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六章

彼との取引

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 私が少し歩いていると、緑髪の青年――アイトが近付いてきた。
「……スズエさん」
「どうした?アイト」
「ごめんね、本当につらい役目を背負わせて……」
「それならシルヤに謝ってくれ。……あの子はずっと気分が沈んでいるんだ、お前の言葉かけ一つでも変わってくると思う」
 私の言葉にアイトは「そうだったらいいけどね……」と悲しげに笑った。この男はサイコパスだが、身内に入れた人間には優しいのだと知っている。
「なんか、酷いこと考えていなかった?」
「気のせいだ。……アイト、お前もそろそろこっちに戻ってこい」
「……そうだね。シンヤも寝返ってくれたし、いいタイミングかも」
「スズエ、何しているの?」
 アイトと話していると後ろから声をかけられ、ビクッと肩が跳ねる。振り返るとレイさんが立っていた。
「……別に、関係ないでしょう。私は裏切り者ですよ?」
「関係ある。……裏切り者でもないのに」
 彼からその言葉が出てくるとは思っていなかった。驚いていると彼は紙を渡す。それを受け取り、内容を読むと両親が書いたものと思われるものだった。
 スズエは簡単に脱出出来てしまう。そうならないためには足枷が多くないといけない。
 そうだ、スズエを「裏切り者」という扱いにしよう。シルヤも同罪にしてしまえば、あいつは絶対に弟を守るよう立ち回るハズだ。これ以上ない足枷ではないか。
 大まかに言えば、そんな内容。……頭のいい彼が、その意味に気付かないわけがない。
「これってさ、俺達が人質に捕られていたから従わざるを得なかったって解釈でいいよね?」
「……ノーコメントで」
「それは肯定とみなすよ」
 はぁ、とレイさんはため息をついてアイトを見る。
「……この「足枷」って、君も入ってるよね?」
「だとしたら何?」
「……取引しない?」
 彼の提案に私とアイトは顔を見合わせる。
「……どんな取引?内容によっては受け入れないけど」
 そして、アイトがそう言った。レイさんはクスクスと笑う。
「別に、難しいものじゃないよ。
 君達が知っている情報が欲しい。その代わり、俺も君達の望むものを出来る限り準備する。どうかな?」
「……フフッ、本当に面白いね、レイさんって。いいよ、教えてあげる」
 それでいいでしょ?と聞かれ、私は頷く。ここまで言われて断る理由がない。
「そうだね……このゲームがいつから計画されていたのかは知ってる?」
「いや、分からないね。ここ数年のことじゃないの?」
「……エレンが生まれた時だよ。どこかに書いてあった気がするけど、エレンが巫女姫の力を持っているって知ったからデスゲームを計画し始めていたらしいよ。……ボクも、同意書なるものに名前を書いちゃったしね」
 同意書……?と首を傾げているとアイトが懐から小さめの紙を取り出した。それには同意書とその旨が書かれていた。……一言で言うなら、奴隷契約のようなものだけど。
「これは……」
「君も書いたでしょ?レイさん」
「……うん」
 それを見た瞬間、レイさんが顔を青ざめさせた。
「……これって」
「スズエさんにも見せたことあるでしょ?目の前で破ったけどさ」
「うん。去年、カフェでお茶した時のものだよね?」
 それを見た時のことを思い出しながら目を伏せてしまう。
 この同意書は、一部分だけ塗る潰されて見えなくされていた。さすがにそのことを知っていたわけじゃないが、私は自分の願い事を自分で叶えたいと思っていたからこれを書かなかった。アイトもそれを知っていたから、私の言葉を聞いた時目の前で破いてしまったのだ。
 アイトは他にも、相手側の情報を教えてくれた。
「……なるほどね。それで、何をしてほしいの?」
「本当に何かしてくれるんだ?」
「約束だからね」
「本当に、誠実というかなんと言うか……別にいいよ、もともと何か求めて教えたわけじゃないし」
 確かに、レイさんは疑い深いけど約束は守る男性だ。私も別に何かを期待して教えようと思ったわけではないし、気にはしない。
「スズエさん、レイさんと一緒に戻りな。ボクも準備ができ次第そっちに戻るから」
「え、でも……」
「大丈夫だよ、不安がらないで」
 アイトに背中を押され、私はレイさんの隣に立つ。レイさんは私の手首を優しく掴むと、「……行こう」と呟いた。
「アイト、出来るだけ早めに来てね。……遅かったら裏切ったと判断するから」
「分かってるよ」
 そしてアイトにそう言った後、そのまま歩き出してしまった。戸惑ってしまうけれど、何も言うことは出来なかった。
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