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1章
文書
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カリカリと室内に筆記具を滑らせる音が響く。窓の外はまだ朝の早い時間のため、太陽の光は挿し込んでいない。部屋に灯る小さな灯りがゆらゆらと揺れている。
私は文書を確認しながら、羽で作られたペンで必要事項を記入していった。こういう特別な書類は、昔からこのペンでないといけないらしい。少し煩わしさはあったが、リュイの事を思うとそんな気持ちは何処かへといった。
「こんな感じで大丈夫かしら?」
私は文書を手に取り、隅から隅まで確認する。記入漏れはないはずだ。
コンコンと部屋のドアを叩く音がした。
「どうぞ? リュイよね?」
「失礼します。あの、サラさん……今大丈夫でしょうか?」
リュイはもじもじとどこか恥ずかしそうに話しているように見えた。
「サラでいいわよ。どうしたの?」
リュイが言葉を音にする前に、グゥとお腹が鳴る音が部屋に響いた。
窓の外に視線を移すと、外はキラキラと太陽の光が降り注ぎ庭の池の水に光が反射するほど明るくなっていた。私が文書を作成していた間に、結構な時間が過ぎていたようだ。
「ごめんなさい。もう朝になっていたのね。すぐに朝食を準備するわ」
「いえ、僕もまさかお腹が鳴るとは思ってなくて……」
リュイは恥ずかしそうに、赤くなった顔を両手で隠していた。
「少し安心して気が抜けてしまっただけじゃないかしら?」
「安心……たしかによく眠れました」
「良かったわ」
私は調理場に向かい、朝食を作った。材料は街で買ったものや村の人たちから貰ったもの、あとは家の裏で撮れる薬草が主だ。
朝食を作り終え、机の上に並べる。並べられた二人分の食事に、いつもの自分の食事風景を思い出し少し不思議な気分になった。
「リュイ、朝ごはん出来たわよ」
パタパタと二階からリュイが下りてきた。
「ありがとうございます……えっと、サラ?」
「名前で呼んでくれる人が増えるのは嬉しいわ。さあ、食べましょう」
「はい! わぁ、いい匂いです」
リュイは並べられた料理を珍しそうに眺めていた。
「ごめんね。レミナのとこより少し質素かもしれないけれど……」
「いえ、レミナ先生のご飯も美味しかったですけど、サラのご飯も美味しそうです!」
リュイは嬉しそうに席につき、キラキラと瞳を輝かせている。
「どうぞ?」
そう言うとリュイは、食事に手を付けた。モグモグと食べる姿は、小動物のようで可愛いと思った。
私も食事を口に入れ、薬草で作ったお茶に口をつける。リュイもカップを手に取り、口を付けた。
「わぁ! このお茶甘いですね! 美味しいです」
「それは、薬草を使って作ったの。その薬草はそのまま食べても甘いのよ?」
リュイは昨日と比べて、少し明るくなったようだ。本来はこんな風に明るい普通の人間だったのだろう。
その後も少し会話を挟みながら食事を進めた。リュイは私より先に食べ終わり、皿を流し台のほうに持って行った。
「リュイ、お皿はそのままで大丈夫よ」
「えっ、でも洗わないと……」
「大丈夫。後で、私がまとめて処理するわ」
困った表情をしているリュイに、笑顔で言葉を続ける。
「私はあなたに負担を感じてほしくないのよ。弟子の面倒はちゃんと見るわ」
「えっと……ありがとうございます!」
そう言うとリュイは私が食べ終わるまで、私の目の前の席にずっと座っていた。この家に私以外の誰かがいるということに、少し懐かしさを感じた。
朝食を済ませ、私は自分の部屋にリュイを呼んだ。
「リュイ、今から手紙を届けるために使う魔法を見せるからよく見ていてね」
そう言いながら、私は部屋の中にある少し古い机の前に立った。
「手紙ですか? でも今は料金を払えば誰でも届けてくれますよ?」
「それだと最低でも3日はかかるでしょう? これは、直通……つまり一瞬で相手に届くの」
リュイはその言葉に目を丸くし驚いていた。
「この魔法は、多分リュイでもちゃんと覚えれば使えるようになるはずよ?」
「僕もですか! サラが教えてくれるんですか?」
「あなたがそう望むならね」
私はそう言い、今朝の文書を取り出す。
「それは?」
「これは、リュイを私の弟子として預かるからこちらには手出ししないで……みたいな内容の文書よ」
私はその文書を、机の上に書かれた魔法陣の上にのせる。リュイの視線を感じながら、私は言葉を唱え指を振る。文書は机に飲み込まれるように消えた。
リュイのほうを見ると、彼は驚きと困惑の表情を浮かべていた。
「ちなみに、さっきの文書はどこに送ったんですか?」
「中央魔法局よ」
この世界の魔法を管理するために設立された機関で、その中で働いている者はすべて魔力を持つものと聞いている。私は少し苦手意識のある機関だ。
「サラ?」
「少し考え事をしていたみたい。どうしたの?」
リュイは少しうつむいて、口を開いた。
「僕は、サラの弟子になれるでしょうか?」
「あら、魔法に興味を持った?」
「はい。でも、僕はまだ自分に魔力があるなんて信じることが出来ません」
「大丈夫よ。後々分かってくるから」
不安そうなリュイの手を取り、私は彼に笑顔を向けた。ふいにリュイの視線が机のほうに移される。
「サラ。机の上に何か手紙のようなものがあります」
「え?」
私が降り向くと重要書類用の赤い封筒が一つ、机の魔法陣の上に乗っていた。
私は文書を確認しながら、羽で作られたペンで必要事項を記入していった。こういう特別な書類は、昔からこのペンでないといけないらしい。少し煩わしさはあったが、リュイの事を思うとそんな気持ちは何処かへといった。
「こんな感じで大丈夫かしら?」
私は文書を手に取り、隅から隅まで確認する。記入漏れはないはずだ。
コンコンと部屋のドアを叩く音がした。
「どうぞ? リュイよね?」
「失礼します。あの、サラさん……今大丈夫でしょうか?」
リュイはもじもじとどこか恥ずかしそうに話しているように見えた。
「サラでいいわよ。どうしたの?」
リュイが言葉を音にする前に、グゥとお腹が鳴る音が部屋に響いた。
窓の外に視線を移すと、外はキラキラと太陽の光が降り注ぎ庭の池の水に光が反射するほど明るくなっていた。私が文書を作成していた間に、結構な時間が過ぎていたようだ。
「ごめんなさい。もう朝になっていたのね。すぐに朝食を準備するわ」
「いえ、僕もまさかお腹が鳴るとは思ってなくて……」
リュイは恥ずかしそうに、赤くなった顔を両手で隠していた。
「少し安心して気が抜けてしまっただけじゃないかしら?」
「安心……たしかによく眠れました」
「良かったわ」
私は調理場に向かい、朝食を作った。材料は街で買ったものや村の人たちから貰ったもの、あとは家の裏で撮れる薬草が主だ。
朝食を作り終え、机の上に並べる。並べられた二人分の食事に、いつもの自分の食事風景を思い出し少し不思議な気分になった。
「リュイ、朝ごはん出来たわよ」
パタパタと二階からリュイが下りてきた。
「ありがとうございます……えっと、サラ?」
「名前で呼んでくれる人が増えるのは嬉しいわ。さあ、食べましょう」
「はい! わぁ、いい匂いです」
リュイは並べられた料理を珍しそうに眺めていた。
「ごめんね。レミナのとこより少し質素かもしれないけれど……」
「いえ、レミナ先生のご飯も美味しかったですけど、サラのご飯も美味しそうです!」
リュイは嬉しそうに席につき、キラキラと瞳を輝かせている。
「どうぞ?」
そう言うとリュイは、食事に手を付けた。モグモグと食べる姿は、小動物のようで可愛いと思った。
私も食事を口に入れ、薬草で作ったお茶に口をつける。リュイもカップを手に取り、口を付けた。
「わぁ! このお茶甘いですね! 美味しいです」
「それは、薬草を使って作ったの。その薬草はそのまま食べても甘いのよ?」
リュイは昨日と比べて、少し明るくなったようだ。本来はこんな風に明るい普通の人間だったのだろう。
その後も少し会話を挟みながら食事を進めた。リュイは私より先に食べ終わり、皿を流し台のほうに持って行った。
「リュイ、お皿はそのままで大丈夫よ」
「えっ、でも洗わないと……」
「大丈夫。後で、私がまとめて処理するわ」
困った表情をしているリュイに、笑顔で言葉を続ける。
「私はあなたに負担を感じてほしくないのよ。弟子の面倒はちゃんと見るわ」
「えっと……ありがとうございます!」
そう言うとリュイは私が食べ終わるまで、私の目の前の席にずっと座っていた。この家に私以外の誰かがいるということに、少し懐かしさを感じた。
朝食を済ませ、私は自分の部屋にリュイを呼んだ。
「リュイ、今から手紙を届けるために使う魔法を見せるからよく見ていてね」
そう言いながら、私は部屋の中にある少し古い机の前に立った。
「手紙ですか? でも今は料金を払えば誰でも届けてくれますよ?」
「それだと最低でも3日はかかるでしょう? これは、直通……つまり一瞬で相手に届くの」
リュイはその言葉に目を丸くし驚いていた。
「この魔法は、多分リュイでもちゃんと覚えれば使えるようになるはずよ?」
「僕もですか! サラが教えてくれるんですか?」
「あなたがそう望むならね」
私はそう言い、今朝の文書を取り出す。
「それは?」
「これは、リュイを私の弟子として預かるからこちらには手出ししないで……みたいな内容の文書よ」
私はその文書を、机の上に書かれた魔法陣の上にのせる。リュイの視線を感じながら、私は言葉を唱え指を振る。文書は机に飲み込まれるように消えた。
リュイのほうを見ると、彼は驚きと困惑の表情を浮かべていた。
「ちなみに、さっきの文書はどこに送ったんですか?」
「中央魔法局よ」
この世界の魔法を管理するために設立された機関で、その中で働いている者はすべて魔力を持つものと聞いている。私は少し苦手意識のある機関だ。
「サラ?」
「少し考え事をしていたみたい。どうしたの?」
リュイは少しうつむいて、口を開いた。
「僕は、サラの弟子になれるでしょうか?」
「あら、魔法に興味を持った?」
「はい。でも、僕はまだ自分に魔力があるなんて信じることが出来ません」
「大丈夫よ。後々分かってくるから」
不安そうなリュイの手を取り、私は彼に笑顔を向けた。ふいにリュイの視線が机のほうに移される。
「サラ。机の上に何か手紙のようなものがあります」
「え?」
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