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4章
訪問者
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花の季節はゆっくりと過ぎていく。数日が経ち、今日も暖かな光が降り注ぐ中一日がはじまる。ぐっと腕を伸ばし、ベッドから身体を起こす。作業用に準備してある服の中から一着のワンピースを選び、ゆっくりと着替えた。
窓の外を見ると、庭の花たちが風に揺られながらその色を輝かせていた。二階から物音が聞こえ、リュイも起きたのだと察する。
私は、朝食を準備するために部屋を出た。
「サラ、おはようございます」
「おはよう、リュイ」
まだ少し眠たそうな表情をしながら、リュイは二階から降りてきた。ふわぁとあくびをするその仕草にはまだ幼さが残っている。
「今日は、街で貰った果物を切ったわよ」
「あのおじさんから貰った果物ですか! 僕あれ早く食べてみたかったんです!」
そうして私たちはいつも通り椅子に座り、机の上に並んだ食事を綺麗に食べた。後片付けをしていると、リュイに話しかけられた。
「あの、サラは午前中時間はありますか?」
「大丈夫よ。どうしたの?」
「この前新しく借りた本で分からないところがたくさんあったので、教えて欲しいなと思って……」
「それなら、この後片付けが終わったら一緒に本を見ながら説明するわ」
「ありがとうございます! じゃあ僕は色々と準備してきますね」
リュイはそう言って、二階へ上がっていった。どこかに出かけるように楽しそうな雰囲気だった。
後片付けも終わり、二人分の飲み物を準備して部屋のソファに座りリュイを待っていた。朝食後に流れるこのゆったりとした時間を私は心地よく感じた。
遠くからパタパタと足音が聞こえ、部屋のドアがキィっと開く。ぴょこっとリュイが顔を覗かせ、数冊の本を抱えながらソファに座った。
「サラ、結構量があるんですけど大丈夫ですか?」
「問題ないわ。リュイは私の弟子なんだから遠慮はいらないのよ」
そう言うと、リュイはキラキラと目を輝かせ本のページをパラパラと捲った。
「あの、こことここが分からないです」
「これは……」
そうして、リュイから聞かれたことに答えていく。リュイは紙にメモを取りながら、悩んだり笑ったり色々な表情を見せながら本の内容をまとめていった。
「ありがとうございます。また分からないことがあったらサラに聞きますね」
「ええ、凄く忙しい時以外ならいつでも大丈夫よ」
「分かりました! ちなみにすごく忙しい時ってどんな時ですか?」
「凄く眠い時とか、お腹が空いてぼーっとしている時かしら」
私がそう言うと、リュイはクスクスと笑っていた。
そのあと、昼食を摂り私は依頼された魔法薬の作成をはじめた。材料はほとんどが倉庫に備蓄してあるものだったので、すぐに取り掛かることが出来た。
魔法薬を作っていると、知らない誰かが庭に入ってきたと花たちがざわついているのが聞こえた。私はちょうど手を離せなかったので二階にいるリュイに、玄関に向かうように声をかける。
「リュイ、誰か人が来たみたいなの。玄関に行って見てきてくれないかしら?」
「はーい。分かりました!」
リュイが玄関のほうに向かうのを見ながら、私は魔法薬の作成を続けた。玄関のドアが開く音がする。やはり誰か来たようだ。しばらくして、リュイが木で作られた小さい箱のようなものを持ってきた。
「リュイ、誰だったの?」
「このあたりを旅しながら過ごしている人だと言っていました。お名前はヘランだそうです。背の高い男の人でしたよ」
「ヘラン……?」
私は聞き覚えのある名前に、少し驚きながらリュイの話を聞く。
「この箱をサラに渡して欲しいと言われました」
「箱ね……」
机の上に置かれた小さな木箱にはかすかだが魔力の痕跡のようなものが漂っていた。
「他には何か言われなかった?」
「そういえば、僕を見て魔力があるんだなって言ってました。彼も魔力があるんでしょうか?」
その言葉で私の考えは確信に変わった。ヘランという名前の男性はおそらく私の知人で間違いないだろう。
でも何故彼が、こんなところに……その前に旅をしているということが気になった。
「サラ、何かありましたか?」
「え?あっ、大丈夫よ。少し考え事をしていただけよ」
そう言いながら、私は小さな木箱の蓋を開ける。中には一枚の紙が折りたたまれた状態で入っていた。紙を広げると、短い文章で明日また来るとだけ書かれていた。
窓の外を見ると、庭の花たちが風に揺られながらその色を輝かせていた。二階から物音が聞こえ、リュイも起きたのだと察する。
私は、朝食を準備するために部屋を出た。
「サラ、おはようございます」
「おはよう、リュイ」
まだ少し眠たそうな表情をしながら、リュイは二階から降りてきた。ふわぁとあくびをするその仕草にはまだ幼さが残っている。
「今日は、街で貰った果物を切ったわよ」
「あのおじさんから貰った果物ですか! 僕あれ早く食べてみたかったんです!」
そうして私たちはいつも通り椅子に座り、机の上に並んだ食事を綺麗に食べた。後片付けをしていると、リュイに話しかけられた。
「あの、サラは午前中時間はありますか?」
「大丈夫よ。どうしたの?」
「この前新しく借りた本で分からないところがたくさんあったので、教えて欲しいなと思って……」
「それなら、この後片付けが終わったら一緒に本を見ながら説明するわ」
「ありがとうございます! じゃあ僕は色々と準備してきますね」
リュイはそう言って、二階へ上がっていった。どこかに出かけるように楽しそうな雰囲気だった。
後片付けも終わり、二人分の飲み物を準備して部屋のソファに座りリュイを待っていた。朝食後に流れるこのゆったりとした時間を私は心地よく感じた。
遠くからパタパタと足音が聞こえ、部屋のドアがキィっと開く。ぴょこっとリュイが顔を覗かせ、数冊の本を抱えながらソファに座った。
「サラ、結構量があるんですけど大丈夫ですか?」
「問題ないわ。リュイは私の弟子なんだから遠慮はいらないのよ」
そう言うと、リュイはキラキラと目を輝かせ本のページをパラパラと捲った。
「あの、こことここが分からないです」
「これは……」
そうして、リュイから聞かれたことに答えていく。リュイは紙にメモを取りながら、悩んだり笑ったり色々な表情を見せながら本の内容をまとめていった。
「ありがとうございます。また分からないことがあったらサラに聞きますね」
「ええ、凄く忙しい時以外ならいつでも大丈夫よ」
「分かりました! ちなみにすごく忙しい時ってどんな時ですか?」
「凄く眠い時とか、お腹が空いてぼーっとしている時かしら」
私がそう言うと、リュイはクスクスと笑っていた。
そのあと、昼食を摂り私は依頼された魔法薬の作成をはじめた。材料はほとんどが倉庫に備蓄してあるものだったので、すぐに取り掛かることが出来た。
魔法薬を作っていると、知らない誰かが庭に入ってきたと花たちがざわついているのが聞こえた。私はちょうど手を離せなかったので二階にいるリュイに、玄関に向かうように声をかける。
「リュイ、誰か人が来たみたいなの。玄関に行って見てきてくれないかしら?」
「はーい。分かりました!」
リュイが玄関のほうに向かうのを見ながら、私は魔法薬の作成を続けた。玄関のドアが開く音がする。やはり誰か来たようだ。しばらくして、リュイが木で作られた小さい箱のようなものを持ってきた。
「リュイ、誰だったの?」
「このあたりを旅しながら過ごしている人だと言っていました。お名前はヘランだそうです。背の高い男の人でしたよ」
「ヘラン……?」
私は聞き覚えのある名前に、少し驚きながらリュイの話を聞く。
「この箱をサラに渡して欲しいと言われました」
「箱ね……」
机の上に置かれた小さな木箱にはかすかだが魔力の痕跡のようなものが漂っていた。
「他には何か言われなかった?」
「そういえば、僕を見て魔力があるんだなって言ってました。彼も魔力があるんでしょうか?」
その言葉で私の考えは確信に変わった。ヘランという名前の男性はおそらく私の知人で間違いないだろう。
でも何故彼が、こんなところに……その前に旅をしているということが気になった。
「サラ、何かありましたか?」
「え?あっ、大丈夫よ。少し考え事をしていただけよ」
そう言いながら、私は小さな木箱の蓋を開ける。中には一枚の紙が折りたたまれた状態で入っていた。紙を広げると、短い文章で明日また来るとだけ書かれていた。
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