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第二十五話 カヤの見解

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「…………え、えっとぉ……ど、どうやら勝負はついたようなんですが……」


 しかし舞台の上にも、その周りの観客もいなくなってしまった。
 祭りのように騒がしかった現場が、今では嘘のように静まっている。
 実況の女性のそんな呟きが酷く寂しく聞こえてしまう。


「あ、はは……ボータさん、大丈夫でしょうか」


 まさかボータさんがあんな方法でポチちゃんに勝つなんて思わなかったけど、何ていうか……凄くボータさんらしかった。


 でも多分アレって……〝外道札〟ですよね?


 たった一本の何の変哲もない骨を作るためだけに、貴重な一枚を使用したようだ。


 もったいない。それはもったいないですよボータさん……。


 思わずそんなことを思ってしまうほど、彼の扱う〝外道札〟は稀少な代物なのだ。


「ぶぅ~、ボータのバカァ」
「ポチちゃんも、元気を出してください」


 思わぬ策にハマって敗けてしまった彼女だが、落とした骨を拾ってガジガジと噛みながらもまだ不機嫌そうだ。


「でもぉ」
「ほら、ボータさんとはいつでも戦えるじゃないですか。一緒に旅をしてるんですし」
「! そういやそうだよね! うん、じゃあ元気出す!」


 うふふ、やっぱりポチちゃんは素直でいい子ですね。


 それにしても……。


 わたしはゾロゾロと観客たちを引き連れてどこかへ行った少年のことを考える。
 本当に不思議な男の子だとわたしは思う。


 何だかんだ言って、いつもポチちゃんには勝ってしまうし、あのモモおじいちゃんにも認められた人。


 おじいちゃんは人間など取るに足らない存在で、認めるに値しない奴らとまで言っていた。おじいちゃんも見た目は人間なのに、そこまで言うなんてきっと過去に何かそう思わざるを得ないことを経験しているのだろう。


 それにポチちゃんも、その日にボータさんに懐いてしまっている。
 人懐っこそうな彼女だけど、実のところポチちゃんは頭というか勘が鋭く、悪い人には決して懐かないとおじいちゃんは言っていた。


 そんな彼女が、まったく無警戒に一度模擬戦をしたあとにすぐに懐いてしまっているのだ。おじいちゃんはかなり驚いていたが、さすがは《外道魔術》を持つ者じゃなと言っていたことを思い出す。


 わたしもボータさんはとてもいい人だと思う。優しいし、一緒にいて和んで笑わせてくれる人だ。


 グチグチ文句を言いながらも、むちゃくちゃなことをするポチちゃんにも兄のような感じで接している。


 ポチちゃんは一応魔物と呼ばれる存在に入るらしい。魔物と聞けば、普通の人間は討伐対象や忌避する存在として認識し距離を置く。


 それなのに彼はそんな素振りなどまったく見せない。魔物とかいない異世界からやってきたからなぁって彼は言っていたけど、だったらなおさら魔物という存在は不気味で近寄りがたいのではと思ってしまう。


 しかし彼はポチちゃんを最初から偏見など持たず本当に妹のように可愛がっている。


「……だからポチちゃんにも好かれてるんですよね」
「ほえ? 何か言ったぁ?」
「いえいえ、それよりその骨、おいしいですか?」
「うん! 歯応えもいいよー」


 少女がボリボリ骨を齧っている姿はどうかと思うが、正体を知っているわたしはおかしいとは思わない。
 遠くから耳を澄ませばボータさんの悲痛な叫び声が聞こえる。


 ああやって周りを巻き込み騒がしくすることに関しては、ボータさんに勝てる人はそうそういないかもしれない。いても困り者だけど。


 でも彼と居て飽きないし、楽しい。だからこうして一緒に旅に出ているのだから。


「あ、あのぉ~」
「あ、はい」


 声をかけてきたのは実況の女性だ。傍には領主さんも立っている。


「何だかとんでもない結果になっちゃったんだけど、どうぞこれが二位の賞金だよ」
「あ、これはどうもご丁寧に」


 ポチの連れと見られたようで、賞金の入った袋を手渡してきたので受け取る。


「あとさっきの彼のことなんだけど……」
「えっと……こんな結果ですみません」


 とりあえず謝った方が良いと思ったので頭を下げた。


「あ、いやいや! んと……どういう関係なの? そっちのポチ選手とも仲が良さそうだったし」
「旅仲間ですね。簡単に言ってしまえば」


 ここには一泊予定で寄っただけで、大会に出たのもたまたまだということを教えた。
 すると黙っていた領主さんが一歩前に出る。


「旅人ね。このご時世に旅ができるほどの腕を持つ。なるほど、そちらの少女の実力は裏打ちされた実力だったということだね。まあ、先程逃げた彼のことはまだよく分からんが」


 少し恰幅の良い男性である領主さんが難しげな表情で腕を組む。


 まあ、ポチちゃんに勝っていますけど、ほとんど何もしてませんしねボータさん。


 故に実力を図れていないのは当然だ。


「もし良かったら、儂の話を聞いてはもらえんだろうか」
「あ、はい。そういえば何かお困りがあって、この大会を開いたと聞きました。もしかしてそれについて?」
「うむ、その通り。しからば儂の屋敷に招待したいのだが……」


 彼の懸念はボータさんだろう。今もなお走り回っている彼をどうやって回収するか悩んでいる様子だ。


「お父さん、だったら私がみんなを宥めてくるよ」
「え……お父……さん?」


 実況の女性が言った言葉にわたしは驚いてしまった。


「あ、ごめんね。私、領主の娘なのよ。この大会も私の案でね。そういうことだからあと任してもらっていいよ。彼をちゃんと屋敷には運ぶしさ」
「そうですか。ポチちゃん、どうしますか?」
「ん~? ボクはなんでもいいけど……ねえねえ、ご飯出る?」
「うむ、たっぷり出そう」
「ならいくー!」


 どうやらポチちゃんは行く気満々のようだ。完全に食事目当てみたいだけど。


「んじゃ私は、彼を探してくるから」
「あ、ボータさんのことよろしくお願いします!」
「うん、オッケー!」


 そうしてわたしとポチちゃんは、領主さんと一緒に彼の屋敷へ向かった。


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