分けの職。これはどうじゃ?」
「うーん……」

 悪くないね。
 魔道具に関しての知識・理解が必要な職だけど、僕なら難なくこなせるだろう。
 それに、一人か、または少人数で黙々と作業できるだろうし、なにより"目立たない"。
 だけど、

「魔道具って、尋常じゃないくらい重たいものあるからなぁ……。僕、小っちゃいし、無理かな?」
「ふむ、仕方あるまい。では……魔法清掃員は?」
「魔法清掃員?」
「魔法関連の事故か殺人で死んだ人間を、言葉通り"清掃"する仕事じゃよ」
「あぁー……」

 悪くはない……のかな?
 3Kを極めて、その上に"殺された人"っていう新たなKを加えて、4Kになったかのような仕事だけど、それほど仕事量も多くないだろうし、福利厚生も優遇されているだろう。
 だけど、

「僕、血液を見ちゃうとアレだから……」
「知っておる、これは無理じゃな。では……これはどうじゃ?」

 突き出された最後の書類。そこには、

 パーシヴァル魔法学院、入学案内。
 ・一般入試……一般応募者。一次試験は筆記、二次試験は実技。
 ・推薦入試……軍の推薦者。面接と小論文のみ。
 ・特別選考……教師・講師から推薦された者。試験無し。

「名門校の生徒? もう願書受付は終わってるんじゃ……?」
「理事長ぞ? わらわ、理事長ぞ? その程度の無茶は通るのじゃ」
「でも、よしんば入試を受けれたとしても、僕は魔力が無いよ? 落ちると思うけど」
「案内をよく見よっ!」

 さらに前方、僕の目と鼻の先にまで書類を突き出した。
 すると、気になる文字が僕の目に入る。

「特別選考? もしかして、これで入試をスルーするの?」
「さようじゃ」
「えー……さすがにバレないかな? だって、特別選考って事は尋常じゃなく強い奴が選ばれるんじゃない?」
「お主と一般入試の成績優秀者を、ちょちょいと入れ替えればいいだけじゃ。書類一枚で済む」

 すっごい悪い顔をしているように見えるのは、僕だけだろうか?
 確かに、経営を担う理事長の立場を駆使すれば、僕一人くらいの裏口入学は容易い事だろう(良い子は真似しないでください)。
 だけど、学長や他の教師がどんな顔をするだろうか……。

「激辛カレーを食べさせられたり、先生の差し金で虐められたりしないかな?」
「安心せい。お主を傷つける者がおるなら、わらわが直々に消し炭にしてくれよう」

 細い指で空中に文字を刻むと──ぼッ! 彼女の指先から、小さな炎が生じた。
 めらめらと燃えるそれを、掴むように消し、どや顔を浮かべる。

「ふっ。それに、もし入学するなら、お主に頼むことが一つある。内容が内容じゃ、他の教師も黙認してくれるであろう」
「でも……」
「むむむ、さっきから否定が多すぎじゃ! 否定せぬと死ぬのかお主は!? わらわの主なら、『良かろう』の一言で男らしく受けい!」
「ごっ、ごめん……」
「ふんっ。もうこれで決まりじゃ、よいな?」
「……う、うん」

 不肖不肖ながらも、この日、僕は魔法学院の新入生となった──

 って僕、本当にリリーの主人だよね?
 なんか、完全に尻に敷かれてる気が……。
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