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六章

彼女が連れてこられた理由

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 アイトが去っていった後、ボク達は無言のままソファに座っていた。
「……スズエさん」
 ボクが口を開くと、彼女はこちらを見た。その目には何も映っていない。
 でも、ボクは知っている。
「君の瞳には、どんな未来が映っているの?」
 ――彼女の瞳には、いろんな未来が映ることを。
 それは、祈療姫がかつて使うことの出来た力の一つだ。そして彼女は、そんな巫女の生まれ変わりなのだ。……そしてボクも、巫女を守ると決意した妖狐の生まれ変わりだった。
「……そう、ですね。少なくともいいものではないですよ」
 スズエさんはそう言って遠くを見た。その視線の先には、棺がある場所。
「……ユウヤさん、約束してくれますか?」
 そこを見たまま、彼女は言葉を紡いだ。
「もし、私とシルヤの命が天秤にかけられた時は……シルヤを、守ってくださいね」
 耳に入ったその言葉にボクは彼女を見たけど、何も感情を読み取ることが出来なかった。

 朝、スズエさんがようやく寝るとほかの人達が集まってきた。
「あれ?スズエ、寝てるの?」
 レイさんが首を傾げながら彼女の寝顔を見る。
「えぇ、さっき寝たばかりで……」
「スズエ、昨日は戻ってこなかったっすからね」
 ラン君も同じようにスズエさんを見る。顔色が悪いけど、比較的穏やかに眠っていた。
「そっとしておこうかー」
 ケイさんの案に頷き、全員頷いた。
 そのまま、探索を始める。スズエさんの近くにはエレンさんとシルヤ君が寄り添っていた。
 ボクは近くの本棚を調べる。研究書ばかりでよく分からないけど、レイさんが隣で「へぇ……こうなんだね……」と呟いていた。
「レイさんは理解できるんですか?」
 ボクが尋ねると「うん。これぐらいだったら分かるよ」と彼は頷いた。
「例えばこれ、記憶のことを書いているんだよ」
 そうやって教えてくれた。
「頭いいんですね」
 そう言うと、彼は少し寂しげな表情を浮かべた。
「そうだね。まぁほかの人よりかは頭がいい自覚はあるよ」
「いいですね、ボクももう少し頭がよければスズエさんをしっかり守れたんだけどなぁ……」
「ユウヤは、本当にスズエのことが好きなんだね」
 レイさんがクスクスと笑う。
「好きって言うか、その……」
「守護者、だっけ?そんなのと関係なく一人の女性として好きでしょ?」
 そんなことを言われ、顔が熱くなる。事実だけど、ボクはスズエさんが幸せならそれでいいって思っている。
「……俺も、こんな出会い方じゃなかったら何の気兼ねもなく好きになっていたんだろうなぁ……」
 そう呟く彼の声は優しくも悲しげなものだった。

 少しして、ロビーに集まる。スズエさんは疲れていたのかまだ眠っていた。
 キナちゃんがスズエさんの傍に行き、
「……スズエさん」
 彼女の名前を呼んだ。すると薄く目を開き、
「ん……?何、キナ……」
 目をこすりながら起き上がってきた。それに驚いたキナちゃんが目を丸くしていると、「あれ?キナじゃなかった?」とスズエさんは眠そうにしながらも首を傾げる。
「ご、ごめんなさい……起こしちゃって……」
「気にしなくていいよ、起きてこないといけなかったし」
 キナちゃんの頭を撫でながら微笑む。それを見たフウ君も駆け寄って「ぼくも!」とねだった。
「本当に小動物に懐かれてるねー」
 ケイさんがケラケラと笑う。確かに、と思わなくもない。
 スズエさんがフウ君とキナちゃんを撫でていると、「あ、あの……これ、見つけたんだ」とレントさんが紙を渡してきた。
「なんだ、これ?」
「よく分からないけど、私達の名前が書かれているんだ……」
 それを見てみると、ボクが持っているものと同じだと気付いた。スズエさんはそれを見て、目を見開く。
「……なんで、スズエのパーセントがゼロなんですか?」
「それはスズエが絶対に死ぬからだ」
 エレンさんが戸惑ったような言葉に答えるように後ろから声をかけられた。振り返ると、そこには黒髪の男性……スズエさん達の父親が立っていた。
「……絶対に死ぬ?どういうこと?」
 ユミさんが睨みつけると、彼はクスクスと笑った。
「スズエはな、お前達が生き残るための「調整役」でありお前達の願いを叶えるための「キーマン」なんだよ。……実際、スズエと出会って人生変わっただろ?あぁ、記憶はないか」
 面白がるように笑う目の前の男にスズエさんはギュッと手を握った。
「こいつはお前達のことを覚えていたのにな」
 そう言えば、と思い出す。CDの中でスズエさんはキナちゃんの名前を呼んでいた。後輩であるナナミさんのことはともかく、キナちゃんの名前は知らなくてもおかしくないのに……。
「……やっぱり、お前がみんなに何かしたのか」
 スズエさんの雰囲気が変わる。ふらりと立ち上がり、父親に近付いた。
「おー、怖いなぁ。そんな殺気を出すなよ。お前の父親だぞ?」
「黙れ、てめぇなんざ父親でも何でもない。人の心を捨てたようなクソ野郎、同じ血が流れてるってだけで吐き気がする」
「スズエ、落ち着いて下さい」
 今にも殴りかかりそうな彼女を、エレンさんが羽交い絞めにした。それを見た父親は「まさかお前が止めるとはな、エレン」とにやついた。
「……私だって、あなたを殺したい衝動を抑えているんですよ。これ以上その臭い息を吐かないでくれません?」
「酷いなぁ。まぁでもまだ死にたくはないから今回は退散するか」
 それだけ言って、彼は去っていく。スズエさんが舌打ちをした後、「ごめんなさい、兄さん」とエレンさんに謝った。
「いえ、大丈夫ですよ。兄さんもあいつを殺してやろうかって思ってしまいましたから。……でも、シルヤもいるんです。私達が冷静でいないと」
「うん……分かってる」
「大丈夫ですからね、兄さんが守ってみせますから」
 エレンさんの優しい言葉に、スズエさんは少しだけ安心した顔で頷いた。
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