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第108話 更なる力

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 そして迎えた翌日。
 今日は魔術戦の日だ。

「お兄様、頑張ってくださいね」
「うん。見ておいてね、今日は結構調子いいよ」
「楽しみにしておきますね」

 カレンは可愛く微笑んで、控室から出て行った。
 観客席の方へ向かったのだろう。

 ……そろそろ試合が始まるな。
 俺は杖や魔術服を確認し、闘技場前の扉の前で立った。

「両者、前へ」

 審判の先生の声が聞こえてきた。
 出番だな。
 俺は扉を開いて闘技場へと進み出た。

「対戦、よろしくお願いします」

 俺の対戦相手は短く切りそろえられた茶の髪に、小さな丸眼鏡をかけた少女のようだ。
 名前はジーナ・ソル。
 あまり彼女の事を詳しくは知らないけど、こうして魔術戦前に頭を下げているし、どうやら礼儀正しい子のようだ。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 俺も丁寧に頭を下げて返した。

 ……ここ一年、柄の悪い奴や偉そうな連中ばかりと戦っていたから、こういった真面目な子との戦いが、やけに新鮮だな。
 でも……戦うからには全力だ。
 俺にも勝たなくちゃいけない理由があるしな。

「両者とも準備は良いですか?」

 俺達は首を縦に振り、杖を抜いた。

「では、始め!」

 審判の先生は手を振り下ろした。
 魔術戦の始まりだ。

「……」

 俺はまず様子を見る事にした。
 圧倒的に差があるであろう身体能力で押してもいいが、俺はジーナさんに敬意が生まれたし、しっかりと魔術で戦う事にした。
 そして待つ事数秒。
 当のジーナさんは杖も使わず──

「『白皿の舞(ディッシーズダンス)』っ」

 数枚の白い皿を、宙に作り出す。

「ん!?」

 最初は杖も使っていなかったから、ジーナさんも人工魔族なのかと思った。
 だが……これは間違いなくスキルの類だ。
 彼女は物体を魔力で『形成』したのではなく、スキルで『生成』したのだ。

 ……にしても皿を生み出すだけか。
 あまり言いたくはないのだが、戦闘向きのスキルとは言い難い。
 それに、

「『風(ウィンド)』!」

 魔術では無いから操作にもひと手間かかる、という訳か。

 風を巻き起こし、ジーナさんが飛ばしてくる飛んでくる3枚の皿。
 避ける事は用意だが──

「『石散弾(ストーンショットガン)』」

 石のつぶてを大量に飛ばし、俺はその皿を空中で粉々にした。
 見事に砕かれ、宙を舞う皿の破片。
 これでジーナさんのスキルは封じた……はずだった。

「『突風(ブラストウィンド)』!」

 ジーナさんは風を吹き荒れさせる……!
 高速で引き起こされる風の波──
 それによって、先程粉々にした皿の破片が俺に襲いかかる。

「……ッ!」

 俺の全身に突き立てられるまで、あと数瞬──
 完全に不意を突かれた。
 勝ったと勝手に思い込んで、油断していた。
 様々な出来事のせいか、集中力が低下していた。
 だけど……負ける訳にはいかないッ!

 目を見開き、駄目もとで『絶対真眼』を発動する。
 だが、スキルには意味が無く、破片は消え去らない。
 魔術は既に発動された後、勢いを止められない。

 必然。
 俺は二度目の敗北を悟った。
 だが、せめて頭を守ろうと腕を上げた瞬間──

「『神盾(アイギス)』ッ!」

 俺の周囲を、半透明の漆黒の殻が覆った。

 それと同時。
 白磁の破片は漆黒の殻にぶつかり、あらぬ方向へと弾かれる。
 俺は一抹の疑問を感じながらも、自身の新たな力を信じた。
 渾身の力を籠め、膨大な魔力を注ぎ込む。
 そして──

「……どうして、ですか……?」

 一つも破片は俺に刺さっていなかった。
 どころか、俺の足の届く範囲には、一つも転がっていなかった。

「それが、あなたのスキルですか……?」
「……あぁ」

 俺ははったりの意味も込めて、肯定で返した。

 かなり魔力を使った。
 額には脂汗が滲んでいるし、魔力の枯渇が激しい。
 少しでも、時間を稼ぎたい……!

「……これは俺のスキルだ。果たして、ジーナさんに破れるか…?」
「……」
「俺のスキルに使う魔力、ジーナさんがスキルと魔術に使う魔力。どちらがより魔力を使うかな?」

 はっきり言える。
 これは俺のスキルではない。
 経験上分かる。
 これは、俺の血縁に基づく力──『真祖の力』だ。

 おそらく、シモンの家で浴びた返り血。
 それによって新たに目覚めたのだろう。
 タイミングが良い。
 だがこの力は……魔力を使い過ぎる。

「何もしないなら、今度は俺の番だな」

 俺は手の内で杖を回し、構える。
 まるで、ありもしない魔力が大量にある、とでも言うように。

「マミヤ君……」
「ジーナさん」

 愛など一切なく、見つけ合う俺達。
 空気は張り詰め、静寂が訪れる。
 そして、最終的には──

「……降参です」

 ──俺が勝った。

「……懸命だよ、ジーナさん」
「はい……。必死に考えた必勝の策も敗れてしまいまし、私の負けです」

 ジーナさんは悔しそうにそう呟く。
 よって、

「勝者、アベル・マミヤ」

 審判の先生が俺の勝利を告げる。

「ふぅ……」

 それに対し、勝利に喜ぶ余裕は無い。
 心理戦から解放された安心感と、魔力を使い過ぎた疲労感が強い。

 ブラフを用い、心理戦で勝利出来たのは成長だろう。
 だが……油断してしまったのは、俺の弱さだ。
 シモンとガルファの死が、尾を引いているのかもな……。

 勝利に喜ぶ余裕は、本当に無かった。
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みんなの感想(70件)

N
2020.09.17 N

さっき感想書いたものです
第13話目昼食+のです

解除
N
2020.09.17 N

読ませていただきました
面白いです
13行目位の『スリートップ』→『トップスリー』の方がいいと思います
出過ぎた真似かもしれませんが、やっぱりトップスリーの方がなじみがあると思います
にわかが失礼しました

一条おかゆ
2020.09.20 一条おかゆ

感想ありがとうございます!
確かに、トップスリーのほうがしっくりきますね!
変更致します! 報告ありがとうございます!

解除
胼胝
2019.09.14 胼胝

学院ダンジョン・・・簡単に許可出そうな気がする(^◇^;)

解除

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