DEATHGAME~裏切りと信念の姫~

ひいらぎななみ

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六章

最後の希望

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(……ボクは、死ぬかもしれない……)
 そんなことを思いながら、探索していると「大丈夫っすか?ユウヤさん」とラン君に聞かれる。
「ん……大丈夫だよ」
「そうっすか?……それにしては顔色が悪い気がしますけど……」
「そう?……ちょっと疲れてるのかも。気にしないで」
「それなら、休んだ方がいいっすよ」
「うん、タイミングを見て休むね」
 ごめんね、と笑顔を浮かべるとラン君は不安そうにしながらもレイさんのところに走った。
 少しして、ボクがロビーのソファに一人座っていると、
「もしもし」
 女性の声が聞こえ、バッと顔をあげた。そこには着物を着た桜色の髪の女性が立っていた。
「え、あの……」
「アトーンメントはどこにいるか知ってる?」
 そう聞かれ、ボクはキョトンとした。アトーンメントって……あの、伝説の情報屋のこと?
「実は、「彼女」に救援要請されてね。……知らないなら、ちょっと隠れるから誰にも言わないでくれる?」
「えっと……誰ですか?」
 ボクの質問にその女性はクスクスと笑う。
「君達の味方……とだけ言っておくよ」
 それだけ答えて、彼女は去って行ってしまった。
 ……彼女は、「アトーンメント」の正体を知っているようだ。
 だって、もし知らなければ「彼女」なんて断定できない。でも、なんで知っているのだろうか……?
(それに、あの人……見たことがある気がする……)
 そんなことを思いながら、ボクは立ち上がった。

 何も手かかりを見つけられないまま、全員がロビーに集まっていると「メインゲームが始まります」と放送が聞こえてきた。顔を見合わせていると、「行くぞ」と兄さんが先を歩き出す。
 ついていくと、「おう、来たか」とスズエさん達の父親が笑う。
「スズカから聞いているよな?これからメインゲームを始めよう。その前に……」
 と彼……コウシロウはスズエさんの方を見た。
「スズエ、お前が電話番だったな。前に出ろ」
「……何?」
 呼ばれた本人は睨みながら前に出る。それには答えず彼が指を鳴らすと、彼女の前に公衆電話が出てきた。
「……あぁ、そう言えば電話番は誰かの役職を奪えるんだったね」
「そうだ。まぁ、よく考えて奪えよ?」
 コウシロウはニヤニヤしながら娘を見ている。スズエさんは少し考えこんだ後、受話器を取って、
「……ユウヤさんの役職を奪う」
 そう、言った。
(……え?何、言ってるの……?)
「ユウヤの役職を奪うんだな?本当に」
「あぁ。ユウヤさんの役職でいい」
「了解。それなら、ユウヤの役職は平民になったからな」
 混乱している間にそんな会話が聞こえてきた。視線に気付いたのかスズエさんがボクの方を見て、小さく口角をあげた。
「それじゃあ、始めるぞ!」
 コウシロウがもう一度指を鳴らすと、階段が出てくる。そこを上がると、不思議な形の机が人数分置かれている広い場所に出た。
「自分の名前がある場所に立て」
 そう言われ、ボク達はそれぞれ名前のある机に立つ。アイトと兄さんは参加者じゃないからか、二人から離れたところに立っていた。
「さて……本当は最後の一人になるまでメインゲームをするつもりだったんだが、今回は特別ルールだ。
 ――もし、電話番であるスズエが身代を盗んでいたらほかの奴らは解放してやる。しかしそうじゃなければ……身代と選ばれた奴は処刑だ」
(……え……)
 それって……スズエさんは、死ぬってことじゃないか……。
「それでいいだろ?スズエ」
「……逆らえると思ってるの?みんなを人質に捕られてるって言うのに」
「アッハッハッ!それもそうだな!」
 面白そうに笑う親に、スズエさんはただため息をつくだけ。ボクのせいで、スズエさんが生き残ることが亡くなってしまった……。そんな罪悪感が、胸を支配する。
 メインゲームとやらが始まり、レイさんが「先に聞きたいけど、ユウヤのもともとの役職は何?」と聞いてきた。
「その……」
「その前に、鍵番が誰かを探しませんか?」
 ボクが答えようとすると、スズエさんが遮るように告げた。
「でも、知っていた方がいいんじゃないかなー?」
「仮に身代だとしても、どうせ最後には分かりますから。それより絶対に入れてはいけない鍵番を出す方がいいんじゃないですか?」
 いや、どういう理論……?
 そう思うけれど、確かに鍵番を先に出した方がいいかもしれない。その人に入れないようにしないといけないから。
 一瞬、シーンとしてしまったけどシルヤ君が恐る恐る手をあげる。
「……その、鍵番は、オレっす……」
 そして、小さくそう言った。特に反論する声は……なさそうだ。
「なるほどね、それじゃあシルヤ君には入れない方がいいねー」
 ケイさんの言葉にスズエさんも「えぇ、そうですね」と頷く。少なくとも弟が死なないことに安心しているようだ。
「じゃあ、それ以外から選べってことだよな」
 タカシさんが呟くと、再び静かになってしまった。
「……その、本当に選ばないといけないんですか……?」
 キナちゃんがうつむく。言ってしまえば、これは「命の選別」と同義だ。大人ですら気が病んでしまうのに、子供達はもっとつらいだろう。
「ほらほら、時間がないぞ?」
 コウシロウが焦らせるような言葉を発してくる。ボクはギュッと拳を握り、
「……あの、スズエさんに……入れませんか?」
 そう、口を開いた。スズエさんが驚いたように、ボクの方を見る。
「ボク、平民だったんです。だからボクか、スズエさんに……」
「ま、待ってください!」
 ボクが嘘を言おうとすると、スズエさんが叫ぶ。
「違います!私は……私は、身代です!だから私に入れないで!」
「スズエさんは平民だ!だから」
「もう、いいよ」
 ボクとスズエさんが正反対のことを言っていると、レイさんが悲しげな表情を浮かべる。
「……ユウヤ、もともと「身代」……だったんだよね。だから、スズエを助けようとしているんでしょ?」
「……っ!」
「そうじゃなければ、君がわざわざスズエを選べって言うわけがない」
 そう言われ、ボクは口をつぐんでしまう。実際、そうじゃなければボクだってスズエさんに入れろとは言わなかっただろう。
「ユウヤの気持ちも分かるけど、今は私情をはさむわけにはいかないよ……」
 レイさんが目を伏せながらボクに言い聞かせる。
 分かってる、この場合……スズエさんを、犠牲にした方がいいってことぐらい。
 でも、そんなの……。
「ユウヤさん……」
「…………」
「ユウヤ!ちゃんと聞いて!」
 考え込んでいるとスズエさんに大声で呼ばれ、ビクッと震えてしまう。恐る恐る彼女の方を見ると、彼女は小さく微笑んでいた。
「……大丈夫、私だって何も対策せずここに立っているわけじゃないよ」
「……スズエさん」
「桜色の髪の女性に会ったんでしょ?」
 その言葉に、ボクはハッとなる。そのことは誰にも言っていない。それなのになんで知っているのだろう?そう思ったけど、彼女はただ微笑むだけだった。
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