能天気男子の受難

いとみ

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ルシオンは、テオルドとマクビルと共に、ダンスパーティの時に付けていた生花のブローチを貰い、ヒューリの部屋に来ていた。
何もしないよりは、気休めだと解っていても、何かしたかった。

ヒューリはあの日からずっと、眠り続けている。見た目はただ寝ているようで変わらないが、ソフィー先生が言うには、生気は失われているらしく、たまに魔法で与えないと体力的にも弱っていくそうだ。

ルシオンは、自分にも何か出来ないかと、色々考えていた。
もしかしたら、前世で見た漫画や小説で、聖人と呼ばれている自分が祈れば、ヒューリは目を覚ますかもしれない、と軽い気持ちでルシオンは祈ってみた。

そして、ヒューリが目を覚ます……………なんて事はなく、眠り続けていた。
少しがっかりしたものの、そんな厨二病のような事が出来ると考えていた自分が恥ずかしく思えた。
そして、テオルドとマクビルに慰められて、自室に戻った。


◆◆◆ 


そして、またしても黒い人影の被害者が出てしまった。

ルシオンが、その知らせを聞いたのは翌日の朝だった。
早朝に『ジオード様!急用です!』と部屋のドアが叩く音がして、バタバタと人の足音で目が覚めた。

ルシオンはぼんやりする頭で『テオルド様が…。』と聞こえて、はっと目が覚め寝室の扉を開けた。

「テオルドが、どうしたの?」

ジオードは、呼びに来ていたカーネリア家の侍従と部屋を出る所だった。

「貴方には関係ありません。」

イラついているジオードに、冷たく言われ立ち尽くす。
自分が行っても、何も出来ない、邪魔になるだけかも知れないと思ったが、やっぱりテオルドの事が心配になり、ルシオンもテオルドの部屋に向かった。

テオルドの部屋に行くと、早朝にも関わらず人垣が出来ていた。

まさか、テオルドは命に関わるほど危険な状態なのか…と思うだけでルシオンは胸が苦しくなる。
足取りも重くなり、ドキドキしながら部屋を覗いた。

そこには、マクビルやセレスもいた。そしてソフィー先生が、横たわっているテオルドに両手をかざして、魔法を使って様子を診ていた。

「ただ…眠っているだけよ。……ヒューリと同じ症状だわ。」

この場にいた全員が打ちひしがれた。

テオルドまでもが、黒い人影の被害者になり、さらには眠り続けるという奇妙な症状になってしまうとは…思いもよらなかった。
美少女のような見た目の割りに、頼りがいがあって、いつもフォローしてくれていたテオルドの笑顔が見れなくなると思うと、ルシオンは涙が溢れていた。
だが、そんなルシオンに気付いたジオードは、近付くと胸ぐらを掴んで怒鳴り付けた。

「誰のせいだと思っているんですか!?貴方がやったんでしょ!貴方が持っている闇属性の魔法で!」

ルシオンは一瞬、ジオードが何を言っているのか解らなかった。最近では、全然使ってもいなかった為、自分でも闇属性を持っていた事を忘れていたくらいなのだ。

「闇、属性で…何を…?」
「黒い人影は闇属性の持つ、魔法の1つですよね。だから俺は、貴方の監視役として同室だったんですよ。こんな危険な人物を、今すぐに地下牢に閉じ込めて下さい!」

ルシオンにとって、ジオードの告白は衝撃だった。
嫌われていたのは知っていたが、危険人物として監視されていたとは。
何とか仲良く出来たら…と思っていた自分が馬鹿みたいだった。

「待て、まだルシオンがやったという確証は何もない!ジオード、落ち着いてくれ。」

セレスは、ルシオンがやったとは思っていなかった。むしろ、冷静に状況を把握していた。

「そうだ!テオルドと仲が良かったルシオンが、そんな事をやる訳がない!」

マクビルもまたルシオンを庇った。
それでもジオードは、兄をこんな目に合わせただろうルシオンが許せなかった。

「彼を地下牢に入れれば解ることです。」

地下牢は、どんな魔法も使えなくなる不思議な魔石で囲まれた場所だ。そこに数日間、ルシオンを入れて黒い人影が現れなければ、確証が得られる。

「…良いよ。俺、地下牢に行くよ。ごめんね……テオルド。」

ルシオンは、もう何も考えたくなかった。
無意識のうちに闇属性で、黒い人影を操り皆を襲っていたかもしれないと思ったからだ。
そう思うと、何故自分が被害に会わなかったのか理解した。当たり前だ、操っていた張本人だったのだから。

両脇を警備員に囲まれ、ルシオンは連れていかれた。
その背中がルシオンの悲痛な心情を表していた。

セレスは耐えられなくなり、ジオードを力ずくで壁に追い詰める。

「監視役って、どういう事だ!?」
「そのままの意味です。俺は警護してたんじゃない。ずっと監視してたんですよ。」

ジオードの方が少し背が高くても、さすがのセレスには敵わない。

「地下牢で全て明らかになりますよ。」
「ルシオンが犯人じゃなかったら…解ってるな、ジオード。」

セレスは不適な微笑みでジオードを見る。
その微笑みは美しいのに、周りを凍りつかせる力を持っていた。
この男が、エルーシ殿下の右腕と言われている意味が理解した。



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