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12:アリシアの愛(サラフィエル視点)
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君も、あの日に帰りたいのか?
アリシア。
君が望むなら私は、その祈りも聞き届けよう。
たとえ君に愛されなくても、私は、君を愛し続けるよ。
そう、心で呼び掛けていた時。
アリシアは膝を折り、レオナルドの肩にそっと手を掛けた。
「泣かないで」
優しい呼び掛けにレオナルドが情けない顔を上げる。
男のくせに泣き落しなど、白けるにも程がある。
実際、周囲の人間たちは呆れや嫌悪でその表情をこわばらせている。
あからさまに嫌な顔をしている者も少なくはない。
「アリシア……!僕たちは、また、仲良くやっていけるかな……?」
震える声で縋る元婚約者にアリシアが下した判決。
清らかな風のような美しい声とともに、アリシアは首を振った。
「あなたにはもう、守る人がいるの」
「アリシア……!」
「私との関係は過去のもの。もう婚約者を傷つけないで」
「……ああっ」
がくりと項垂れたレオナルドだったが、観念したのか深く何度も頷いた。
「わかったよ。君が正しい。僕は、僕は心を入れ替えて、きっといい夫になるよ。それがせめてもの償いで、恩返しだから」
「私の為ではなく、イザベラ様の為に生きて。レオナルド」
「そうだよね……」
レオナルドが泣き笑いの顔をアリシアに向ける。
アリシアも優しい笑顔を返した。
ああ、こんな奴にまで、君は本当に優しいねアリシア。
でもよかった。
あの日のように、君の愛に相応しくないこの男にまた甘い顔をするかと一瞬だけ焦ったよ。
アリシア。
君は、今、もう、私を見てくれているんだね。
「レオナルド。私の婚約者を紹介するわ」
そう言ってアリシアが立ち上がり、私の腕にそっと手を添える。
「私が心から尊敬し、感謝して、大切に想っている人。フィリップ・ド・モンテスキュー公爵閣下よ」
アリシアの為に人間界へと下り、私の名となったその文字列。
私を想う美しい心が声に乗せられ、優しく耳を撫でる。
「……!!」
レオナルドが驚愕し、やっと私の存在を思い出したようだった。
アリシアを想うあまり我を忘れていたのだけは褒めてやる。
「閣下……!お、お許しください……!」
いくら侯爵家への婿入りが決まっていようと、一介の伯爵令息が公爵の婚約者を泣き落しで口説き落とそうとしたのは重罪だ。
だが、私は人間ではない。
アリシアが世界で一番美しい魂を天に返すその日までは共に人間となって生きるとして、私は私、天使サラフィエルである。
アリシアの想いは伝わっている。
「レオナルド卿。アリシアの愛に免じて今日のことは不問とする」
「あ、ありがとうございます……っ」
「但し、二度目はない」
「はい……!」
私はアリシアをそっと抱き寄せた。
「愛しているんだ。アリシアを奪われたら、私は世界を滅ぼし兼ねないよ」
「二度とこのような無礼は致しません……!」
「今度こそ、自分の婚約者を大切にしなさい。そして結婚したら、自分の妻を命をかけて守りなさい」
「はい……っ、必ずそうします……!」
レオナルドは頭を低くして約束した。
それから、去り際を弁えた様子で後ずさり、最後に一言、こう言い残した。
「御婚約おめでとうございます」
その時の目の色は、幾らか、真心のこもったまともなものだった。
◇ ◇ ◇
さて、問題は女の方だ。
イザベラにはアリシアに対する嫉妬が生まれ、やがて敵対心が育つだろう。
その時、レオナルドはイザベラから逃げられない。
私が逃がさない。
アリシアと私に約束した愛を貫く様を、じっくりと眺めさせてもらおう。
今後レオナルドとイザベラには、アリシアに指一本たりとも触れさせない。
世界を滅ぼさなくても済むようにという意味でも、アリシアの環境は私が守る。
私がアリシアを愛した。
その私が常にアリシアに相応しい男であるように、品位と慈悲を忘れないでいたい。
愛するアリシアが望んだ幸せな人生の為に。
アリシア。
君が望むなら私は、その祈りも聞き届けよう。
たとえ君に愛されなくても、私は、君を愛し続けるよ。
そう、心で呼び掛けていた時。
アリシアは膝を折り、レオナルドの肩にそっと手を掛けた。
「泣かないで」
優しい呼び掛けにレオナルドが情けない顔を上げる。
男のくせに泣き落しなど、白けるにも程がある。
実際、周囲の人間たちは呆れや嫌悪でその表情をこわばらせている。
あからさまに嫌な顔をしている者も少なくはない。
「アリシア……!僕たちは、また、仲良くやっていけるかな……?」
震える声で縋る元婚約者にアリシアが下した判決。
清らかな風のような美しい声とともに、アリシアは首を振った。
「あなたにはもう、守る人がいるの」
「アリシア……!」
「私との関係は過去のもの。もう婚約者を傷つけないで」
「……ああっ」
がくりと項垂れたレオナルドだったが、観念したのか深く何度も頷いた。
「わかったよ。君が正しい。僕は、僕は心を入れ替えて、きっといい夫になるよ。それがせめてもの償いで、恩返しだから」
「私の為ではなく、イザベラ様の為に生きて。レオナルド」
「そうだよね……」
レオナルドが泣き笑いの顔をアリシアに向ける。
アリシアも優しい笑顔を返した。
ああ、こんな奴にまで、君は本当に優しいねアリシア。
でもよかった。
あの日のように、君の愛に相応しくないこの男にまた甘い顔をするかと一瞬だけ焦ったよ。
アリシア。
君は、今、もう、私を見てくれているんだね。
「レオナルド。私の婚約者を紹介するわ」
そう言ってアリシアが立ち上がり、私の腕にそっと手を添える。
「私が心から尊敬し、感謝して、大切に想っている人。フィリップ・ド・モンテスキュー公爵閣下よ」
アリシアの為に人間界へと下り、私の名となったその文字列。
私を想う美しい心が声に乗せられ、優しく耳を撫でる。
「……!!」
レオナルドが驚愕し、やっと私の存在を思い出したようだった。
アリシアを想うあまり我を忘れていたのだけは褒めてやる。
「閣下……!お、お許しください……!」
いくら侯爵家への婿入りが決まっていようと、一介の伯爵令息が公爵の婚約者を泣き落しで口説き落とそうとしたのは重罪だ。
だが、私は人間ではない。
アリシアが世界で一番美しい魂を天に返すその日までは共に人間となって生きるとして、私は私、天使サラフィエルである。
アリシアの想いは伝わっている。
「レオナルド卿。アリシアの愛に免じて今日のことは不問とする」
「あ、ありがとうございます……っ」
「但し、二度目はない」
「はい……!」
私はアリシアをそっと抱き寄せた。
「愛しているんだ。アリシアを奪われたら、私は世界を滅ぼし兼ねないよ」
「二度とこのような無礼は致しません……!」
「今度こそ、自分の婚約者を大切にしなさい。そして結婚したら、自分の妻を命をかけて守りなさい」
「はい……っ、必ずそうします……!」
レオナルドは頭を低くして約束した。
それから、去り際を弁えた様子で後ずさり、最後に一言、こう言い残した。
「御婚約おめでとうございます」
その時の目の色は、幾らか、真心のこもったまともなものだった。
◇ ◇ ◇
さて、問題は女の方だ。
イザベラにはアリシアに対する嫉妬が生まれ、やがて敵対心が育つだろう。
その時、レオナルドはイザベラから逃げられない。
私が逃がさない。
アリシアと私に約束した愛を貫く様を、じっくりと眺めさせてもらおう。
今後レオナルドとイザベラには、アリシアに指一本たりとも触れさせない。
世界を滅ぼさなくても済むようにという意味でも、アリシアの環境は私が守る。
私がアリシアを愛した。
その私が常にアリシアに相応しい男であるように、品位と慈悲を忘れないでいたい。
愛するアリシアが望んだ幸せな人生の為に。
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