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第二十一話
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「なぁにぃ、こんな天下の往来でいきなり大声を張り上げるなんて、女としてはしたないと思わないのかしらねぇ」
「アンタに言われたくないわ! それよりもアンタ! あの子は――小汐ちゃんをどうしたのよ!」
「小汐ぉ? ……知ってる?」
「いいや、知らないぜ」
「そうそう、俺も知らないなぁ」
おっぱい姉ちゃんの問いに、他の男も大げさに肩を竦めて否定した。
「ふざけんじゃないわよっ! 三日前、アンタと一緒にダンジョン攻略に出掛けた女の子のことよ! 【喫茶ふぶき】で私とも会ったでしょうが!」
「ん~? 三日前なんて大昔のこと、いちいち覚えてないわよぉ。私は過去を振り返らない女なの」
うわぁ、明らかにこれ挑発だな。それにこの言い分、きっとあの美少女を俺みたいに都合の良いように利用して捨ててきたパターンに間違いねえ。
どうやらコイツらは三ヶ月前から何一つ変わっちゃいないみたいだ。
「くっ、そんな言い訳が通じるとでも思ってるの! アンタ……あの子を犠牲にしたわね!」
「さあ? 何を言っているのか分からないわぁ。証拠でもあるのぉ?」
そう言われて言葉に詰まる店員。
「しょ、証拠って……そうよ! お店の監視カメラを確かめれば、アンタと小汐ちゃんが一緒に店から出て行ったことが分かるわ!」
「ふぅん、それで?」
「え?」
「それでどうやって私が、あなたの言う小汐ちゃんとやらと一緒にダンジョン攻略に行ったって証拠になるのかしらねぇ」
「そ、それは……ダ、ダンジョン前に設置されてる監視カメラを見れば証明になるはずよ!」
「へぇ、それで? その子と私が一緒にダンジョンに入る姿が映っていたのかしら?」
「ま、まだ調べてないけど……絶対に映ってるはずよ!」
「ならちゃんと証拠を見せてから追及するべきじゃない? 今のままじゃ、あなたはただの言いがかりよ?」
「っ…………今に見てなさいよ!」
そう言い残すと、店員はそのまま全速力で神殿の方へ向かっていった。
……無理だろうな。
俺はいまだにニヤニヤと余裕そうな表情を見せているおっぱい姉ちゃんたちを見てそう思った。
というかそれは俺がすでに通った道でもあったことから、徒労に終わることを理解している。
俺だって騙された件について、奴らを訴えてやろうと思わなかったわけじゃない。だから俺の証言と、監視カメラの映像で追い詰めることができると簡単に考えた、
しかし思い返してみると、俺と彼らは、確かに上級ダンジョンで一緒に行動していたが、一緒にダンジョンに入ったわけじゃない。実はダンジョンに入る前は、彼らにこう言われていたのだ。
『ダンジョンに一人ずつ入るのをジンクスにしてるんだよ』
当然意味が分からなかったし、他の冒険者はそうでもなかったりしていたので詳しく聞いてみた。
『昔の冒険者は、今みたいにパーティを組んでの攻略はしてなくて、基本一人だった。それでも有能な人は一人でも無事に攻略から帰ってきた。その縁起に肖ろうってことで、俺たちはそうしてるんだ』
別に強制的なルールではなく、彼らが信じている彼ら流の掟がある。そう言われてしまえば、〝そういうものなのか〟と深く考えずに納得してしまう。
だからダンジョンには、それぞれ時間を空けてバラバラに入ることになったのである。
だから監視カメラには、俺が単独でダンジョンに入る姿しか映っていないのだ。
そして恐らくは、そういう手口で新人冒険者を利用してきただろうから、今回も監視カメラには決定的な瞬間は映っていないだろう。
俺はそれでも少しだけ気になり、店員が向かった神殿の方へ足を延ばしてみた。
すると神殿の出口から、意気消沈した様子でトボトボと出てくる店員の姿があった。
そして彼女がフッと俯かせていた顔を上げ、俺を視界に捉えて「……あ」と声を上げる。
そこへ驚くことに、彼女が突然涙を流し始めたのだ。
「えっ……ちょっ」
泣くのは別に構わないが、この状況では止めてほしかった。これじゃまるで俺のせいで泣いているみたいな構図に見えてしまう。
実際周りにちらほらいる人だかりが、俺を怪訝な表情で見つめている。
「えと……あの…………ああもう! ちょっとこっちに来てください!」
俺は咄嗟に店員の手を取って、急いでその場から離れることにした。
そうして何とか一目が少ない路地へと出たところで足を止める。しかしいまだに店員は嗚咽中だ。
正直このまま立ち去りたい気分だが、さすがにそれをするのは男としてダメだと思った。
傍にあった自動販売機から、なけなしの所持金で紅茶を購入し、
「……良かったらどうぞ」
と、まだ未使用のハンカチと一緒に店員に差し出した。
彼女はしばらく戸惑いを見せたが、「……ありがと」と呟くと受け取り、ハンカチで涙を拭いて、紅茶の缶を両手でギュッと握り締める。
そのまま少しの間沈黙が続き、かなり居たたまれない感じになった。
こういう時、何て言葉をかけたらいいんだ?
女子と二人っきりというシチュエーションなんて身内以外経験ないのでどうしたらいいか分からない。しかもこの場合は恐らく慰めの言葉が必要なのだろうが、いかんせんそんなリア充野郎みたいな器用なコメントなんて思い浮かばない。
こういう時、本当にコミュ障は困るぜ!
「…………私のせいなんです」
「……はい?」
「せっかくあなたに……忠告してもらったのに。すぐにあの子を追いかけていたら……! ううん、そうでなくても連絡をしてたら間に合ってたかもしれないのに……っ!」
あーなるほど。あのあと心配になって連絡をしたと思っていたが、どうやらしていなかったらしい。
「過保護過ぎるのも、冒険者として身を立てる覚悟をしている小汐ちゃんのためにならないってお父さんに言われて……だから一日待って……でも……でもぉぉぉ」
またそう言って泣き始める。
一日待って連絡してみたが、きっと向こうからの返事がなかったのだろう。
彼女は言う。それで俺の話が的を射ていたのではと考え、いろいろ調べてみて、そこでついさっきあの連中を見つけたという。
俺は彼女が泣き止むまで一言も言わずにその場で待った。
「アンタに言われたくないわ! それよりもアンタ! あの子は――小汐ちゃんをどうしたのよ!」
「小汐ぉ? ……知ってる?」
「いいや、知らないぜ」
「そうそう、俺も知らないなぁ」
おっぱい姉ちゃんの問いに、他の男も大げさに肩を竦めて否定した。
「ふざけんじゃないわよっ! 三日前、アンタと一緒にダンジョン攻略に出掛けた女の子のことよ! 【喫茶ふぶき】で私とも会ったでしょうが!」
「ん~? 三日前なんて大昔のこと、いちいち覚えてないわよぉ。私は過去を振り返らない女なの」
うわぁ、明らかにこれ挑発だな。それにこの言い分、きっとあの美少女を俺みたいに都合の良いように利用して捨ててきたパターンに間違いねえ。
どうやらコイツらは三ヶ月前から何一つ変わっちゃいないみたいだ。
「くっ、そんな言い訳が通じるとでも思ってるの! アンタ……あの子を犠牲にしたわね!」
「さあ? 何を言っているのか分からないわぁ。証拠でもあるのぉ?」
そう言われて言葉に詰まる店員。
「しょ、証拠って……そうよ! お店の監視カメラを確かめれば、アンタと小汐ちゃんが一緒に店から出て行ったことが分かるわ!」
「ふぅん、それで?」
「え?」
「それでどうやって私が、あなたの言う小汐ちゃんとやらと一緒にダンジョン攻略に行ったって証拠になるのかしらねぇ」
「そ、それは……ダ、ダンジョン前に設置されてる監視カメラを見れば証明になるはずよ!」
「へぇ、それで? その子と私が一緒にダンジョンに入る姿が映っていたのかしら?」
「ま、まだ調べてないけど……絶対に映ってるはずよ!」
「ならちゃんと証拠を見せてから追及するべきじゃない? 今のままじゃ、あなたはただの言いがかりよ?」
「っ…………今に見てなさいよ!」
そう言い残すと、店員はそのまま全速力で神殿の方へ向かっていった。
……無理だろうな。
俺はいまだにニヤニヤと余裕そうな表情を見せているおっぱい姉ちゃんたちを見てそう思った。
というかそれは俺がすでに通った道でもあったことから、徒労に終わることを理解している。
俺だって騙された件について、奴らを訴えてやろうと思わなかったわけじゃない。だから俺の証言と、監視カメラの映像で追い詰めることができると簡単に考えた、
しかし思い返してみると、俺と彼らは、確かに上級ダンジョンで一緒に行動していたが、一緒にダンジョンに入ったわけじゃない。実はダンジョンに入る前は、彼らにこう言われていたのだ。
『ダンジョンに一人ずつ入るのをジンクスにしてるんだよ』
当然意味が分からなかったし、他の冒険者はそうでもなかったりしていたので詳しく聞いてみた。
『昔の冒険者は、今みたいにパーティを組んでの攻略はしてなくて、基本一人だった。それでも有能な人は一人でも無事に攻略から帰ってきた。その縁起に肖ろうってことで、俺たちはそうしてるんだ』
別に強制的なルールではなく、彼らが信じている彼ら流の掟がある。そう言われてしまえば、〝そういうものなのか〟と深く考えずに納得してしまう。
だからダンジョンには、それぞれ時間を空けてバラバラに入ることになったのである。
だから監視カメラには、俺が単独でダンジョンに入る姿しか映っていないのだ。
そして恐らくは、そういう手口で新人冒険者を利用してきただろうから、今回も監視カメラには決定的な瞬間は映っていないだろう。
俺はそれでも少しだけ気になり、店員が向かった神殿の方へ足を延ばしてみた。
すると神殿の出口から、意気消沈した様子でトボトボと出てくる店員の姿があった。
そして彼女がフッと俯かせていた顔を上げ、俺を視界に捉えて「……あ」と声を上げる。
そこへ驚くことに、彼女が突然涙を流し始めたのだ。
「えっ……ちょっ」
泣くのは別に構わないが、この状況では止めてほしかった。これじゃまるで俺のせいで泣いているみたいな構図に見えてしまう。
実際周りにちらほらいる人だかりが、俺を怪訝な表情で見つめている。
「えと……あの…………ああもう! ちょっとこっちに来てください!」
俺は咄嗟に店員の手を取って、急いでその場から離れることにした。
そうして何とか一目が少ない路地へと出たところで足を止める。しかしいまだに店員は嗚咽中だ。
正直このまま立ち去りたい気分だが、さすがにそれをするのは男としてダメだと思った。
傍にあった自動販売機から、なけなしの所持金で紅茶を購入し、
「……良かったらどうぞ」
と、まだ未使用のハンカチと一緒に店員に差し出した。
彼女はしばらく戸惑いを見せたが、「……ありがと」と呟くと受け取り、ハンカチで涙を拭いて、紅茶の缶を両手でギュッと握り締める。
そのまま少しの間沈黙が続き、かなり居たたまれない感じになった。
こういう時、何て言葉をかけたらいいんだ?
女子と二人っきりというシチュエーションなんて身内以外経験ないのでどうしたらいいか分からない。しかもこの場合は恐らく慰めの言葉が必要なのだろうが、いかんせんそんなリア充野郎みたいな器用なコメントなんて思い浮かばない。
こういう時、本当にコミュ障は困るぜ!
「…………私のせいなんです」
「……はい?」
「せっかくあなたに……忠告してもらったのに。すぐにあの子を追いかけていたら……! ううん、そうでなくても連絡をしてたら間に合ってたかもしれないのに……っ!」
あーなるほど。あのあと心配になって連絡をしたと思っていたが、どうやらしていなかったらしい。
「過保護過ぎるのも、冒険者として身を立てる覚悟をしている小汐ちゃんのためにならないってお父さんに言われて……だから一日待って……でも……でもぉぉぉ」
またそう言って泣き始める。
一日待って連絡してみたが、きっと向こうからの返事がなかったのだろう。
彼女は言う。それで俺の話が的を射ていたのではと考え、いろいろ調べてみて、そこでついさっきあの連中を見つけたという。
俺は彼女が泣き止むまで一言も言わずにその場で待った。
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