能天気男子の受難

いとみ

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俺は心配になり、テオルドと一緒にマクビルの部屋に向かった。

部屋に入ると、マクビルはソファに座っていたが、何かが変だ。
「マクビル?」
恐る恐る、声をかけてみる。だが、聞こえていないのか、ぼーっと外を見ているだけだった。
今度は、マクビルの肩を叩きながら、また呼び掛けてみた。

「ああ、ルシオン。」

振り返ったマクビルは、穏やかな顔をしていた。

…やっぱり違う。いつものマクビルじゃない。
騎士を目指していたマクビルは、常に鋭敏な動きで何事も動じなくて、でも心配性で…。真っ直ぐ正直な性格で、…なのに………こんな穏やかなマクビルは見たことがない。

「マクビル…大丈夫か?」

そんな、ありきたりな事しか言えない自分が情けない。

「うん。大丈夫。」

そう言いながら、マクビルは微笑む。
あの強い眼差しをしていたマクビルが、優しく微笑んでいるなんて、俺は一瞬頭が真っ白になる。
隣にいたテオルドに、一応聞いてみる。

「あれ、誰?」
「マクビルだ。」

あー、やっぱりそうだよな。

「事件があった後から、あの感じで…、気持ち悪いだろ?」

確かに、いつも堂々としている奴が、物腰柔らかくなると、ちょっと気持ちわ………ゲフンゲフン…変だよな。

「だけど、害は無いんだろ?」
「ああ、害も毒もない。」

「………マクビルには、いつも世話になってるし、俺が今日、側にいるよ。」
「今日だけだぞ。いつ元に戻って、狼になるか解らないからな。」
「は?」
時々、テオルドは意味不明な事を言うんだよな。

「よし、マクビル、ぼーっとしててもつまんないから、剣術でもしようぜ。」

「そんな怖い事は、出来ないよ。」

………やっばまり前途多難だな。



その夜は、一緒に夕食を部屋で食べて、一緒のベッドで寝た。
ぼーっとする事はあったが、マクビルは子供みたいで、リアクションが可愛かった。


「夕食持ってきたぞ。一緒に食べよう。」
「うん。あっ!足で扉を閉めたらダメだよ。」
「あぁ、ごめんごめん。へへへっ。」

いつものマクビルが、やってる事なんだけどな。

「一緒にベッドで寝て良いか?」
「うん。良いよ。お泊まりごっこだね。」

はははは、ここまで来ると面白くなる。
俺は、イタズラ心がむくむくと沸き起こり、布団に入ってマクビルの脇をくすぐった。

「あははは、やめて!くすぐったい。ははははは。」
「ははは、マクビルの弱点、見破ったりー。」

俺達は布団の中で、笑いながら暴れた。
転がってそして、いつの間にか俺が下になっていた。
ふと、マクビルを見ると、驚いたような顔になっていた。

「ルシオン?」

ん?俺を呼ぶ声が、子供のようなそれとも違い、いつものマクビルの呼び方だった。

「マクビル?…もしかして…元に、戻ったのか?」
「ルシオン…。」

マクビルの反応が、ちゃんと戻ったのか解らなくて、不安になり見つめる。
だが、だんだん顔が近づいてきて、唇と唇が重なる。
しかも、唇を割って舌を入れて深いキスをしてくる。
子供のようなマクビルが、するはずがない。やっぱり元に戻ったんだ。
だけど、いきなりキスって…。

「んんんっ。」
「やっぱり、本物のルシオンだな。」
「アホー!」

やっと唇を解放したかと思えば、何を言ってるんだ。
俺の大声を聞いて、廊下にいた警備員がドアを開けて入って来た。

「何事ですか?大丈夫ですか!?侵入者ですか?」




どうやら、マクビルは本当に元に戻ったようだ。
夜中なのに、ソフィー先生が駆けつけてくれた。

「どこか痛い所は?」
「無いです。」
「腕を見せて頂戴。」

マクビルが、黒い人影に触られたという腕を、袖を捲って出して見せる。
俺もさっき見せてもらったが、赤黒かった痣は跡形もなく無くなっていた。

「えーと、襲われてからの記憶はある?」
「…襲われて、腕を見ると痣になっていて……………今日は何日ですか?そして、ルシオンがどうして俺の部屋に?」
「覚えてないのね。」

覚えていないのか。
ここ数日間、マクビルが何をしていたか、と言うよりは、どんな様子だったか…。絶対言わない方が良いな。あれは…恥ずかしいはずだ。
とりあえず良かった。

「じゃ、俺は部屋に戻って寝ます。」

聴取なら明日になってからだろうと思って、そう言ったのだが

「ダメだ。俺と一緒に寝るんだ。」
「え?」
「うーん、そうね。明日の朝になったら、また…幼児化、なんて事になるかもしれないし…今日は泊まりなさい。」

そ、そうだよな。元に戻ったからと言って、また精神だけ子供にならないとも限らない訳だし。

「じゃあ、明日また来るから、私はもう行くわ。」

そう言ってソフィー先生は、手をひらひらと降って出ていった。
急に2人っきりになると、さっきのキスを思い出して、恥ずかしくなってくる。

「ほら、来いよ。」

しかも、マクビルはもうベッドに入っていて、布団の端を持ち上げて、隣に来るように、誘っている。
ぎゃー!そんなの少女漫画みたいじゃないか!?しかも似合ってるから、負けた気しかしない。

「その…寝るだけだぞ。」
「当たり前だ。」

仕方なく、隣に入る。
とすぐに、マクビルは俺を、抱き締めてきた。俺は、何とか離れようと腕に力を入れるが、マクビルに敵うはずもなく、さらに抱き締める力が強くなる。

「今日は、このまま…。」

そうマクビルに、切なく囁かれれば、俺はここから出られなくなった。ピタッと密着している為、少し暑苦しいが我慢するしかない。そしていつしか、俺は眠りについていた。



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