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間章1 中衛のいないパーティ―(side :ブレイズ)

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 仄暗い洞窟。

 焚き火に当たる二人の人物がいた。

 一人は、体格の立派なタンク。
 ブレイズ。
 もう一人は、洒落たウィザード。
 ライヤ。

 イオが元いたパーティーの、二人である。

「それにしても、ざまぁねぇな、イオの奴。たった二日で全てを失ったんだぜ?」
「当然の報いでしょ。一人だけレベルが低いんだから。むしろ、今まで入れてあげてたことを感謝して欲しいくらいね」

 嘲笑うかのような表情を浮かべる二人。
 ブレイズは魔力ポーションを一気に呷ると、「ハハハ!」と哄笑した。

「ま、本当はテレーズが欲しいから追放したんだけどな。イオに金が無くなれば、自然と愛想尽かされるだろうからな、ハハハ!」
「あたしだって忘れてないから、あいつに筆記試験の主席卒業の座を奪われたこと。マジで信じらんないんだけど」

 ライヤも魔力ポーションを一気飲みすると、真実をこぼす。

「だから、ランベルク家から勘当してやったのよ。あいつの兄さんに策を持ちかけたら、大喜びだったよ、『これで当主の座に一歩近づいた』って。はっ、ざまぁ」

 鼻で笑うライヤ。
 長い杖を手に取り、証拠となる領収書を、《ファイア》で燃やし尽くす。

 イオの追放・寝取り・勘当は、二人の計画通りに進んだ。
 それこそ一切の誤差なく、イオを陥れることに成功した。

「今頃、何してるんだろうな?」
「野垂れ死んでるか、乞食でもやってるんじゃない? はたまた、奴隷か男娼にでもなってるとか?」
「ま、ろくでもないことになってるのは確実だろうな、ハハハ!」

 ダンジョンに響く下卑た笑い。
 そこに、可愛らしい幼な声が混じる。

「えらく楽しそうにしてるじゃねぇか。いいことでもあったのか?」

 エルフの少女が、そこへ姿を見せる。
 華奢で小さな体躯に、不揃いな大剣を背負った、ファイターだ。

 洗った後なのか、エルフらしい黄金の髪をタオルで拭いている。

「もういいのか、リエン?」
「あぁ、血は取れた。そろそろ行こ……」

 どんっ!
 リエンの言葉を遮るように、足音が響く。

 ブレイズは大盾に。
 ライヤは長杖に。
 リエンは大剣に。
 それぞれ、自分の得物に手を掛ける。

「UMMMMMMM……」

 洞窟の奥から現れたのは──"ホブオーガ"であった。

 三メートルもある、筋骨隆々の肉体。
 手には両刃の戦斧。
 オーガの、上位種である。

「ちょっと、何で急に来るのよ!?」

 ライヤの怒りに、リエンが答える。

「てやんでい! イオがいないから、誰も偵察ができねぇってんでい! ったく、なに唐突にいなくなってやがらあ!」

 リエンは真実を知らない。
 ブレイズとライヤは口裏を合わせ、イオが『勝手に独りでいないくなった』という事にしてある。

 リエンはパーティー内で最もレベルが高い。
 それはつまり、ギルドからも一番評価されているという訳で。

 "もしも"は無いと思われるが、万が一にでも、イオを追って抜けられては困るのだ。

「おら、ボケっとしてねぇで、ブレイズ! 前に出ろやい!」
「分かってるよ!」

 ブレイズは大盾を前に、パーティーの最前線へ。

「UGOOOOOOOOOOO!」

 ホブオーガは戦斧を両手に握り締め、ブレイズめがけて横薙ぐ。

「《イモービリゼーション》!」

 武技の発動により、赤銅色に輝く大盾。
 その正面に、巨大な戦斧が衝突。

 人間の十倍はあろう筋量なのだ。
 いかに体格のいいブレイズと言えど……とはならない。
 赤銅色に輝く大盾は、微動だにしない。

「UGAAAAAAAAAAAAAAAAッ!」

 これが武技の力だ。

 武技とは、魔術同様、魔力を用いて発動される人間の叡智だ。
 人によっては、武技と魔術を併せて『スキル』と呼ぶものもいる。

 偉大な先人たちが人生をかけて編み出した、人間の技術の粋なのだ。
 その効果は見ての通り。
 振るわれたホブオーガの戦斧は、大盾にぶつかって以降、一切進まない。

「ブレイズ、そのまま耐えてな!」

 ホブオーガに生じた隙。
 見逃さず、リエンは大地を蹴る。

 低空でホブオーガへと飛び迫った。
 眼前で足を止め、低く構える。
 小さな手は、背の大剣の柄を握った状態で。

「《炎陽》!」

 横に回転しながら、大剣を抜き放つ。

 ざじゅンッ!

 ホブオーガの膝が、半分ほど切り裂かれた。

 武技とは、一度放てば止まらない。
 止めたくとも止められない。

 リエンは回転の勢いを殺さず、そのまま一回転。
 いつの間にか黄金色に輝いた大剣を、もう一度回転斬り。

 次は、ホブオーガの大腿が半分ほど切り裂かれた。
 飛び散る血飛沫。

 さらに回転は続く。
 むしろ、速度と遠心力を増して、威力を増大させる。

 三撃目は腰。
 骨を斬り砕く。
 四撃目は腹。
 臓物を斬り潰す。
 五撃目は胸。
 筋肉を斬り断つ。

 竜巻のような連続五回転から放たれた強烈な五連撃に、

「GOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」

 ホブオーガは痛苦の雄叫び。

 前衛職・ファイターとして、十分すぎる攻撃だ。
 リエンの体格も考えれば、誰もが拍手を送るであろう。
 しかし、

「イオの《ストレングロース》がねぇと、真っ二つには出来ねぇ!」

 これでも普段より威力が低い。
 いつものリエンなら、たかだか全身筋肉の巨体程度、容易に一刀両断できる。

 だが今日は、できなかった。
 その理由も明白だ。

「AGAAAAAAAAAAAAAAAAAAA──ッ!!」

 怒り狂ったホブオーガは戦斧を構え直す。
 今度は、リエンめがけての横薙ぎ。

「……っぶねぇてんでい!」

 だが彼女は、小さな身を屈めて回避する。
 頭上を通り過ぎた戦斧が、

 ガァンッッ!

 武技の効果が切れたブレイズの大盾へと、ぶつかった。

「ぬおうッ!」

 吹き飛ばされるブレイズの肉体。
 数メートルも横へ飛び、壁にぶち当たる。

 大盾と金属鎧のおかげで戦闘不能にはならないが、仲間と距離が離れた。
 タンクとしての大事な役割が、放棄されたも同然だ。

「AAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

 リエンに向けて、ホブオーガの振り下ろしの一撃。

「《ペイルフレイム》!」

 ライヤの放った蒼い火球が顔面に命中するが、巨体は止まらない。
 顔を燃やされたまま、"大地を"斬り抉る。

「おい、ブレイズ! 早く戻りやがれ! ふざけんじゃねぇぞ、べらぼうめ!」

 リエンは横に跳び、すんでのところで回避。
 しかし、周囲に撒き散らされた大地の破片が、その身体を掠めてゆく。

 薄く切れた白い腕や脚から、血が伝う……。

 いつもは苦戦しないような相手でも、今回は苦戦しそうだ。
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