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第29話 アイルトンの剣士長

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 そびえたつ巨大な壁。
 その高さは10mはあろうか。
 石を何層も積み重ねたその圧倒的すぎる壁を見ていると、自然と頭から単語が浮かび上がってくる。
 それは――城塞都市アイルトン。

「じゃあ私はこれにて」

 馬車から降りた俺達に、御者さんは頭を下げる。

「ありがとうございました」

 俺はきちんと感謝を述べて、頭を下げる。
 御者さんはそれを聞いて軽く微笑み、来た道を戻って行った。

「じゃあ行こうか、アマネ」
「……うん」

 俺達はアイルトンの門へと向かい、門を守る衛兵達へと話しかけた。

「すいません。アベル・マミヤという者ですが。あっ、これが宮廷で貰った証明書です」
「おぉ、あなたが召喚者の方ですか。ちょっとお待ちを」

 衛兵の一人は俺から証明書を受け取ると、門に備え付けられた扉の奥へと向かった。
 ……手際が良いな。
 よく連絡が行き届いているのだろう。

 そして少し待つと、衛兵はすぐに戻ってきた。

「確認出来ました。それでは剣士長様の元まで案内します」

 その後、俺とアマネは街に入れてもらい、アイルトンの中心である巨大な詰所へと連れていかれた。

 その道中で見るアイルトンの町はとても特殊だった。
 建築物のほとんどは堅牢な石かレンガでの造られていて、軒先には槍や剣が落ちていたりする。
 そして待ちゆく一般人でさえ武装した人が多いし……何より兵士の数が多い。
 確実に魔族を意識しての事だろう。

「こちらになります」

 入った詰所の奥――兵士はとある扉の前で敬礼し、そのまま去って行った。
 おそらくこの扉の向こうに目的の剣士長がいるんだろう。

 ……にしても、少し緊張するな。
 なにせこの城壁都市の剣士長だ。
 どんな強そうな人物なんだろうか?
 ブレイヴ先生みたいなのが出てくると考えた方がいいだろう。

「開けるよアマネ」

 アマネは首を縦に振る。
 俺はそれを見て扉を開いた。

「よく来たな。私がこのアイルトンを統括する剣士長、キザイア・ギルバードだ」
「え……?」

 剣士長は女性だった――

 右目や所々に傷があるし、重厚な金属鎧を身に着けてはいるが……間違いない。
 ポニーテールにした紫がかった黒い髪に、紫色の瞳。
 体格が少し高いくらいの、女性だった。

「初めまして。アベル・マミヤです」
「……アマネ」

 俺達は一応挨拶をした。
 ……アマネのは挨拶と言えるのかわからないけど。

 それにしても意外だ。
 もっとオーガみたいな男が出てくると思った。

「これより君たちと共に新魔王を討伐するという任務を授かった。以後宜しく頼むぞ」
「はい。もちろんです」

 しかし、大丈夫なのか?
 一応女性だし、何より目に怪我を負っているけど……。

「何やら不満そうな顔だなアベル」
「い、いえそんな事は……!」
「安心しろ。私の実力はいずれ結果で示そう」

 そうキザイアさんが笑うと、

「剣士長! 魔族の連中がまた来ました!」

 扉が開かれ、兵士の一人が報告しに来た。

「ふっ、丁度いい。アベル、アマネ、この際にお前たちの力も見せてくれ」

 そう言って、キザイアさんはマントをはためかせながら現場へと向かった。

 ◇◇◇

「うおおおぉぉぉ!!」

 魔族は上空から急速に襲いかかる。
 それは降下の速度と重力を活かした力の有る一撃。
 しかし、

「っと!」

 キザイアさんは身体を軽くずらすだけでその一撃をかわす。

 だがそれだけではない。
 この時、俺の眼には見えていた。
 キザイアさんがかわすのと同時に、魔族の腹部に剣を添えていたのを。

 ――ザシュッッ!!

 上空から襲いかかる勢いを利用した、完璧なカウンター。
 その強力無比な一撃に、気付けばその魔族の身体は二つになっていた。

「お、おぉ……すごいですね」

 キザイアさんの剣技は実際すごい。
 一対一なら普通の魔族は絶対負けないだろう。

「ふっ当然だ」

 キザイアさんは不敵に笑いながらも、剣に着いた血を振り落とす。
 その慣れた仕草を見るに、彼女が歴戦の戦士である事が簡単に見て取れる。

「次来ますよ剣士長!」

 しかし束の間、新手の魔族が上空から襲ってくる。

「死ねい『闇刃ダークエッジ』!」

 魔族は空中で止まり、右手から漆黒の刃を飛ばしてくる。
 仲間の死を見て迂闊に近づくのは危険と判断したのだろう。

「甘い!!」

 しかし、キザイアさんは漆黒の刃をいとも容易くかわす。
 おそらくそれはスキルでも魔術でもなく、ただの体術――
 この強さ……半端じゃない!

「なッ! たかが人間如きがッ!!」
「次はこちらから行くぞ!」

 キザイアさんは腰を落とし、力をこめる。
 そして、

「『一直斬ストレイトスラッシュ』!!」

 メキメキ、という地面が砕ける音と共に、キザイアさんは空中へと飛んだ。

「なにぃッ! 人間がァッ!!」
「『闇壁ダークウォール』!」

 驚く仲間を助けようと、別の魔族が目の前に壁を作る。
 しかし、これなら――

「『絶体真眼』!!」

 俺はその壁を崩壊させる。

「ナイスだ! うぉおお!!」

 まるで地面から放たれた鋭利な槍の様な一撃。
 そのまま魔族は、圧倒的な斬撃で一刀両断された。

「クソ! こんな奴の相手なんて、やってられるか!」

 壁を作った魔族はその翼で逃げようとする。

「……逃がさない」

 だがアマネの声と共に、その魔族は背を向けたまま、血の噴水となった。

「ふぅ……これである程度は撃退できたようだな」
「はい。キザイアさんは強いですね」
「当然だ。何故なら私はここの剣士長だからな」

 キザイアさんは誇らしげだ。
 自分の力に自負があるのだろう。

「にしても、アマネといったか。君もすごいな」
「……」

 アマネはキザイアさんに答えない。

「すいません。アマネは人見知りで」
「そういうことか。しかし、これから共に旅をするのだ、よろしくな」

 キザイアさんはアマネに右手を差し出す。
 アマネは無言のままその手を取り、握手した。
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