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第二十四話
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「で、でも可能性はあるんだよね? だって百分の五だもんね! つまり二十分の一。決して絶望的な確率じゃないし!」
「……ただ一つ気になることもあります」
俺の言葉に「え……?」と明らかに不安になる吹雪さん。
「セーフティフロアには少なからず人がいるはずです。もし彼女がそこへ飛ばされたのなら、そんな人たちを通じて外へ連絡を取るはず。しかし連絡は……ない」
「っ……じゃあやっぱり……」
「いえ、まだ完全に彼女が死んでるって確証はありません。確かに五十五階程度のセーフティフロアには、滞在している人はそれなりにいるかもしれませんが、それ以降からはダンジョン内の攻略難易度もグッと増して、限られた実力者しか上層に行くことはできないでしょう」
「……つまり、何が言いたいの?」
どうやら俺が言いたいことがまだ伝わっていないようだ。
「七十五階……いえ、九十五階に飛ばされたのなら、彼女がいまだに人と連絡を取れていない理由にはなります」
実際九十五階にまで到達できた者は少ないだろう。俺も何度かそのセーフティフロアを利用させてもらっているが、いまだに誰かと会った覚えも人気を感じたこともない。
ただ七十五階は、ちらほらと冒険者を見たことはあった。
つまりもし彼女が九十五階に飛ばされているとするなら、今の現状に説明がつく。まだ生きているという前提での話だが。
「ていうことは……」
「確率は百分の一。それを引き当てているかどうか、ですね」
案の定、吹雪さんの表情が青ざめている。先程までニ十分の一という確率に希望を持っていたのだから仕方ない。
俺はふぅと軽く溜息を吐きながら思案する。
俺の理論は確かに確率的に見て有り得ることではある。しかしそこに到達するまでの一連の流れを考えると、百分の一どころの話ではないこともまた事実だ。
もしかしたら年末のジャンボ宝くじの一等を当てるようなものかもしれない。いや、もっと困難なギャンブルだろう。
しかも俺が言った条件の一つでも間違えれば即死は確実。
俺の見解では、正直無理としか言いようがない。
「……………………でも」
押し黙っていた吹雪さんが呟いたので、思わず「ん?」と顔を向けた。
「でも……可能性はある」
「それは……まあ。けど……」
「私は信じない! だってあの子が死んだって証拠があるわけじゃないもの!」
確かにそうだが、実際に死んでいたとしても、その証拠すら簡単に手にできるわけじゃない。広大なダンジョン内で、誰がどこでどうやって死んだのかなど詳しく調査するのは難しい。モンスターに現場を荒らされているかもしれないし、目撃者もまたいないかもしれない。
だからこそ冒険者が音信不通になった際、それが一年続いた場合は死亡扱いとされる。
「私はあの子なら生きてるって信じる! きっとそのセーフティフロアに今もいるって!」
「……いたとして、どうするつもりです?」
「どうするって、そんなの助けに……!」
理解したようだ。そう、誰が一体そこまで助けに行くというのだろうか。
レスキューギルドでさえ、そこまでの階層へ向かったという記録はない。向かうことができる者は限られているのだ。
それこそランクでいうならBは欲しいところだろう。だがBランク以上の冒険者なんてそうはいない。
Bランクといえば、単身で一国の軍事力と同等とされている。そう、Bランクでさえこれほどの力を持つ。故にそこまで達した者は非常に少ないのである。
現在公表されている中で、このBランクに達している者は僅か十五人。
この二十年の間で、たった十五人しか辿り着いていない領域なのである。そんな人間を動かそうというのだから、ただのクエストでは済まない。
仮に報酬をつけるとしたら、それこそ数百万から数千万はくだらないはず。
そんな報酬を、この若い女性に払えるとは思えない。そしてその事実を理解してか、店員もまた絶望的に項垂れてしまっている。
何とも見ていると居たたまれなくなってくる。それに俺と同じように騙された天津波に関しても妙な親近感も湧く。
…………はぁ。しょうがねえなぁ。
「……俺が確認してきましょうか?」
「……え? ……ええ?」
俯いていた顔を上げて、理解不能といった感じで俺を見つめてくる。
「えと……今何て?」
「ですから俺が、天津波が生きているかどうか見てきましょうかって言いましたけど」
「!? ……で、でも上級ダンジョン……なんだよ?」
「はぁ、知ってますが」
「九十五階なんて、高ランクの冒険者でも簡単に行けない場所なんだよ!」
「それも知ってますよ」
「なのに………………行けるの?」
「もう何度も行ってますしね」
「は…………な、何度もっ!? ど、どどどどどどういうこと!? あなたって、そんな凄い冒険者だったのっ!?」
まあ驚くわな。実際見た目からしてそうは見えないだろうし。俺も目立ちたくないからランクだって公表していないし、時代を走っているナウな冒険者みたいに活動記録をSNSに公開したりもしていない。
まるで影のように、ひっそりと誰にも知られずに攻略を進めている人間だから。
「凄いかどうか分かりませんけど……コレで証拠になりますか?」
俺が見せたのは《トランクバッグ》から取り出した虹色に輝いている三角形のプレートだった。
「……ただ一つ気になることもあります」
俺の言葉に「え……?」と明らかに不安になる吹雪さん。
「セーフティフロアには少なからず人がいるはずです。もし彼女がそこへ飛ばされたのなら、そんな人たちを通じて外へ連絡を取るはず。しかし連絡は……ない」
「っ……じゃあやっぱり……」
「いえ、まだ完全に彼女が死んでるって確証はありません。確かに五十五階程度のセーフティフロアには、滞在している人はそれなりにいるかもしれませんが、それ以降からはダンジョン内の攻略難易度もグッと増して、限られた実力者しか上層に行くことはできないでしょう」
「……つまり、何が言いたいの?」
どうやら俺が言いたいことがまだ伝わっていないようだ。
「七十五階……いえ、九十五階に飛ばされたのなら、彼女がいまだに人と連絡を取れていない理由にはなります」
実際九十五階にまで到達できた者は少ないだろう。俺も何度かそのセーフティフロアを利用させてもらっているが、いまだに誰かと会った覚えも人気を感じたこともない。
ただ七十五階は、ちらほらと冒険者を見たことはあった。
つまりもし彼女が九十五階に飛ばされているとするなら、今の現状に説明がつく。まだ生きているという前提での話だが。
「ていうことは……」
「確率は百分の一。それを引き当てているかどうか、ですね」
案の定、吹雪さんの表情が青ざめている。先程までニ十分の一という確率に希望を持っていたのだから仕方ない。
俺はふぅと軽く溜息を吐きながら思案する。
俺の理論は確かに確率的に見て有り得ることではある。しかしそこに到達するまでの一連の流れを考えると、百分の一どころの話ではないこともまた事実だ。
もしかしたら年末のジャンボ宝くじの一等を当てるようなものかもしれない。いや、もっと困難なギャンブルだろう。
しかも俺が言った条件の一つでも間違えれば即死は確実。
俺の見解では、正直無理としか言いようがない。
「……………………でも」
押し黙っていた吹雪さんが呟いたので、思わず「ん?」と顔を向けた。
「でも……可能性はある」
「それは……まあ。けど……」
「私は信じない! だってあの子が死んだって証拠があるわけじゃないもの!」
確かにそうだが、実際に死んでいたとしても、その証拠すら簡単に手にできるわけじゃない。広大なダンジョン内で、誰がどこでどうやって死んだのかなど詳しく調査するのは難しい。モンスターに現場を荒らされているかもしれないし、目撃者もまたいないかもしれない。
だからこそ冒険者が音信不通になった際、それが一年続いた場合は死亡扱いとされる。
「私はあの子なら生きてるって信じる! きっとそのセーフティフロアに今もいるって!」
「……いたとして、どうするつもりです?」
「どうするって、そんなの助けに……!」
理解したようだ。そう、誰が一体そこまで助けに行くというのだろうか。
レスキューギルドでさえ、そこまでの階層へ向かったという記録はない。向かうことができる者は限られているのだ。
それこそランクでいうならBは欲しいところだろう。だがBランク以上の冒険者なんてそうはいない。
Bランクといえば、単身で一国の軍事力と同等とされている。そう、Bランクでさえこれほどの力を持つ。故にそこまで達した者は非常に少ないのである。
現在公表されている中で、このBランクに達している者は僅か十五人。
この二十年の間で、たった十五人しか辿り着いていない領域なのである。そんな人間を動かそうというのだから、ただのクエストでは済まない。
仮に報酬をつけるとしたら、それこそ数百万から数千万はくだらないはず。
そんな報酬を、この若い女性に払えるとは思えない。そしてその事実を理解してか、店員もまた絶望的に項垂れてしまっている。
何とも見ていると居たたまれなくなってくる。それに俺と同じように騙された天津波に関しても妙な親近感も湧く。
…………はぁ。しょうがねえなぁ。
「……俺が確認してきましょうか?」
「……え? ……ええ?」
俯いていた顔を上げて、理解不能といった感じで俺を見つめてくる。
「えと……今何て?」
「ですから俺が、天津波が生きているかどうか見てきましょうかって言いましたけど」
「!? ……で、でも上級ダンジョン……なんだよ?」
「はぁ、知ってますが」
「九十五階なんて、高ランクの冒険者でも簡単に行けない場所なんだよ!」
「それも知ってますよ」
「なのに………………行けるの?」
「もう何度も行ってますしね」
「は…………な、何度もっ!? ど、どどどどどどういうこと!? あなたって、そんな凄い冒険者だったのっ!?」
まあ驚くわな。実際見た目からしてそうは見えないだろうし。俺も目立ちたくないからランクだって公表していないし、時代を走っているナウな冒険者みたいに活動記録をSNSに公開したりもしていない。
まるで影のように、ひっそりと誰にも知られずに攻略を進めている人間だから。
「凄いかどうか分かりませんけど……コレで証拠になりますか?」
俺が見せたのは《トランクバッグ》から取り出した虹色に輝いている三角形のプレートだった。
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