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五章

二人の計画

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 二人は壁にもたれかかり、お互いの傷を見る。
『うわぁ……痛かったでしょ?』
 スズエさんがシルヤ君の手首を見て悲しい顔をする。
『スズ姉だって、酷いじゃんか』
 どうするか二人が悩んでいると『大丈夫?二人とも』と見知った声が聞こえてきた。
『……っ!?アイト!?』
『二人が怪我してるって知ったから救急箱を持ってきたんだ』
 アイトはスズエさんに救急箱を渡す。それを受け取り、彼女はシルヤ君の傷の手当てを始めた。
『ありがとう、アイト』
『ううん。いいよ、これぐらいなら』
 アイトも手伝いながら、肌色の包帯を巻いていく。
 二人の手当てが終わると、『……ねぇ、最初の試練の人達は……?』とスズエさんが不安げに聞いた。
『……まだ部屋の中だよ。君達が出たら多分処分されるんじゃないかな?』
「……酷い……』
 アイトの答えにシルヤ君が呟く。アイトもスズエさんも目を伏せた。
『……あいつらは人の心がないからね』
『ねぇ、ユキナさんの連絡先なら覚えてるからさ。回収して彼女に託そう?』
 スズエさんの言葉に『いいの?』とアイトはキョトンとした。
『うん。……だって、生きていたじゃん。それなのに理不尽に命を奪われた挙句弔いもしてくれないなんて、あまりにも酷すぎるよ』
『……そう、だね。分かった、バレないように手早く回収しよう』
 アイトも頷き、三人でそれぞれ丁寧に遺体を回収しに向かった。バラバラになっている人ですら、手で一つずつ丁寧に。
『……ごめんなさい、助けられなくて……』
 スズエさんが小さく謝る。それを聞いて、アイトとシルヤ君が彼女の背中を撫でた。
『……君のせいじゃないよ。だからそんなに自分を責めないで』
 その言葉を聞いて、スズエさんは我慢していた涙を流す。何度も何度も「ごめんなさい」と呟きながら。
 一か所に遺体を集め終わり、三人は座り込む。
『……ねぇ、どうしたらいいの……?』
 スズエさんが膝に顔をうずめながら尋ねる。
『私、ほかの人を殺す覚悟なんてないよ……。でも、シルヤを殺したく、ない……』
『……スズ姉……』
 彼女は、本当に愛情深く心優しい。だからこそ、他人を殺すことなんて出来ない。
 アイトは少し考え込み、二人を抱きしめる。
『……大丈夫だよ、ボクが守ってあげる』
『え……?』
『ボクは三回目のフロアマスターで、あんまり干渉できないけどさ……一回目と二回目のゲームを乗り越えてくれたら、ボクがどうにかしてあげる』
『でも、それじゃアイトが……』
 アイトの言葉にスズエさんは首を横に振る。その理由はすぐに分かった。
『……アイトが、死んじゃうよ……』
 涙声になりながら、スズエさんは訴える。しかしアイトは『大丈夫』と優しく微笑んだ。
『ユウヤもいるし、エレンも君達の味方だ』
『…………』
『二人なら、きっと君達を守ってくれる。なんでったって君達の「ヒーロー」だからね!』
『……フフッ、何、それ?』
 アイトのその言葉に、二人はようやく笑った。それを見て『やっと笑ってくれたね』とアイトも微笑む。
『二人とも、そうやって笑っていた方がいいよ。それに、二人がヒーローだって言うのも嘘じゃないからさ』
『うん、ありがとう』
 多少の寂しさを宿しながらも、二人は頷いた。
『とにかく、ボクがフロアマスターとしての権限を振りかざせるところまでは二人でどうにか乗り切って。そのあとは三人で協力してみんなを助け出そう』
『うん。じゃあ私達は何も知らないふりをするよ』
『あぁ。その方が都合いいだろうしな』
 そう言って、三人は顔を見合わせた。
 そこで、一枚目のCDが終わる。二枚目を読み込むと、スズエさんとシルヤ君が部屋で話し合っている場面が映った。
『……スズ姉、本当に大丈夫なのかな……?』
 シルヤ君が不安げに尋ねる。スズエさんは『大丈夫だよ、お姉ちゃんがどうにかしてあげるからさ』と頭を撫でた。
『アイトだって、どうにかするって約束してくれたしさ。……お前だけは、絶対守ってみせるよ』
『オレだって、スズ姉を守るよ』
『ありがとう。……でも、私が裏切り者だって気付かれるかもしれない。今のところ順調に進んでるけど、もしバレたら……その時は、お姉ちゃんを見捨ててね』
『え……?』
 スズエさんの言葉に、シルヤ君は絶望の表情を浮かべる。
『……知ってるんだ、私、生きてここから出られる確率は限りなく低いって。それなら、少しでも生き残るお前を生かすべきだろ?』
『……でも……』
『ユウヤさんもエレンさんも、本当に悪い人じゃなさそうだしさ。私が殺されても、二人を頼ってここから脱出してね』
 シルヤ君は涙を浮かべながら、姉を抱きしめる。
『……絶対に、一緒に脱出しよう』
『……そうだね。約束は出来ないけど……一緒に脱出しよう』
 そう言って、抱きしめ返した。
 二枚目のCDはそこで終わった。シルヤ君は黙り込んでしまっていた。
「シルヤ君」
 ケイさんがシルヤ君に声をかける。ビクッと彼が震えて怯えた様子で彼を見た。
「もっと俺達にも頼ってほしかったなー」
「え……?」
 その言葉に、シルヤ君は目を丸くする。
「ちゃんと話してほしかったし、二人で抱え込んでほしくなかったよー」
「ご、ごめんなさいっす……」
「謝ってほしいわけじゃないんだよ。君達だって、俺達に頼りにくかったと思うしさ。……でも、君達はまだ子供なんだ、だから頼りにしてほしかったよ」
「……それは……」
「……でも、スズちゃんはあんな性格だからねー。確かに頼りにくかったよねー、俺もほかの人達もピリピリしてしまってたし……スズちゃんしか、頼る人いなかったもんね」
 それは、逆も同じだ。スズエさんもシルヤ君も、お互いしか頼りあうことが出来なかった。そんな中で、全員の命まで抱え込まないといけなかったのは……どれほどの負担だっただろうか。
 ケイさんがシルヤ君の頭を撫でる。
「スズちゃんにも伝えてくれる?もう少し大人に頼れってさー」
 彼の言葉にシルヤ君は涙を浮かべながら頷いた。
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