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第九話
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――三ヶ月後。
俺は現在、都市の一角にある喫茶店で、ある人物と顔を合わせていた。
「んじゃ、今月の分」
そう言いながら、所持していた《トランクバッグ》をテーブルの上に置いて差し出す俺。
対面している相手は、周りから目を引くような美少女ではあるが、無表情無感情の権化のような人物であり、常にメイド服を纏っている。
「では確認させて頂きます」
淡々とした声音で、少女が腕にしている時計を《トランクバッグ》にかざした。
――ピッ、ピッ、ピッ。
何かに反応するかのように時計から音がし、液晶部分から3D画面が浮き出てきて、そこに次々と文字が刻み込まれていく。
流れるように映し出されるその文字を、ただジッと見ているメイド少女。
そしてしばらくすると、「確認できました」と言ったので、俺は右袖をまくって彼女が持っているものと同じ時計を見る。
すると彼女が画面を操作したあとに、俺の時計にもピッと音が鳴った。
「データ転送、完了です。ご確認ください」
俺は言われた通り、その画面に映し出されている文字の羅列を確認していく。
そこには俺がこの一ヶ月で獲得したモンスターの素材やら金品などの名前が刻まれている。
この時計は《スマートデバイス》といって、一昔前で世界中に普及していたスマートフォンの上位互換の機械である。
従来の機能も当然存在し、その上で便利な機能がまだまだたくさん備わっている。冒険者だけじゃなく、一般人にも必要不可欠なコミュニケーションツールだ。
「問題ねえ。あとは……任せていいんだな?」
「はい。いつものようにモンスター素材などの換金はこちらにお任せください。では空の《トランクバッグ》はここに置いておきますね」
少女は俺が差し出した《トランクバッグ》を自分の傍に置き、別の《トランクバッグ》を俺に差し出してきた。
「ああ。ていうか俺的には別の返済方法を認めてほしいんだけどな、アイツに」
アイツ……というのは、俺のご主人様のことである。
「素材選別料金、及び換金手間賃を引いた差額が返済として宛てられます。何かご不満でも?」
「へえへえ、どうせ何を言ったところで無駄だと思うけどよぉ。いい加減その換金手間賃とかふざけた理由で三割も持ってくんの止めてくんね?」
アイツ曰く、素材を選別するにも労力がかかるし、換金のための交渉などにも手間がかかるということで、俺が本来貰える利益の三割が消える。
てかそもそも素材選別と換金って同じことじゃね? だって換金する時に、素材を選別すると思うし。
んなことをアイツの前で言ったら、物凄い冷たい目で「は?」と言われた。だから怖くなった俺は、「何でもありません」と逆らうのを止めたのである。いや、だってマジで怖えんだよ。普段高くて可愛らしい声なのに、その時に限ってすっげえ低いんだぜ? あれは背筋が凍るわ。
ただ今目の前にいるのは、アイツ個人じゃないので、多少は気が大きくなるものだ。
そう、この少女は、そんなアイツに仕えるメイドなのである。
名前は――三車那智《みぐるまなち》。何でも幼い頃から、アイツ――富士鷹《ふじたか》ひなめ……というか富士鷹家に仕えていて、メイド副長という任についている、結構偉いさんだ。
こうして俺の返済時期には、直接俺のところまでやってきて取り立ててくる。どこにいても、その日になったらすぐに目の前に現れるのだ。
前に返済日の約束の時間にちょっと遅れたことがあった。それは途中で腹が痛くなって、公衆便所の世話になっていた時だ。
すべてを発散させて気持ち良くなってトイレから出た直後に、突然目の前で「お待ちしておりました」と頭を下げられた時は腰を抜かしそうになったものだ。
どうやら時間になっても俺が来なかったことで、直接俺がいる場所へとやってきたとのこと。
当然何で俺の居場所が分かったのか聞いた。すると彼女は能面のような表情でこう答えたのだ。
『メイドの嗜みですので』
ハッキリ言って意味が分からなかったが、俺はこの人からは絶対に逃げられないのだと悟った。だって約束の時間に、俺がどこで隠れていようが、必ず目の前に現れるのだから。
「三割が嫌……だと? そういえばお嬢様から預かっていたお言葉がございます」
「へ? ……何?」
「もし十利さんが返済に関して文句を言ってきた場合……」
「い、言ってきた場合……?」
「………………去勢す――」
「ぜんっぜん嫌じゃないっす! 三割大いに結構! むしろ四割でもオールオッケーな感じっすよ!」
去勢なんて洒落にならねえ! てかアイツだったらマジでしそうだし!
「そうですか。では四割契約ということでお嬢様にお話しておきますね」
「え? あ、いや今のは……」
「きっとお嬢様は大いに喜ばれますね。ポイント高いですよ、十利さん」
「そ、それはどうも……」
「ではわたくしはこれで。ここの代金は支払っておきますので、どうぞごゆっくり。あ、今の会話はすべて録音しておりますから」
那智さんは、《トランクバッグ》を持つと、席から立って、言ったように精算してから店から出て行った。
「…………や、やっちまったぁぁ……」
勢いだったとはいえ、三割が四割になった。俺は自分のバカさ加減に頭を抱えることになったのである。
「俺のバッカ野郎ォォォォォォォォォォォッ!」
どうやら俺の不運は、何度死んでも変わってはくれないらしい。
俺は現在、都市の一角にある喫茶店で、ある人物と顔を合わせていた。
「んじゃ、今月の分」
そう言いながら、所持していた《トランクバッグ》をテーブルの上に置いて差し出す俺。
対面している相手は、周りから目を引くような美少女ではあるが、無表情無感情の権化のような人物であり、常にメイド服を纏っている。
「では確認させて頂きます」
淡々とした声音で、少女が腕にしている時計を《トランクバッグ》にかざした。
――ピッ、ピッ、ピッ。
何かに反応するかのように時計から音がし、液晶部分から3D画面が浮き出てきて、そこに次々と文字が刻み込まれていく。
流れるように映し出されるその文字を、ただジッと見ているメイド少女。
そしてしばらくすると、「確認できました」と言ったので、俺は右袖をまくって彼女が持っているものと同じ時計を見る。
すると彼女が画面を操作したあとに、俺の時計にもピッと音が鳴った。
「データ転送、完了です。ご確認ください」
俺は言われた通り、その画面に映し出されている文字の羅列を確認していく。
そこには俺がこの一ヶ月で獲得したモンスターの素材やら金品などの名前が刻まれている。
この時計は《スマートデバイス》といって、一昔前で世界中に普及していたスマートフォンの上位互換の機械である。
従来の機能も当然存在し、その上で便利な機能がまだまだたくさん備わっている。冒険者だけじゃなく、一般人にも必要不可欠なコミュニケーションツールだ。
「問題ねえ。あとは……任せていいんだな?」
「はい。いつものようにモンスター素材などの換金はこちらにお任せください。では空の《トランクバッグ》はここに置いておきますね」
少女は俺が差し出した《トランクバッグ》を自分の傍に置き、別の《トランクバッグ》を俺に差し出してきた。
「ああ。ていうか俺的には別の返済方法を認めてほしいんだけどな、アイツに」
アイツ……というのは、俺のご主人様のことである。
「素材選別料金、及び換金手間賃を引いた差額が返済として宛てられます。何かご不満でも?」
「へえへえ、どうせ何を言ったところで無駄だと思うけどよぉ。いい加減その換金手間賃とかふざけた理由で三割も持ってくんの止めてくんね?」
アイツ曰く、素材を選別するにも労力がかかるし、換金のための交渉などにも手間がかかるということで、俺が本来貰える利益の三割が消える。
てかそもそも素材選別と換金って同じことじゃね? だって換金する時に、素材を選別すると思うし。
んなことをアイツの前で言ったら、物凄い冷たい目で「は?」と言われた。だから怖くなった俺は、「何でもありません」と逆らうのを止めたのである。いや、だってマジで怖えんだよ。普段高くて可愛らしい声なのに、その時に限ってすっげえ低いんだぜ? あれは背筋が凍るわ。
ただ今目の前にいるのは、アイツ個人じゃないので、多少は気が大きくなるものだ。
そう、この少女は、そんなアイツに仕えるメイドなのである。
名前は――三車那智《みぐるまなち》。何でも幼い頃から、アイツ――富士鷹《ふじたか》ひなめ……というか富士鷹家に仕えていて、メイド副長という任についている、結構偉いさんだ。
こうして俺の返済時期には、直接俺のところまでやってきて取り立ててくる。どこにいても、その日になったらすぐに目の前に現れるのだ。
前に返済日の約束の時間にちょっと遅れたことがあった。それは途中で腹が痛くなって、公衆便所の世話になっていた時だ。
すべてを発散させて気持ち良くなってトイレから出た直後に、突然目の前で「お待ちしておりました」と頭を下げられた時は腰を抜かしそうになったものだ。
どうやら時間になっても俺が来なかったことで、直接俺がいる場所へとやってきたとのこと。
当然何で俺の居場所が分かったのか聞いた。すると彼女は能面のような表情でこう答えたのだ。
『メイドの嗜みですので』
ハッキリ言って意味が分からなかったが、俺はこの人からは絶対に逃げられないのだと悟った。だって約束の時間に、俺がどこで隠れていようが、必ず目の前に現れるのだから。
「三割が嫌……だと? そういえばお嬢様から預かっていたお言葉がございます」
「へ? ……何?」
「もし十利さんが返済に関して文句を言ってきた場合……」
「い、言ってきた場合……?」
「………………去勢す――」
「ぜんっぜん嫌じゃないっす! 三割大いに結構! むしろ四割でもオールオッケーな感じっすよ!」
去勢なんて洒落にならねえ! てかアイツだったらマジでしそうだし!
「そうですか。では四割契約ということでお嬢様にお話しておきますね」
「え? あ、いや今のは……」
「きっとお嬢様は大いに喜ばれますね。ポイント高いですよ、十利さん」
「そ、それはどうも……」
「ではわたくしはこれで。ここの代金は支払っておきますので、どうぞごゆっくり。あ、今の会話はすべて録音しておりますから」
那智さんは、《トランクバッグ》を持つと、席から立って、言ったように精算してから店から出て行った。
「…………や、やっちまったぁぁ……」
勢いだったとはいえ、三割が四割になった。俺は自分のバカさ加減に頭を抱えることになったのである。
「俺のバッカ野郎ォォォォォォォォォォォッ!」
どうやら俺の不運は、何度死んでも変わってはくれないらしい。
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