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25話 足止め

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「全員、僕の指示を聞いてください!」

 回転する僕の脳みそが、よくない予想をしていた。
 それを避けるために、最大限の努力をする。

「そこの三人は、倒れた三名を担いで! あなたは荷物を持ってあげてください! それ以外は捨て置いて構いません!」
「いや、先に《キュア》が、解毒ポーションを……」
「安全な場所に着いてからにしてください!」
「あ、あぁ……っ」

 僕の必死の剣幕に、反論はなくなった。
 《ガンマ・グラミ》の四名の冒険者は、僕の指示に従ってくれた。

「早く! ダンジョンの奥へ逃げてください!」
「わ、分かった!」

 負傷者と荷物を担ぎ、奥へと走る四名。

 ……考えてみれば、全てが不自然だった。

 しばらく見当たらなかった敵。
 かなり奥深くまで探索してからの、奇襲。
 ゴブリンが使うとは到底考えない『透明化』。

 一つ一つは、不自然なピースだけど。
 全てを組み合わせると、自然と"ある答え"が導き出される。

「僕らはゴブリン共に、ダンジョンの奥深くへと誘い込まれたんだ……!」

 その答えに、いまいち理解を示してくれないレオンが首を傾げた。

「だけどよ、イオ。ベガとヒマリアさんが倒したじゃねぇか、今の敵」
「違うよ、レオン。今のは、ただの足止めだ。だからこそ、"麻痺毒"をトラップにしたんだよ」

 毒矢を食らったあの三人に息はあった。
 あれだけ即効性の毒なら、死んでもおかしくないはずだ。

 だけど死なないのは、"麻痺毒"だからなんだろう。
 そう考察すると、一つの疑問が湧き出る。

 ──確実に冒険者を倒したいと思ったら、麻痺毒なんて使う?

 麻痺毒なんて、『生きているけど動けない』状況にするだけだ。
 しかし。

 そこが付け入る隙だ。
『生きているけど動けない』状況の仲間を見捨てられるほど、人間は冷酷じゃない。
 このダンジョンの主は、それを知っているんだ──

 ドタドタドタドタドタドタドタドタドタッッ!!

 大量の足音が、段々と迫ってくる。
 それも、"僕達の来た方向から"。

「仲間の解毒に励む背後を、『透明化』しておいた本隊が襲撃……。正直、完璧な作戦だ。おそらく僕らは、奴らとどこかですれ違っていたんだろうね……っ!」

 その事実に、鳥肌が立つ。

 魔物が『透明化』なんて高度な事をしてくるとは、普通考えない。
 実際、討伐隊の誰も、そんな可能性は考えなかった。

 だからこそ、気が付かなったのだろう。
 透明化したゴブリン共が、横で息を潜めてなんて……。

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』
『UGYOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!』

 まるで津波のように、ゴブリンの大群が押し寄せてくる。
 その足音と雄叫びが、暗いダンジョンに響き渡る。

「……どうやら、相当に頭の切れる奴がダンジョンボスのようだね」

 と、呟いた僕の肩に、
 ポン。
 ベガが手を置く。

「だけど、それを看破して素早く対処したイオは、もっと頭が切れると思うよ。……さぁイオ、指示を」

 僕は、頷いた。

「あの量を四人で倒すのは流石に厳しい! だから、戦いはしないよ!」

 万一勝てたとしても、消耗は激しいだろう。
 体力や魔力が底を突きた状況で、ダンジョンから脱出できるとは思えない。

 なら、ここは戦闘を避けるべきだ!

「幸い、森とは違ってダンジョンには広さの限界がある! 先頭集団さえ止めてしまえばいいはず!」

 僕は部屋に入り、ゴブリンの死体から短剣を十数本、拾い上げる。
 通路に戻るや、それを全て上に放り、

「レオン! これをあいつらの頭上で壊して! 《ブラストウィンド》ッ!」

 風魔法を詠唱。
 突風が背後から発生し、短剣を前方へ吹き飛ばす。

 レオンは三本同時に弓を番え、

「《爆裂魔弓》ッ! 《爆裂魔弓》! 《爆裂魔弓》! 《爆裂魔弓》──ッ!」

 矢継ぎ早に四連射。
 計十二発の《爆裂魔弓》を放ち──

 ゴブリンの頭上に到達した短剣を、的確に爆裂させる!

 飛び散る細かな金属片。
 それが刺さり、小さな悲鳴を上げるゴブリン達。

 かなり多数のゴブリンに命中した。
 しかし、傷は浅い。

 足を止めるには至らず。
 突っ込んで──来られない。

「GYU……a……!」
「A……PII……ッ!」

 "麻痺毒でも食らった"かのように、その場に倒れ込んだ。

 さらに、後続のゴブリン達も、倒れた仲間の身体につまずく。

「あの短剣に毒が塗られているのは、分かっていたよ! ベガ、姉上に《マギアップ》を!」
「《マギアップ》」

 ベガは、姉上に短剣を向け、詠唱。
 魔術の威力を底上げする支援魔術だ。

「姉上、全力の電撃をお願いします!」
「えぇ……《ライトニングスピア》!」

 姉上は短杖を振るう。
 すると頭上に、雷の槍が出現。

 だが、この一本だけでは終わらない。
 元来の才能と、魔術強化の支援(バフ)。
 それらの効果によって、雷の槍が三十本ほど複製される。

 そして姉上は、杖をゴブリンのほうへと向けた。
 大量の雷の槍が、同時に放たれる。

 しかし、そう簡単に当たるとは限らない。
 僕らとゴブリン共の間には距離がある。

 普通なら、半数あたれば良いほうだろう。
 だけど。

『GYOOEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE──ッ!』

 三十の雷槍が、三十のゴブリンに命中する!

 しかも、電撃の威力は凄まじい。
 周囲のゴブリンも感電し、そのゴブリンから更に別のゴブリンへと感電する。

 そうして百匹近いゴブリンが感電し、気絶した結果。

 倒れたゴブリンの山──即席のバリケードが出来上がった。

 それを見た姉上は、満足げな笑みを浮かべる。

「ふっ。毒で躓いた先頭と押し寄せる後続によって、今以上に密集し。加えて、その刺さった金属片は"避雷針"となる……」

 姉上は両手を広げ、僕の頭に抱き着いた。
 柔らかく温かい感触に、顔が包まれる。

「うわっぷ……っ!」
「あの一瞬でよく考えたものね。お兄様が認めてくださらなくても、イオは帝都で一番の天才よ。姉として……いえ、メイドとして誇らしい限りだわ」

 ほ、褒め過ぎだから!
 それに、め、メイドが主に抱き着かないでぇ……!

「イオ、お義姉さん、今のうちに行くよ! 奴らが目覚める前に逃げるんだ! ほら、レオンも羨ましそうな眼で見てないで!」
「俺も、美人なメイドさんに抱き着かれたいんだが……」
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