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3:天使の囁き

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──アリシア、可哀相に。あの男は君を愛していなかったみたいだね

レオナルドが出て行った扉を見つめていたら、涙でぐにゃりと歪んだ。
私、捨てられたのね……

──君が捧げた命に相応しい男ではなかったね

寒い。
悲しい。

辛い。

……でも。

「いいの」

──え?

「私は愛していたのだもの。私が、そうしてあげたかったの」

──えっと、君……

「彼に愛する人がいるなら、過ちを犯さなくてよかったわ……」

──もしかして忘れた?君の命と引き換えにレオナルドを生かしてあげたってこと

「それでよかったのよ」

──恨もうよ

「そんな……悲しいこと、できません。本当に、愛していたから……っ」

悲しい。
胸が張り裂けそうに痛い。
衰弱した体で震えるほど泣くのが、凄く痛い。

──恨まないの?

「愛しているの……!」

──恨めないんだね。君は、優しすぎるから。

「う、うぅ……っ」

声を押し殺して泣くのは、寂しいから。
恨んだりできない。

ただ、最期の瞬間まで、傍にいて欲しかった。
せめて秘密にしてほしかった。

でも、もう、レオナルドは行ってしまった。

本当に愛する人のもとへ……

──傍にいて欲しかったんだね

「……神様、どうか、レオナルドを、幸せに……」

──可愛いアリシア。今からでも元に戻してやってもいいんだよ

「やめて!」

──命を懸けて、愛したんだね

「……レオナルドが幸せになってくれるなら、それでいいの……」

──失敗した。出来心で貰うには、君の魂は綺麗すぎたよ

「いいえ……ありがとう……ありがとうございました、神様……」

涙が止まらない。
でも、不思議と笑顔が溢れてくる。

だって、幸せだから。

──ああ、本当にそう思っているんだね。君の愛は本物なんだね

「ありがとうございました……神様……」

──なんとかしてあげたいな

「おやすみなさい……」

──ええと、待ってね

「……」

──アリシア?

おかしい。
天使なのに、私のことを心配してるの?

──そうだよ

優しい方ね。
だからレオナルドを助けてくれたのね。

──なんか、ごめん

私の祈りを聞いてくれて、安らかに眠らせてくれて、本当にありがとう。

──アリシア、聞いて。君からレオナルドを奪った相手はイザベラ・ド・モンフォール侯爵令嬢というらしい

そうなの?

──身分違いの恋のつもりでもいいけど、アリシアを捨てて挑戦するものじゃないよね

──アリシア?

──アリシア!


  ◇ ◇ ◇


──アリシア。どうかもう一度だけ私に祈って欲しい

──君の為に

──君の幸せの為に……
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