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6:最期の言葉

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一歩、一歩。
足を進める。

あなたに会うために。

通い慣れた道でもないのに迷う事もなく辿りつけたのは、きっと天使様のおかげね。

「レオナルド」
「──」

そんなに驚かないで。
あなたが痩せ細り今にも死にそうなときだって、私は傍に居た。

私は幽霊ではないから、どうか恐がらないで。

「レオナルド。あなたに──」
「此処で何をやっている?此処は君が来ていい場所ではないよ」
「……」

そう。
もう、私が嫌いなのね。

私と婚約していたことなんて、忘れてしまいたいのね。

「ちょっと。何事なの?」

美しい人が駆け寄ってくる。
天使様から聞いた、イザベラ侯爵令嬢……

未来も、幸せも、何もかも約束されたかのような完璧な令嬢。

「……」

でも。

どんなに完璧に見えても、この方の心は人の心だから。

「レオナルド。何があっても、奥様の味方でいてあげて。心の支えで……いてあげてね」
「帰れ!」
「レオナルド……」
「寄るな!うつる!!」

パシン!

「……?」

頬を叩く音に、少しだけ驚いた。
感覚が鈍くなってしまっているから。

打たれたのは私ではなく、レオナルド……

「レオナルド。私と結婚したいなら、慈善活動にも身を入れてちょうだいね」

イザベラ嬢がレオナルドを叩いた手を揉み合わせ、次に私の肩に触れた。

「これをあげるから、二度と貴族の館に近づいては駄目よ」
「……」

お金。

「困った時は教会に行きなさい」
「……」

私の姿はもう、貴族らしさの欠片もないということ。

施しを求める貧しい人だと思われたようだった。
でも、それでよかったのかもしれない。

私がレオナルドの元婚約者アリシアと知られたら、もっと大事になってしまうかもしれない。

お父様やお母様、親戚にも迷惑をかけてしまったかもしれない。

これでよかった。
恵んで頂いたお金は孤児院に寄付しよう。

「……ありがとうございます」

深く深く跪く。

イザベラ様。
どうかレオナルドを大切にしてください。

レオナルド。
どうかイザベラ様を大切にしてください。

神様によって結ばれた二人が、永久に幸せで過ごせますように。

さようなら。

「気を付けて」

私がアリシアとは気づかないイザベラ嬢は、最後まで優しかった。

少しだけ体が重い。
少しだけ、悲しかったからかもしれない。

背中を向けて歩き始めるとレオナルドが大声で叫んだ。

「あれはアリシアだ!」

一拍置いてイザベラ嬢も怒鳴った。

「なんですって!?」

ああ、どうして……

どうして、こうなってしまうのだろう。

「!」

突き飛ばされて転ぶ。

「お返し!」

お金を捥ぎ取られたけれど、それはよかった。
どう思われてもいい。

もう私は消えるから。

二人が幸せに生きていけるなら、それでいい。

この涙は……少し、寂しいだけだから。
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