上 下
57 / 116

第51話 会食

しおりを挟む
 会食の会場は宮殿の中でも一際広い場所だった。
 並べられたたくさんの食事、それを取り囲む人々は皆色鮮やかな服を着ている。

「……すごいな」
「パーティーとはすごいもんじゃの」
「……きれい」

 入ったのはいいけど何をすればいいのかわからないな。
 まずはお腹もすいたし食事でもしようかな?

「おやおや、よくぞいらっしゃいました」

 何をしようか悩み、手持無沙汰となっていた俺達にロッキンジーが話しかけてくる。

「かなりすごいな」
「でしょう。腕によりを掛けていますから」
「いいのか? 魔族との戦争中じゃないのか?」

 別に戦争の時に、派手なパーティーをしちゃいけないってことは無いんだけど。
 でももっとやるべきことがあるんじゃないのか、と思ってしまうな。

「それならご心配なく。もう既に終わりかけております」
「本当か!?」
「真実でございます」

 早いな。
 これは想像以上だ。
 新魔王を倒せば戦争は早期に終わると考えていたが、こうも早いとはな。
 しかし――

「そういえば俺はいつ元の世界帰れるんだ?」

 俺はロッキンジーにそのことを聞く。
 きちんと聞いておかないとな。

「そのことは明日にでもお話します。それより今日はこの会食を楽しみましょう」
「それもそうだな」

 俺はすぐに引き下がった。
 もしここで強く問い詰めて、会食の空気を悪くしたらダメだろうしな。

「ではどうぞ今夜をお楽しみください」
「あぁ」

 ロッキンジーはこうした挨拶を交わし、他の魔術師達の元へと向かう。

「わしも色々話を聞いてくる、アマネを頼むぞアベル」
「っちょ……!」

 グルミニアはそう言い残し、別の魔術師達のグループに話しかけに向かった。

「……行ってしまった」
「そうだな。俺達はご飯でも食べようか」
「……うん」

 俺達はご飯を取りに行く。
 すると会食はバイキング形式のようだ。
 種々様々な食べ物が並び、見たこと無い食べ物もたくさんある。

「これと、これと……」

 俺は皿の上に食べ物を乗せていく。
 すると――

「すいません。もしかして……」
「あの、勇者様達ですか?」

 二人の女性に話しかけられた。
 どちらも煌びやかなドレスに大きく胸元が開いている。
 優美さを感じさせる化粧に、髪は高く盛られ、どちらも顔立ちはとても整っている。

「そうですよ」
「……」

 アマネは人見知りか、俺の後ろに隠れる。
 でも……達、ってことはアマネも含んでくれているのだろう。

「えぇ~本当ですか~」
「私達、勇者様たちと仲良くしたいと思って~」

 女性二人は胸を寄せて近寄ってくる。
 俺はそれに合わせて目を逸らす。

 まぁ確かに気持ちはありがたい。
 でもこれは多分すり寄ってきてるんだろうな……。

「気持ちはありがたいけど、ちょっと二人で話したいことがあるんだ」

 俺はやんわりと断ることにした。

「少しくらい、お話ししましょうよ~」

 茶髪の女性が俺の肩を優しく触ってくる。
 でも俺は足を一歩下げ少し離れる。

 昔サラさんに言われたことがある。
 ボディタッチの激しい人には気を付けた方がいい、らしい。

 そう言えば、元の世界に帰ったらサラさんにも謝っておかないとな。
 何か月バイトさぼってるんだよ、って自分でも思うからな。

「暇があればあとでお声掛けしますよ」
「えぇ~」
「ごめんね。行こう、アマネ」
「……うん」

 丁寧に断り、俺はアマネを連れてその場から離れた。
 そのまま2人掛けの机の方へとアマネと共に向かう。

 結局、途中で去ったせいで好きな料理を全部は取れなかった。
 それにだんだんと、俺がこの空間に浮いている感覚がしてくる。

「俺ちょっとこういう所苦手だな」

 二人で席に着き、料理を口に運びながら、俺はアマネに話しかけた。

「……私も」
「ご飯食べて、少ししたら散歩でも行こうか」
「……うん」

 こんな豪華なパーティーの中、そこだけ時間が切り取られたかのように雑談しながら二人きりで静かに食事をする。

 俺は元の世界に戻る。
 これからアマネやグルミニアはどうするかを聞かなくちゃいけない。
 でもそれは後でもいいかな、と俺は思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!

KeyBow
ファンタジー
 日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】  変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。  【アホが見ーる馬のけーつ♪  スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】  はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。  出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!  行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。  悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!  一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す

大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。 その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。 地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。 失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。 「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」 そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。 この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。

勇者がパーティーを追放されたので、冒険者の街で「助っ人冒険者」を始めたら……勇者だった頃よりも大忙しなのですが!?

シトラス=ライス
ファンタジー
 漆黒の勇者ノワールは、突然やってきた国の皇子ブランシュに力の証である聖剣を奪われ、追放を宣言される。 かなり不真面目なメンバーたちも、真面目なノワールが気に入らず、彼の追放に加担していたらしい。 結果ノワールは勇者にも関わらずパーティーを追い出されてしまう。 途方に暮れてたノワールは、放浪の最中にたまたまヨトンヘイム冒険者ギルドの受付嬢の「リゼ」を救出する。 すると彼女から……「とっても強いそこのあなた! 助っ人冒険者になりませんか!?」  特にやることも見つからなかったノワールは、名前を「ノルン」と変え、その誘いを受け、公僕の戦士である「助っ人冒険者」となった。  さすがは元勇者というべきか。 助っ人にも関わらず主役級の大活躍をしたり、久々に食事やお酒を楽しんだり、新人の冒険者の面倒を見たりなどなど…………あれ? 勇者だったころよりも、充実してないか?  一方その頃、勇者になりかわったブランシュは能力の代償と、その強大な力に振り回されているのだった…… *本作は以前連載をしておりました「勇者がパーティーをクビになったので、山に囲まれた田舎でスローライフを始めたら(かつて助けた村娘と共に)、最初は地元民となんやかんやとあったけど……今は、勇者だった頃よりもはるかに幸せなのですが?」のリブート作品になります。

処理中です...