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第二十二話
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しばらくするとすすり泣き程度にまで収まって、ようやく彼女が口を開く。
「いきなり……すみませんでした。こんなこと言われても……困りますよね?」
「あー気にしないでください。俺も何だか中途半端なことを言ったから。もっとその……あの女性が危険だってことを伝えておいたら良かった」
「そんな……教えてくれただけで十分です。普通は……そんな見知らぬ人に忠告なんてしないでしょうし」
まあ、俺もあの時は少し気まぐれが働いただけだったしな。
「……その様子だと、あの女性を訴えられる証拠は見つからなかったんですね?」
力無くコクリと頷く店員。
「でも……あの子が上級ダンジョンに入って行く様子はバッチリ映ってた。しかもあの子の前後に、バラバラにあの連中が入っていったのも。けど一緒にダンジョンに入ってない以上は、あの映像じゃ証拠としては弱いし……何よりも訴えたって、あの子が帰ってくるわけじゃないから」
何らかの証拠が見つかり、奴らの悪行が明るみになったとしても、この店員が本当に欲しているものは帰って来ない。幾分か気持ちがスッキリする程度だろう。
「何で初心者冒険者が、簡単に上級ダンジョンに入れるようになってるんだろう……そんなの危ないだけなのに」
確かに彼女のような疑問を持ち声を上げている人たちもいる。
冒険者たちが軽はずみな行動で命を落とさないように、都市が規制するべきだという声だ。
かなり前から、そういう法律を作るように働きかけている人たちがいる中、それでもまだ規制は設けられていない。
それがこの都市の答えであり、冒険者たちの多くも望んでいることなのだ。
「こうなったらレスキューギルドに頼んで、上級ダンジョンにいるあの子を助けてもらわないと」
「それが無理だからクエストを出したんじゃないんすか?」
「え……何でそれを?」
俺は《スマートデバイス》に映ったクエスト画面を見せつける。
「え……もしかしてあなたも冒険者……なんですか?」
「まあ一応……」
クエストのホームページにアクセスできるのは冒険者のみだ。クエストを依頼するのは誰にもできるが。
「最初からレスキューギルドが動いてくれるなら、こんなクエストは必要ないですよね?」
「それは……っ! で、でもあの子が上級ダンジョンに入ったことは分かったし、それなら何とか――」
「無理でしょうね」
「む、無理って……」
「あの初心者冒険者……名前は何でしたっけ?」
「小汐ちゃんですよ、天津波小汐。あ、私は吹雪朱乃っていいます」
「あ、ども。俺は地村十利っす。……それでその天津波が、本当に助けを求めているかを判断できない限り、レスキューは動きません」
彼女もそれを知っているのか、悔しそうに下唇を噛み締める。
「だけど初心者冒険者の小汐ちゃんが上級ダンジョンで何日も過ごせるわけがないわ! だから中で非常事態に遭っていることは明白よ!」
熱くなり過ぎて言葉遣いも変わってきている。
「それでも今の状況でレスキューを動かせるのは、被害届を出せる身内のみでしょうね。あなたは天津波の家族なんですか?」
「っ…………違うわ」
「だったら彼らは動けない。彼らはどんな事件も確たるものがなければ動きませんからね。仮に天津波を騙した連中が自白すれば話は別ですが……ま、難しいでしょうし」
「な、なら何が何でも自白をさせてやるわ!」
「どうやってです?」
「ち、力ずくで脅してでもよ!」
「冒険者相手に、ですか? すいませんがあなたは魔法が使えたり?」
「っ……いいえ」
「それで三人の冒険者相手に力ずくでなんて……不可能ですよ」
少なくとも奴らは、上級ダンジョンに足を踏み入れて戻って来るだけの実力はある。恐らくはランクも〝F〟以上は確実にあるだろう。そうでなければ今頃暢気に街中を散歩していないはずだ。
そしてFランク以上ということは、もう一般人が普通に戦っても絶対に勝てないほどの実力者にはなっている。
そもそも魔法を扱えるというだけで、一般人とは力の格差がついているのだ。その上、冒険者はランクを上げるごとにパラメーターが上がっていく。
これは冒険者だけに許された〝進化システム〟と呼ばれている。何せランクを上げる度に、ステータスが跳ね上がるのだ。故にランクとは、それまでの人間が超人になるための神が与えた試練だと研究者たちは口にしているらしい。
この店員――吹雪さん程度なら、たとえ銃を持っていたとしても制圧されることはないだろう。
「だったら……どうしたらいいのよぉ……!」
「追い打ちをかけるようであれですが、レスキューが動かない理由で、もう一つ大きな理由があります」
「へ? 何それ?」
「それは……助け出す本人が生きていない可能性が非常に高いことです」
「!? な、何でそんなこと……!?」
俺に怒りをぶちまけられても困るが、ここは正論を伝えておこう。
「あなたもさっき言ったじゃないですか。初心者冒険者が上級ダンジョンで何日も過ごせるわけがないって」
「……!」
「その通り。普通に考えて生きていけるわけがない。数時間程度ならまだしも、あれから三日……絶望的だ」
「いきなり……すみませんでした。こんなこと言われても……困りますよね?」
「あー気にしないでください。俺も何だか中途半端なことを言ったから。もっとその……あの女性が危険だってことを伝えておいたら良かった」
「そんな……教えてくれただけで十分です。普通は……そんな見知らぬ人に忠告なんてしないでしょうし」
まあ、俺もあの時は少し気まぐれが働いただけだったしな。
「……その様子だと、あの女性を訴えられる証拠は見つからなかったんですね?」
力無くコクリと頷く店員。
「でも……あの子が上級ダンジョンに入って行く様子はバッチリ映ってた。しかもあの子の前後に、バラバラにあの連中が入っていったのも。けど一緒にダンジョンに入ってない以上は、あの映像じゃ証拠としては弱いし……何よりも訴えたって、あの子が帰ってくるわけじゃないから」
何らかの証拠が見つかり、奴らの悪行が明るみになったとしても、この店員が本当に欲しているものは帰って来ない。幾分か気持ちがスッキリする程度だろう。
「何で初心者冒険者が、簡単に上級ダンジョンに入れるようになってるんだろう……そんなの危ないだけなのに」
確かに彼女のような疑問を持ち声を上げている人たちもいる。
冒険者たちが軽はずみな行動で命を落とさないように、都市が規制するべきだという声だ。
かなり前から、そういう法律を作るように働きかけている人たちがいる中、それでもまだ規制は設けられていない。
それがこの都市の答えであり、冒険者たちの多くも望んでいることなのだ。
「こうなったらレスキューギルドに頼んで、上級ダンジョンにいるあの子を助けてもらわないと」
「それが無理だからクエストを出したんじゃないんすか?」
「え……何でそれを?」
俺は《スマートデバイス》に映ったクエスト画面を見せつける。
「え……もしかしてあなたも冒険者……なんですか?」
「まあ一応……」
クエストのホームページにアクセスできるのは冒険者のみだ。クエストを依頼するのは誰にもできるが。
「最初からレスキューギルドが動いてくれるなら、こんなクエストは必要ないですよね?」
「それは……っ! で、でもあの子が上級ダンジョンに入ったことは分かったし、それなら何とか――」
「無理でしょうね」
「む、無理って……」
「あの初心者冒険者……名前は何でしたっけ?」
「小汐ちゃんですよ、天津波小汐。あ、私は吹雪朱乃っていいます」
「あ、ども。俺は地村十利っす。……それでその天津波が、本当に助けを求めているかを判断できない限り、レスキューは動きません」
彼女もそれを知っているのか、悔しそうに下唇を噛み締める。
「だけど初心者冒険者の小汐ちゃんが上級ダンジョンで何日も過ごせるわけがないわ! だから中で非常事態に遭っていることは明白よ!」
熱くなり過ぎて言葉遣いも変わってきている。
「それでも今の状況でレスキューを動かせるのは、被害届を出せる身内のみでしょうね。あなたは天津波の家族なんですか?」
「っ…………違うわ」
「だったら彼らは動けない。彼らはどんな事件も確たるものがなければ動きませんからね。仮に天津波を騙した連中が自白すれば話は別ですが……ま、難しいでしょうし」
「な、なら何が何でも自白をさせてやるわ!」
「どうやってです?」
「ち、力ずくで脅してでもよ!」
「冒険者相手に、ですか? すいませんがあなたは魔法が使えたり?」
「っ……いいえ」
「それで三人の冒険者相手に力ずくでなんて……不可能ですよ」
少なくとも奴らは、上級ダンジョンに足を踏み入れて戻って来るだけの実力はある。恐らくはランクも〝F〟以上は確実にあるだろう。そうでなければ今頃暢気に街中を散歩していないはずだ。
そしてFランク以上ということは、もう一般人が普通に戦っても絶対に勝てないほどの実力者にはなっている。
そもそも魔法を扱えるというだけで、一般人とは力の格差がついているのだ。その上、冒険者はランクを上げるごとにパラメーターが上がっていく。
これは冒険者だけに許された〝進化システム〟と呼ばれている。何せランクを上げる度に、ステータスが跳ね上がるのだ。故にランクとは、それまでの人間が超人になるための神が与えた試練だと研究者たちは口にしているらしい。
この店員――吹雪さん程度なら、たとえ銃を持っていたとしても制圧されることはないだろう。
「だったら……どうしたらいいのよぉ……!」
「追い打ちをかけるようであれですが、レスキューが動かない理由で、もう一つ大きな理由があります」
「へ? 何それ?」
「それは……助け出す本人が生きていない可能性が非常に高いことです」
「!? な、何でそんなこと……!?」
俺に怒りをぶちまけられても困るが、ここは正論を伝えておこう。
「あなたもさっき言ったじゃないですか。初心者冒険者が上級ダンジョンで何日も過ごせるわけがないって」
「……!」
「その通り。普通に考えて生きていけるわけがない。数時間程度ならまだしも、あれから三日……絶望的だ」
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