ほぼ不滅、『残機10億』のスキル無双 ~このダンジョン都市でゾンビって呼ばれてます。~

十本スイ

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第十九話 

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「……ふぃぃ。……む? 何だ坊主か、来てたんだな」
「……ども、真造さん」

 御年65歳。名前は――大部真造。鍛冶屋一筋50年のベテランさんだ。物語に出てくるようなドワーフみたいな貫禄を放つ人物だが、甘いものに目がないというお茶目な部分も持っている。

 この人こそが、この工場の持ち主であり親方だ。

「今日はどういった要件だ?」

 別に睨みつけていないが、持ち前のその眼光の鋭さは、子供を怯えさせる程度の迫力がある。俺も最初は殺し屋かと思ったくらいだ。

 俺は「コレを」と見せたのは一本のナイフである。
 真造さんがナイフを受け取ってマジマジと確認し始めた。

「……ずいぶんと使い込みやがったな。てか、コイツを打ってやってからまだ一週間も経ってねえだろう?」
「上級モンスターの素材は固くて。剥がすのも生半可な刃物じゃダメなんですよ」
「フン……コイツはもうダメだな。刃毀れくらいならどうにでもなるが、中はボロボロだぜ」
「そうなんですか? 見たところ刃毀れくらいにしか見えないんですけど」
「素人目にはな。だが鍛冶屋からすると、よく分かる。ハッキリいってもうコイツは寿命だわ」
「マジっすか。じゃあ……同じものを拵えてもらってもいいですか?」
「同じもの……か。……! そうだ、坊主に試してもらいてえもんがあんだよ。ちょっと待っててくれや」

 真造さんが少しその場を離れて、奥にある部屋へ行くと――。

「――――ドーンッ!」

 突然背後からの衝撃に、俺は思わず倒れそうになった。

「えへへ~驚いたっすかぁ?」

 背中から伝わってくる軟らかくて生温かい感触。そして耳元から聞こえてくる楽しそうな声音に、俺は内心ではドキッとしながらもポーカーフェイスを保ちつつ言う。

「あのな、ツクリ……いつも後ろから飛びついてくるなって言ってるだろ?」
「えぇー、じゃあ前からはOKなんすか?」
「そういうことじゃねえ。つか離れなさい」
「いいんすかぁ? ほらほらぁ、うら若き美少女の温もりっすよ~? ドキドキしてきたんじゃないすかぁ?」

 背中からグリグリと身体を押し付けてきやがる。しかし……残念だ。

「……ふ。甘いな、ツクリ。俺を興奮させたかったら、もう少し母性の象徴を豊かにすることだな」
「んなぁっ!? ひ、酷いっす! 私が気にしてることを堂々と!?」

 ショックを受けた様子で俺から離れる。これでようやく対面することができた。
 そこにはパイナップルみたいに髪を上部で縛った少女がいる。口を開くと見える八重歯と、人懐っこい笑顔が特徴のツクリという名前の十四歳の女の子。

 実はこの少女、真造さんの孫で、学生をしつつこの工場で一緒に働いているのだ。

「あん? 何だツクリ、そんなとこにいたのか?」
「あっ、お祖父ちゃん! ちょっと聞いてっす! ジューリさんってば、私の身体を弄んだくせに、用が無ければポイって捨てるんすよぉ!」
「ちょっと待て! 誰がそんなことした!?」
「さっきまであんなに熱烈に身体を重ねてたじゃないっすか!」
「それはお前がいきなり背中に飛びついてきたんだろうが!」
「しかも私の身体の感触をしっかり味わってたくせにぃぃ!」
「人聞きの悪いことを言うな! 俺はガキには興味ねえんだよ!」
「おっぱいっすか! どうせおっぱいのことっすよね! 何すかもう! ジューリさんなんておっぱいに埋もれて窒息死すればいいっす!」

 何それ、すっごい天国。是非死ぬ時はそれでお願いします!

「はぁ……お前ら、工場で騒ぐんじゃねえよ。それよりも坊主、ほらこれだ」

 呆れた様子を見せる真造さんが、俺に差し出してきたものは一本のナイフだった。ただ気になったのは、その刃が氷のように透き通っていることだ。

「何です、このナイフ?」

 俺は受け取りながら、ナイフを動かして四方八方から観察する。
 本当に刃が備わっているのかと思うほど軽い。柄の部分だけの重さしかないのではないだろうか。

「そいつは前に坊主が持ってきた素材で作ったナイフだ。ナイフってよりはダガータイプになっちまったがな」
「え? でもそれって未知の素材過ぎて加工ができないって話だったんじゃ」
「しょうがねえだろ。坊主が持ってきた素材が、まだ誰も見たこともねえ上級ダンジョンの百階のボス――エンシェントユニコーンの角だってんだからな」

 それは俺が初めて上級ダンジョンを最奥まで攻略した時のことだ。そこに眠っていたのは、水晶のような美しい角を持った巨大なユニコーンだった。
 文字通りたくさんの命を費やしてようやく討伐し、俺は晴れて上級ダンジョンにおいて初めての攻略者となったのである。

 そしてエンシェントユニコーンの角を素材として持ち帰り、せっかくだからこれで武器でも作ってもらおうとココへ持ってきたのだ。
 しかし未知の素材であり、普通の鍛冶ではまったく歯が立たない角に、真造さんはここでは加工できないと匙を投げた。

 それでも何か加工手段がないか調べるために、ずっと預けたままになっていたのだが……。

「まさか加工方法が見つかったんですか?」
「まあな。ちなみに見つけたのはそいつだ」

 そうして指を差した先にいたのは、ニッコリと笑みを浮かべたツクリである。

「え? ツクリが? ……嘘でしょ?」
「ちょっとジューリさん! 噓って何すか! これでも将来はお祖父ちゃんの後を継いで最高の鍛冶師になる予定の絶世の美少女なんすよ!」
「自分で言うなよ」

 どんだけ自信あんのこの子? まあ可愛いところは認めるけども。

「じゃあ何すか、ジューリさんのお嫁さんで泣く泣く我慢しとけってことっすか?」
「そんなこと一言も言ってねえし。それにその言い方だと俺の嫁さんになる価値って相当低くなるんですけど……」

 まあこんな俺の嫁さんになってくれる人がいるかは分からないが。だって借金塗れだしね。それに根暗だし、コミュ障だし、親父はろくでなしだし……って、あれ? 俺の人生最悪じゃね?

 そこへ真造さんが咳払いをして、脱線した話を元に戻すために語り出す。
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