37 / 45
34話 最下層
しおりを挟む
「《ヒール》《リジェネ》。血液の損耗が激しいわね……《フィットネシェア》」
傷の治療、自然治癒力の上昇、輸血。
姉上は、至れり尽くせりの回復魔術を施してくれた。
「ありがとうございます、姉上。おかげさまで、体力も結構戻ったみたいです」
「いいのよ。それよりも、イオが無事だった事が、なにより嬉しいわ」
そう言うと姉上は、僕を強く抱き締めてくれる。
失血によって冷たく、硬くなった僕の身体に、温かさと柔らかさが沁みる。
……強敵と戦いに行って、帰ってきたのはいいけど、失血多量。
自分でまともに立てない状態だったのだ。
姉上をかなり不安にさせたことだろう。
「こんなに血を流して、危ない目に遭って……だから冒険者なんてやめたら、って言ったのよ。……すんっ」
僕の耳元で、姉上が鼻をすする音が聞こえた。
そういえば、ふらふらの僕を最初に見たとき、目元を袖で拭っていましたね……。
「こんなにも僕の事を想ってくれて……ありがとう、姉上。もしかしたら、姉上に心配して欲しくて無茶するのかも知れませんね?」
「もうっ、冗談でも怒るわよ」
むっとした表情で僕から離れるけど、手を握って温めてくれる。
「けーっ、羨ましいぜ、イオ。俺にも、美人で優しいメイドの姉がいればなぁ~!」
なんて言いつつ、僕らの元にレオンがやって来た。
両手一杯に、ホブオーガの落としていった大剣を抱えている。
「……それは? 戦利品として持ち帰るの?」
「いや、違ぇんだ。見てくれよ、ここ」
レオンが視線を落としたのは、大剣の"柄"。
そこに、文字が刻まれている。
『ニエル武具』、と──
「……はは。そんな気は、どことなくしてたんだんよね」
「俺達人間も、一枚岩ってわけじゃねぇんだな」
僕とレオンだけで進む話に、姉上が首を傾げた。
「? その『ニエル武具』の銘に、何か深い意味があるのかしら?」
姉上には、あまり詳しく説明していないんだっけな。
なら、ここは一から説明を。
「この前、僕の家が爆破されたじゃないですか。あれ、その『ニエル武具』とグルになった冒険者たちの仕業なんです」
「えぇ、それはレオンさんに聞いたわ」
なら話は早い。
「実は、『ニエル武具』の武器と防具を持った冒険者がこのダンジョンに向かっているのを、見たんですよ。それも、僕とベガがこのダンジョンの位置を報告する以前に」
「……。……そういう事なのね」
明晰な姉上は、理解したようだ。
家を襲撃してきた冒険者たちが、ニエル武具の武器・防具をこのダンジョンに渡していたという事を──
「人間が魔物を強化するなんて、世も末ね」
姉上は、呆れて肩を竦める。
だけど。
終わって欲しかったけど。
この話はこれで終わりじゃない。
僕らは地下室で、襲撃者の服の下で、"ある物"を見た。
おそらくそれが……
「イオ、休息中悪いけど、少しいいかな?」
聞き慣れた声に、僕は顔を上げた。
ベガと数名の冒険者が、真剣そうな表情でこちらを見ている。
「うん、いいよ」
「なら、こっちへ来てくれ」
僕は立ち上がり、踵を返したベガの背中を追う。
彼女の足はどうやら、玉座のほうへ向かっているようだ。
もっと正確に言えば、『玉座の下にあった地下への階段』のほうへ。
「私達はどうやら、とんだ勘違いをしていたみたいなんだ」
僕ら《彗星と極光》と数名の冒険者は、その階段を下りる。
百段近く下りたところで、ようやく扉に突き当たった。
「その勘違いが何なのか、今から教えなければならない」
ベガは閂を外し、扉を押し開く。
扉の先は、巨大な鍾乳洞だった。
二十メートル先の天井に、鍾乳石の柱がびっしり連なっている。
壁には、室内を淡く照らすヒカリセッカイガンが所々に。
そして、この鍾乳洞の中央には──
「お、おい……嘘だろ……。なぁ誰か、これは夢だって言ってくれよ」
「こんな事って、ありえるのかよ……。地下のさらに地下に……」
────ドラゴン。
「オーガシャーマンは……ダンジョンボスじゃない」
"体高十メートルはありそうな紅いドラゴン"が、丸くなって眠っていた。
傷の治療、自然治癒力の上昇、輸血。
姉上は、至れり尽くせりの回復魔術を施してくれた。
「ありがとうございます、姉上。おかげさまで、体力も結構戻ったみたいです」
「いいのよ。それよりも、イオが無事だった事が、なにより嬉しいわ」
そう言うと姉上は、僕を強く抱き締めてくれる。
失血によって冷たく、硬くなった僕の身体に、温かさと柔らかさが沁みる。
……強敵と戦いに行って、帰ってきたのはいいけど、失血多量。
自分でまともに立てない状態だったのだ。
姉上をかなり不安にさせたことだろう。
「こんなに血を流して、危ない目に遭って……だから冒険者なんてやめたら、って言ったのよ。……すんっ」
僕の耳元で、姉上が鼻をすする音が聞こえた。
そういえば、ふらふらの僕を最初に見たとき、目元を袖で拭っていましたね……。
「こんなにも僕の事を想ってくれて……ありがとう、姉上。もしかしたら、姉上に心配して欲しくて無茶するのかも知れませんね?」
「もうっ、冗談でも怒るわよ」
むっとした表情で僕から離れるけど、手を握って温めてくれる。
「けーっ、羨ましいぜ、イオ。俺にも、美人で優しいメイドの姉がいればなぁ~!」
なんて言いつつ、僕らの元にレオンがやって来た。
両手一杯に、ホブオーガの落としていった大剣を抱えている。
「……それは? 戦利品として持ち帰るの?」
「いや、違ぇんだ。見てくれよ、ここ」
レオンが視線を落としたのは、大剣の"柄"。
そこに、文字が刻まれている。
『ニエル武具』、と──
「……はは。そんな気は、どことなくしてたんだんよね」
「俺達人間も、一枚岩ってわけじゃねぇんだな」
僕とレオンだけで進む話に、姉上が首を傾げた。
「? その『ニエル武具』の銘に、何か深い意味があるのかしら?」
姉上には、あまり詳しく説明していないんだっけな。
なら、ここは一から説明を。
「この前、僕の家が爆破されたじゃないですか。あれ、その『ニエル武具』とグルになった冒険者たちの仕業なんです」
「えぇ、それはレオンさんに聞いたわ」
なら話は早い。
「実は、『ニエル武具』の武器と防具を持った冒険者がこのダンジョンに向かっているのを、見たんですよ。それも、僕とベガがこのダンジョンの位置を報告する以前に」
「……。……そういう事なのね」
明晰な姉上は、理解したようだ。
家を襲撃してきた冒険者たちが、ニエル武具の武器・防具をこのダンジョンに渡していたという事を──
「人間が魔物を強化するなんて、世も末ね」
姉上は、呆れて肩を竦める。
だけど。
終わって欲しかったけど。
この話はこれで終わりじゃない。
僕らは地下室で、襲撃者の服の下で、"ある物"を見た。
おそらくそれが……
「イオ、休息中悪いけど、少しいいかな?」
聞き慣れた声に、僕は顔を上げた。
ベガと数名の冒険者が、真剣そうな表情でこちらを見ている。
「うん、いいよ」
「なら、こっちへ来てくれ」
僕は立ち上がり、踵を返したベガの背中を追う。
彼女の足はどうやら、玉座のほうへ向かっているようだ。
もっと正確に言えば、『玉座の下にあった地下への階段』のほうへ。
「私達はどうやら、とんだ勘違いをしていたみたいなんだ」
僕ら《彗星と極光》と数名の冒険者は、その階段を下りる。
百段近く下りたところで、ようやく扉に突き当たった。
「その勘違いが何なのか、今から教えなければならない」
ベガは閂を外し、扉を押し開く。
扉の先は、巨大な鍾乳洞だった。
二十メートル先の天井に、鍾乳石の柱がびっしり連なっている。
壁には、室内を淡く照らすヒカリセッカイガンが所々に。
そして、この鍾乳洞の中央には──
「お、おい……嘘だろ……。なぁ誰か、これは夢だって言ってくれよ」
「こんな事って、ありえるのかよ……。地下のさらに地下に……」
────ドラゴン。
「オーガシャーマンは……ダンジョンボスじゃない」
"体高十メートルはありそうな紅いドラゴン"が、丸くなって眠っていた。
0
お気に入りに追加
210
あなたにおすすめの小説
勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す
大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。
その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。
地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。
失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。
「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」
そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。
この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に
これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
【完結】勇者PTから追放された空手家の俺、可愛い弟子たちと空手無双する。俺が抜けたあとの勇者たちが暴走? じゃあ、最後に俺が息の根をとめる
岡崎 剛柔
ファンタジー
「ケンシン、てめえは今日限りでクビだ! このパーティーから出て行け!」
ある日、サポーターのケンシンは勇者のキースにそう言われて勇者パーティーをクビになってしまう。
そんなケンシンをクビにした理由は魔力が0の魔抜けだったことと、パーティーに何の恩恵も与えない意味不明なスキル持ちだったこと。
そしてケンシンが戦闘をしない空手家で無能だったからという理由だった。
ケンシンは理不尽だと思いながらも、勇者パーティーになってから人格が変わってしまったメンバーのことを哀れに思い、余計な言い訳をせずに大人しく追放された。
しかし、勇者であるキースたちは知らなかった。
自分たちがSランクの冒険者となり、国王から勇者パーティーとして認定された裏には、人知れずメンバーたちのために尽力していたケンシンの努力があったことに。
それだけではなく、実は縁の下の力持ち的存在だったケンシンを強引に追放したことで、キースたち勇者パーティーはこれまで味わったことのない屈辱と挫折、そして没落どころか究極の破滅にいたる。
一方のケンシンは勇者パーティーから追放されたことで自由の身になり、国の歴史を変えるほどの戦いで真の実力を発揮することにより英雄として成り上がっていく。
全て逆にするスキルで人生逆転します。~勇者パーティーから追放された賢者の成り上がり~
名無し
ファンタジー
賢者オルドは、勇者パーティーの中でも単独で魔王を倒せるほど飛び抜けた力があったが、その強さゆえに勇者の嫉妬の対象になり、罠にかけられて王に対する不敬罪で追放処分となる。
オルドは様々なスキルをかけられて無力化されただけでなく、最愛の幼馴染や若さを奪われて自死さえもできない体にされたため絶望し、食われて死ぬべく魔物の巣である迷いの森へ向かう。
やがて一際強力な魔物と遭遇し死を覚悟するオルドだったが、思わぬ出会いがきっかけとなって被追放者の集落にたどりつき、人に関するすべてを【逆転】できるスキルを得るのだった。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。
ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。
身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。
そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。
フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。
一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。
最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】
僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。
そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。
でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。
死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。
そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる