上 下
31 / 46
7章

リュイと卵(2)

しおりを挟む
 次の日、朝起きてからいつものように準備をする。部屋を出て、調理場に向かった。棚から食材を出して朝食の調理を始めたころ、二階からバタバタと足音がしてリュイが私の近くまで走ってきた。その手には卵が握られている。
「リュイ、どうしたの? そんなに慌てて」
「サラ、見てください! これ!」
 そう言ってリュイは両手を広げ、中に握られていた卵を私に見せた。じっと見て変化に気付く。

「少し大きくなってない?」
「そうなんです! 持った時に違和感があって……やっぱり大きくなってますよね!」
 リュイは少し興奮した様子で、色々と喋っていた。こういうことに詳しいのはレミナだが彼女は時間があるだろうか。
「ねえ、リュイ。レミナのほうが私より知識があるわ。何か分かるか聞いてみる?」
「そうですね……でもレミナ先生は忙しくないでしょうか?」
「手紙を送って確認してみましょう。今回はリュイが手紙を書いてみる?」
「はい。朝食が済んだら書きます。あっ、卵は部屋に戻してきますね!」
 そう言ってリュイは、一旦部屋に戻りその後すぐに戻ってきて席に座った。私たちは朝食を済ませる。その後片付けを私がしている後ろで、リュイはレミナへの手紙を書いていた。

「サラ、書けました! どうですか? 読めますか?」
 リュイから紙を受け取り、私はそれに目を通す。すべての文字が魔力を含んだ綺麗な文字になっていた。
「ちゃんと読めるわ。魔力も凄く安定している証拠ね」
「良かったです! でも手紙を送るのはサラにお願いしてもいいでしょうか?」
「リュイも出来ると思うけれど……どうして?」
「まだ自信がなくて……」
「なら、私が横で見ているからやってみたらいいんじゃない?失敗しそうになったら助けるわ」
「だったら、挑戦してみます」
 そう言って私とリュイは魔法陣が書かれた机の前に立った。リュイが手紙を魔法陣の上に置き、魔力を使う。私はその様子を黙って見ていた。特に問題もないので、手紙はレミナの元にきちんと届くだろう。

 手紙は机の中に吸い込まれるように消えていった。リュイが小さく息を吐く。

「どうでしたか? 僕ちゃんと出来ていましたか?」
「満点よ。今頃はレミナも手紙に気付いているんじゃないかしら」
「返事っていつ頃来ますかね?」
「そうね……。患者さんが多かったら時間がかかるかもしれないわね」
 リュイと話していると、いつの間にか机の上の魔法陣の中に手紙があった。リュイもそれに気付いたようだ。それを手に取り、裏を見るとレミナからだった。

「サラ、レミナ先生ですか?」
「そうよ。返事早かったわね。あら……そうなのね」
「どうしたんですか?」
 リュイは不思議そうな表情で私を見つめる。私は持っていた手紙をリュイに渡した。
「リュイも読んでみたら分かるわ」
 そう言うとリュイは手紙を受け取り、中身を確認していた。視線の動きで読み終わったことを察して話しかける。

「レミナからの返事は読めたかしら」
「はい。レミナ先生、午前中は忙しいんですね。お昼頃来るって書いてありました」
「もうすっかり、慣れたわね。その文字もスラスラ読めているじゃない」
 私がそう言うと、リュイは嬉しそうに笑った。

「サラがいろんなことを練習させてくれるおかげです。いつもありがとうございます!」
「リュイは弟子でもあるから、知識は十分に与えないと後で苦労させてしまうかもしれないと思っているのよ」
「じゃあ、まだまだたくさんの本を読まないと駄目ですね」
 リュイはそう言うと、本を開くような仕草をしていた。まだ子供のリュイには少しずつでも構わないのだが、本人に頑張る気持ちがあるのなら私はそれを応援したいと思った。
 リュイと話していると、二階から微かな気配を感じた。気配が薄すぎて、何かも分からない。卵の中身だろうかと私は考えていた。

「リュイ、卵は二階にあるのよね?」
「はい。窓際の落ちない場所に置いています」
「少し様子を見に行ってもいい?」
「はい。僕も付いていきます!」
 そう言って、私とリュイは二階の部屋へ向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 番外編は思いついたら追加していく予定です。 <レジーナ公式サイト番外編> 「番外編 相変わらずな日常」 レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...