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転生して、そして直談判

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この世界には未知が多い。
神により祝福された人間、それも、転生者や召喚者。
どの事象もどんな魔法のスペシャリストであっても解読不可能と言われている。 
どのような事象で行われているのか、転生者や召喚者は今、現在どうしているのか。
各国の重鎮を始めとした多くのものが見つけて取り込もうとしたが敢えなく失敗に終わった。
そんな転生者である主人公、アスカルト・フォン・ミリアルは一体どのようにしてこの世界に生まれ、生きているのだろうか。

♦︎♦︎♦︎♦︎

「いらっしゃいませ、ようこそ我が工房へ」
ミリアル王国、城の直下の王都、カタールの片隅に工房主である俺の声が響いている。

俺、アスカルト・フォン・ミリアルはこのミリアル王国の第一王子、十五歳。
つまり、現時点で俺が王太子とと言うことになる。
そんな大層な身分の俺がどうして市井で店をやっているのか、それには色々と深い訳がある。

♦︎♦︎♦︎♦︎

それは十五年前、いや、前世まで遡る。
俺はしがないサラリーマンだった。
ある日、突然暴走したトラックに撥ねられて呆気なく死んだ。
あぁ、なんてありふれた異世界転生の鉄板みたいな死に方なんだろうと頭が霞ゆくその中で考えていた。
次に目を覚ました時には、アスカルト・フォン・ミリアルとして生まれ変わっていた。

何の因果か、はたまた暴走トラックに撥ねられたら異世界転生するというジンクスがあるのか、考えても答えは出ないし前世の俺は死に記憶だけが残っている。
今更あれこれ考えても仕方がない。
生まれ変わったその日に俺はアスカルト・フォン・ミリアルとして自由に生きていくことを決めた。

ただ、ここで一つ問題があった。
そう俺が、一国の王太子であるということ。
王太子である以上、自由に生きていくことなんて出来ない、そして、この問題に気付く前に俺は自由に生きていくために必要な全ての知識を頭に叩き込んでしまっていた。

この世界の教育水準というのは低く、四則演算が完璧なら一人前にやっていけるというもので、地理は歴史は前世で好きだった分類の教科だったため意外とすんなり入って来た。
帝王学は特に必要ないと思っていたが、少し興味があったため一通りのことは覚えた。

そして、この世界には特徴として魔法が存在する。
科学が進歩していた地球では天地がひっくり返っても使うことができない。
まさに人類の夢だ‼︎
魔法も嬉々として取り組んだし、王族として魔力が多かったことも幸いして習い始めて一年と経たずに全ての魔法を覚えた。

で、そんな受験生並みに頭に叩き込んでいたのが、五歳の頃。
そのせいで神童と呼ばれ周りからは物凄く、期待を寄せるばかり、俺の自由な生き方は潰えた、かと思ったが、諦めなかった。

「市井で民衆と共に暮らしてみたいです」
と、父上である国王ラーバスに訴えた。
俺が十二歳の頃だ。
王太子の座を辞せないのなら、理由を付けて市井で暮らせば良いそう思ったのだ。
父上は凄く驚いた様子だった。
そして、捨てられた子犬みたいな顔になっていた。

国王がそんな顔をして良いのか、威厳に関わらないのか些か疑問ではあるけど、放っておいて、この父親何気に親バカだ。
「アスカルト、それは正気か?市井では国家騎士が目を光らせているとはいえ、危険が伴ってくる可能性だってあるんだぞ。市井で暮らしていくことはお前が思っている以上に辛いことだ。それでも暮らしたいと思うか?」
父上は俺の腹を探るかのように聞いてくる。
願わくば行かないで欲しいというのが本音なんだろう。

それでも‥‥‥、
「尚更、市井で暮らしてみたいと思います。民衆がそのような暮らしをしているのに、いずれ国を背負って立つ王太子が知らないでどうしますか。父上、これは、王太子としての試練だと思っては頂けませんでしょうか」 
それでも自由が欲しい、それに、今言ったことも理由だ。
どんなに足掻いても王太子として最後は国王となり役目を果たさないといけない。
一時の自由、そして、民衆の本音、それが聞けたら十分だ。

「陛下、宜しいのでは無いですか。アスカルト殿下が王宮で学ぶことはもう殆どありません。本来なら王立魔法学園に行かなければなりませんが、そこでも、学ぶことはないと学園長からのお墨付きもあります」
俺の言葉に対してフォローを出したのは宰相のナーラルヤ・ハスマンだった。
「そうであったな。分かった、アスカルトよ、お前が市井で生活することを許可する。ただし、期限を設ける、成人年齢十八になるまでだ。また、命に関わることがあった場合はお前の身を優先し、直ちに王宮に戻ってもらう。良いか」
「はい。では、失礼致します」
そう返事をし、謁見の前から出ようとすると扉が勢いよく開いた。

開けたのは母上で王妃のサリーアだった。
母上は父上よりも親バカだ。
一歩でも前に進んでいたら勢いよく飛んでいくところだった。
「陛下!どういう事ですか、私の可愛いアスカルトを市井で暮らさせるなど。私に相談もなく酷いですわ」
父上は母上の突然の乱入に頭を抱えている。
盗み聞きしていたのだろう。
「サリーア、落ち着け、市井で暮らしたいと申したのはアスカルトだ。王太子としての試練として欲しいとな。アスカルトは優秀だ。学園長から学園ではないとお墨付きも貰っていたことを忘れたか?それに、十八までを期限とし命の危険があれば王宮に連れ戻す」
母上は俺に真偽を確かめるために目を向けた。
「母上、父上の仰る通りです」
「あら、そうなんですのね。てっきり陛下のご指示かと。取り乱してしまいましたわ」
恥ずかしそうに母上は顔を赤らめた。

それから、は大変だったけど、あっという間に過ぎた。
荷物を運んだり市井に家を買ったりと。
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