最強勇者、最弱種族の為にスローライフを

一条おかゆ

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第一話 バイバイ勇者、また会う日まで

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「勇者様達だーー!!」

「きゃーースクナ様ー!! こっち向いてー!!」

「シールちゃーん!! 今日も可愛いよー!!」

 民衆は通りから、割れんばかりの歓声を飛ばす。
 その歓声の大きさからも分かるように、声を飛ばされている勇者達は民衆にさぞ人気なのだろう。

 だが、当の本人たち――五人の勇者はそんな彼らに笑顔一つ向けずに"謁見の間"前の階段を上っていく。
 彼らの足取りは重く、表情も心なしか緊張している。

 それもそうだろう。
 これから彼らが謁見するのは、このパーシェルジュ王国を統べる王なのだから。

「王門開門!!」

 階段を登り切った勇者達を見て、衛兵は5mはあろうかとも思われる巨大な扉を開いた。

 すると、その先にあるのは大理石で出来た巨大な大広間だ。
 汚れ一つない輝く床に、天井から下げられた黄金のシャンデリア。
 脇には近衛兵と思われる兵士達が整列し、幾人かは王家の紋章が刺繍された旗を掲げている。

 まさしく"謁見の間"という名前に相応しい場所だろう。

 そしてそんな大広間の最奥には、これでもかと装飾をちりばめた黄金の玉座が存在する。
 当然、そこには人が座っている。

 長い白い髭をたくわえ、頭には王冠、手には錫杖を持つその人物。
 彼こそが、勇者たちをこの謁見の間に呼んだ張本人――シャルル大帝だ。

「よくぞ来た。五指の勇者」

「「「「「ははっ!」」」」」

 シャルル大帝が口を開くと同時に、五人の勇者は右拳を地面につけ、左膝を立てるようにしてかしずいた。

「貴殿等のおかげで、オーク王との戦争にも終わりがようやく見えてきた。まずは感謝を述べよう」

「いえ、私どもは五指の勇者としての務めを果たしているにすぎません」

 五人のうちの中央にいる、暗い金髪の少年が答えた。

 少年はぶかぶかの白い上着に、青い短パン姿で、両腰には短剣を佩いている。
 そんな彼の身長は125cm程しかない。
 おそらくは、まだ子供なのだろう。

「良い返事だ」

「恐れ入ります」

 少年は深々と頭を垂れる。

「……が、今回は貴殿に伝えなければならない事があるのだ――スクナよ」

「僕にですか……?」

 (僕、何かやらかしたっけ?)

 少年は頭を上げ、疑問を顔に出す。
 思い当たる節が無いからだろう。

「そうだ。貴殿にだ、スクナよ。しっかりと聞いてくれ」

「はい」

 スクナは緊張に、生唾を飲み込む。

「五指の勇者が一人、小指の勇者スクナに告げる! 今この時をもってして、王国軍から貴殿を除名する!!」

「なっ!?」

 唐突な解雇。
 王の発したその宣言に、スクナだけではなく周囲の近衛兵達まで驚き始める。

「どうしてスクナ様が?」

「大陸中を探したってあれ程強い人物はいないのに……」

「やっぱり原因って……」

「……あぁ、だろうな」

 謁見の間を包み込む騒めき。
 それを破るかのように、

「王よ! 理由をお聞かせ貰えますでしょうか!」

 勇者の一人であるエルフが声を荒げた。

 そのエルフは身長150cm程の女性。
 黄金の川の様な金の髪に、人間離れした端正な顔立ちをしていて、その美貌だけでも国が傾くほどだ。
 更に青を基調とした彼女の服は、戦士にしては軽装で、白く瑞々しい太ももや肩は露出している。

「スクナはこの王国軍において最上級の戦力です! 彼を除名するのは、あまりにも……」

「あまりにも……何なのだ? 答えて見よ、シール」

「あ、あまりにも無――」

 無知、無体、無能。
 シールと呼ばれたエルフが何を言おうとしたかは分からない。
 だが彼女が発しようとした言葉は、いずれにせよ王への侮辱に繋がる言葉だろう。

 だからスクナは、彼女の口を塞いだ。

「むぐっ! んんっ!」

「王よ、シールの発言をどうかお許し下さい」

「……構わぬ。余も侮辱されるだけの行動をしていると自覚しておる」

 シャルル大帝は表情に陰りを見せる。

「……それを分かっていて、何故僕を除名するんでしょうか?」

「スクナも薄々とは分かっておるであろう」

「……僕が"プーミリア"だからでしょうか?」

 プーミリア――
 それは平均身長が120cm程度しかない小さな種族だ。

 身軽で手先は器用だが、身体は打たれ弱く、魔術は普通。
 更に多種族に対して、圧倒的に筋力が無い。
 そしてついた称号は――『最弱種族』だ。

「その通りだ。順調にいけば、オーク王との戦争もじきに終わる。だがその際に、最強の勇者がプーミリアであっては困るのだよ」

「……そうですか」

 このパーシェルジュ王国は、昔から亜人への差別意識が強い。
 だから奴隷身分のほとんどが亜人であり、亜人の国家である隣のミカシャ連邦と何度も戦争を繰り返している。
 そしてその影響が今、スクナに襲いかかったのだ。

「……ぷはぁ! じゃあ私はどうなるんですか! 私も半分は亜人のエルフですよ!!」

 シールはスクナの手を無理矢理どけて、王に抗議する。

「ハーフエルフなら民衆は許してくれるだろう。だが最弱種族であるプーミリアは別だ」

 しかし王はシールにきっぱりと言い放った。
 最弱種族は最強勇者の座から降りろ、と。

「そ、そんなっ……!」

「いいんだシール。……僕がプーミリアなのが悪いんだから」

 種族差別を受けるのは、スクナもこれで初めてじゃない。
 何度も何度も体験してきた。
 そしてその度に色々な事を諦めさせられてきた。
 だから――

「今までありがとうございました」

 スクナは王に背を向けた。
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