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第34話 ゴリラ魔族

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 俺達は村長の家を出て、近くの草原へと向かった。
 目的は勿論、俺とこのゴリラ魔族が戦うためだ。

「アベル、これを」

 戦闘前。
 グルミニアは俺に小さな魔石を差し出す。

「……知っているのか?」

 何故魔石を食べれば強くなれることをしっているんだ?
 普通の人は知らないはずだ。
 俺がたまたまダンジョンでお腹が空いて食べたら、強くなったのだから……知っているはずがない。

「そのことは、後でよい」
「……今は感謝を言っておく」

 んっ……ぐッ!
 魔石のとがった部分が喉を痛める。
 やっぱり最悪の喉越しだな。

「なぜ魔石を食べたのか知らんが、まぁ構わん。始めるか」
「あぁ、いつでもいいぜ」
「『闇陣ダークエリア』」

 巨体の魔族は俺と自身のみを囲う黒い結界を展開する。
 俺はそれを見て、杖を抜く。

 ……しかし、こいつの身体はでかいな。
 俺の身長は平均程度、この魔族の身長は2mを越す。
 だから身長差は30cmぐらい。
 そして体重差は倍以上あるだろう……。

 パンチを貰えば一撃で終わってしまうかもしれない。
 しかし、この体格ならそう素早くは動けないはずだ。
 魔石で強化された身体に、この『絶体真眼』があれば倒すことは不可能じゃない……と信じている。

「準備はいいか、クソガキ」
「あぁ」

 始まるな。
 戦いが。

「なら、行くぞ――雑魚」

 魔族は腰を落とし構える。
 直後、

 ――バンッ!!

 と魔族は足元の大地を削るッ!

「なッ!?」

 速い!
 予想よりも、速すぎる!!

 そして速度だけじゃない。
 当たれば確実に肉片へと化す、絶望的な破壊力。
 俺は生き残る為にも、必死に横に飛ぶ――

 ――シュンッッ!!

「ほう。良くかわしたな」
「は、はぁ……!」

 やばい……!
 なんて速さだ!

 その予想外の速度に驚く。
 だが、俺の身体はその速さに確実についていっている。
 もしかすると……これはグルミニアの魔石の力おかげなのか?

「しかし、かわしてばかりでは勝てぬぞ!」

 もう一度魔族は突撃してくる。

「『聖壁ホーリーウォール』」

 俺は壁を作り、念の為に横に飛ぶ。

「甘いぞ!」

 バリンッッ!!
 魔族はその拳で光の壁をぶち破る。
 しかし横に飛び退いていたので、その一撃は俺に当たらない。

 ……やはり速度だけではない。
 威力もイカレている。

「その程度では俺のパワーを止められないな」
「……どうやらそのようだな」
「このままではそこの二人は俺のものになりそうだな」

 大男は足に力をこめて、腰を落とす。
 もう一度……来るな!

「うぉぉぉ!!」

 読みは当たった。
 魔族の男はまたもや突っ込んできた!

「『成長グローアップ』!」

 それに対し俺は防御ではない魔術を使い、またもや横に飛ぶ。

「なっ!?」

 魔族の男はそれが防御魔術では無かったため、その拳は空中を殴り、バランスを崩す。

 やはりだ。
 こいつは身体こそ強いが、頭はそれ程強くない。
 なら――かかるッ!

「ちょこざいな!」

 しかし魔族の男はすぐにバランスを立て直し、蹴りを放って来る!

「……くッ!!」

 横に飛んでいた俺はすんでの所でかわす。
 直撃こそはしなかった。
 しかし、その風圧によって俺の身体はバランスを崩してしまった――

「ふっ、これで終わりのようだな」

 地面に尻もちをつく俺。
 そしてそれを見下ろす巨体の魔族。
 状況は絶望的だ。
 だが……まだ終わりじゃない。

「……それはどうかな?」

 俺は不敵に笑ってみせた。

「負け惜しみとは見苦しいな!」

 巨体の魔族は拳を振るかぶる。
 しかし――

「がッ! 何故!? 何故動かん!」

 巨体の魔族の足は一切動かない。

「足元をよく見てみな」
「ぐっ! 雑草だと!?」

 そう。
 直前に放った『成長グローアップ』の魔術。
 これはグルミニアに習った、植物を成長させある程度操る魔術だ。

 そして今まさにその植物が成長し、巨体の魔族の足に絡みつく。

「こんの!」

 魔族はパワーで引きちぎろうとする。
 こいつのパワーならそれも可能だろう。
 だが、そうはさせない。

「『拘束バインド』」

 俺は杖を振り、魔術を詠唱する。
 すると漆黒の輪が、魔族の身体を更に締め付ける。

「ぐっ! く、くそっ! 動けない!」

 生い茂る植物と漆黒の輪による二重の行動制限。
 こいつのパワーがあったとしても、そう簡単には破れまい。

「どうやら勝負は決したようだな」

 体格が良くても身動きが取れないなら、その鋼の肉体も無用の長物だ。
 それに目の前には五体満足の敵がいる。
 誰が勝者かは、火を見るより明らかだろう。

「……わかった。俺の負けだ」

 魔族の男は素直に負けを認めた。
 俺はその言葉を聞いて、魔術を緩め――

「甘いな!!」

 その瞬間。
 男は一気に立ち上がり、俺へと殴りかかって来た!!

「や、やば……っ!!」

 完全に気を抜いていた。
 これで二回目。
 流石に今回は死を悟った……が。

 その拳は俺には当たらなかった――

「ぐわっ!! や、やめろぉぉ!!」

 魔族の男の身体を、急速に植物が覆っていく。
 そしていずれ魔族の男の全身を覆い尽くし、彼の身体は緑の塊になってしまった。

 それは俺の魔術とは比べ物にならない成長速度、強靭度。
 こんな魔術を使えるのはこの場にただ一人。

「最後まで詰めが甘いのうアベル」
「ありがとう、グルミニア!!」

 ほんっっとうに助かった!
 アマネといい、グルミニアといい、いつも俺は助けてもらってばかりだ……。
 感謝してもしきれない。

「まぁ礼は良い」

 グルミニアは手をひらひらとさせ、飄々と答える。

「それより、こやつをどうするかじゃな。……散々言ってくれたしのう?」
「ひい! やめ、やめて!!」
「そんなこと言われても、あんなこと言われたら誰だって頭にくるがな」

 キザイアさんは笑みを浮かべる。

 ……それから数時間。
 魔族の大男にとっては地獄の時間が幕を開けてしまったのだった。
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