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 朝早い時間帯の空気は、まだそれほど暑くなく気持ちが良いと感じられる温度だ。私は少し離れた大きめの図書館を目指し静かな住宅街を歩く。
 住宅街抜けて川を渡った先に図書館が見えた。大学生が論文を書く時にも使用され資料も豊富だと学校の先生に聞いた場所である。
 図書館に入ると遠くまで続く本棚が見えた。その本棚には様々な本が並んでいるように見える。そんな景色を横目に、私は入ってすぐに設置されている検索用タブレットに延命治療と入力し検索ボタンを押した。どうやら目的の本は2階の奥にあるようだ。

 ほんの独特なにおいを感じながら、本棚に並ぶ本から何冊か選ぶ。その後も何冊か選び、読んでは戻すを繰り返した。しかし、どれも一般的な事しか書いていないため祖母に関係するような詳しい内容は見つからなかった。
 この図書館にある延命治療に関する本は全部で11冊だった。お昼までに読めなかった3冊は借りて帰ることにした。本の中身には正直あまり期待をしていない。

 ここまでくると有益な情報は、まとめたノートとペンダントの写真、そして自身の記憶に限られてくる。
「木か……」
 公園で昼食をとりながら、弥生さんの記憶で見た使用人用の部屋から見た木を思い出す。あの木はとても大きいものだったので、今もまだあるのなら何か手掛かりになりそうだなと考えた。

 私はその後付近を散歩しながら、電車に乗り寮のある街まで帰った。
 寮までの帰り道、スルっと首元からペンダントが滑るのを感じた。私は急いで拾いに走った。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
 優しそうなおばあさんがペンダントを手渡してくれた。

「あら? あなた弥生さんじゃない?」
「え……?」
 おばあさんは、驚いたような嬉しそうな顔で私に聞いてきた。

「私よ。優って名前覚えてない?」
「あ、あの。すみません……私は孫の葉月です」
「あら、そうなの? ごめんなさい、あまりに似てたから間違えちゃったわ」
 そうよね……と少し寂しそうに私の顔を見る。
「あの……私、祖母のことを知っている人を探していたんです! 良かったらお話聞かせてもらえませんか?」
「あら、いいわよ。若い子とおしゃべりするの私大好きなの!」
 私は優さんとファミリーレストランに入った。優さんが窓際を希望したのでその座席に座る。

「ファミリーレストランに入るの、久しぶりだわ! ふふっ何頼もうかしら?」
 優さんは、明るく朗らかな人だった。
「葉月さん……だったかしら? あなたは何を頼むの?」
「私ですか?……ティラミスにしようかと」
 そう答えると、じゃあ私もそれにするわと店員さんを呼び注文した。数分待って席にティラミスが運ばれる。

「優さん、失礼かもしれませんが実年齢っておいくつですか?」
「私?そうね、見た目おばあさんですもの。……180歳くらいだったかしら」
 話を聞くと優さんは70代後半くらいに延命治療を受けたとのことだった。周りがみんな受け始めたからと教えてくれた。
 ティラミスを食べながら、私は本題である祖母のことについて優さんに話を聞いた。

「弥生さん、凄く働きものだったのに突然消えるようにいなくなっちゃて……使用人みんな心配していたわ」
 優さんは何か思い出したような表情を見せる。
「そういえば弥生さんの赤ちゃん、私一時期面倒見ていたのよ! お母さんは元気?」
 ニコニコと聞いてきた優さんに申し訳ない思いで、私は両親とも交通事故に巻き込まれこの世にいないことを伝えた。
「そう……嫌な事聞いちゃったわね。ごめんなさい」
「いえ、大丈夫ですよ」
 笑顔で伝えるも、優さんはどこか寂しげだった。

「あの、その働いていた場所は今どうなっていますか?」
「あのお屋敷は、今はもうないの」
 優さんは窓の外をじっと見ている。
「お屋敷のあった場所はね、ほら見えるでしょ? あの駅よ」
 優さんが指さした先には、今までに数えきれないくらい使った駅が見えた。
「え……。あの駅」
 そう言葉をこぼすと優さんは凄いわよねと笑顔で言った。
 駅になっているなら見つからないはずだと考えていると、優さんは思い出したかのようにある事教えてくれた。
「お屋敷はね駅になっちゃったけど、残っているものもあるのよ。ここから近い公園知らない?」
「知っています」
「あの公園の、ベンチがある場所に大きな木があるでしょう? あの木ね、私たち使用人が暮らしていた建物の近くにあったものなの」
 優さんは優しい笑顔で教えてくれた。

 その場所には覚えがある。何度か旅人さんとゲームをしていた場所だ。

「そうそう、さっきのペンダントを見せてもらえないかしら?」
「……?どうぞ」
「このペンダントはね、あのお屋敷で働いていた使用人の証みたいなものなの。だから拾ったときは少し驚いたの」
 このペンダントは、小さいころから持っているものだった。おそらく祖母が母に残したものを私が譲り受けたものなのだろう。

「本当に、弥生さんにそっくりね」
 じっと見られ少し照れると、あら可愛いと優さんはくすっと笑った。
「私が知っていることは、それくらいね。少しは役に立てたかしら?」
「気になっていたことを知ることが出来ました! ありがとうございます!」
 私が頭を下げると優さんは、そんな大したことじゃないのよと少し慌てていた。

 会計をタブレットで済ませ、外に出る。夕方の涼しい風が頬を撫でた。
「今日は、色々とありがとうございました」
「いいのよ、私も久しぶりに若い子とおしゃべり出来て楽しかったわ!」

 優さんはじゃあと手を振って、駅のほうに歩いて行った。私は彼女の姿が見えなくなるまで駅のほうを見つめていた。

 その後は寮の部屋に戻り、今日会った出来事や知ったことをノートにまとめる。今日1日で多くのことを知ることが出来た。祖母の目覚めに少し近付いている気がして、嬉しさで足がパタパタと動く。
「あのお屋敷の旦那様が気になるな~」
 優さんも今どこにいるか分からないと言っていた。
 ある人はあのお屋敷の旦那様なのではということを、ノートの端に書いてペンでその文字を囲んだ。
 時計を見ると、もう夜の11時30分を過ぎていた。私は明日に響かないようにベッドに入り目を閉じた。
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