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第一話
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「あー……こりゃマズッたなぁ」
俺は今、襲ってきている現状に対し辟易し、大きな溜息とともにボリボリと頭をかく。
「「「「ガルルルルルル……ッ!」」」」
俺を取り囲んでいるのは、体長十メートル以上にも及ぶ白い獣たちだ。口からボタボタと涎を垂らしながら、獲物である俺に対し睨み殺さんばかりの殺気をぶつけてきている。
止めろよ、怖えだろうが。今にも腰抜けそうだし。
コイツらの名前は白虎といい、噛む力は鉄でさえ砕くと言われ、一体でも遭遇すれば必ず逃げろと教えを受けるほどの存在だ。それが数にして十匹。
まさに絶望的な状況といえるだろう。
「まさか落とし穴に落ちた先が、こんなやべえモンスターハウスだったなんてな。相変わらず俺ってば運ねえわ」
これじゃ、サマージャンボや年末宝くじを幾ら買っても全部外れるのも仕方ない。
何せ絶対に200円は当たると言われているスクラッチカードですら何故か0円で終わるのだから。あれって業者のミスなんじゃね?
俺の運の無さは折り紙付きというか、とにかく泣けてくるほどなのだ。
すると痺れを切らしたかのように、目の前で唸り声を上げている白虎が、大口を開けて俺を一口で飲み込んでしまう。
口の中で何度も咀嚼し、その度に血肉が白虎の口から溢れてくる。
それを見た他の白虎は、もう興味を失ったかのように一体ずつその場から離れていく。
そして喉を鳴らし、獲物を胃袋に収めて満足したのか、一体残されていた白虎もその場を離れようとする――が、
「……ガル?」
どういうわけか、ピタリと足を止め眉をひそめる。
次の瞬間、白虎が苦しそうに蹲ったと思ったら、悲痛な叫び声まで上げて悶え始めた。
直後、白虎の腹部が異常なまでに膨らみ、そのまま――破裂した。
血肉とともに割れた腹部から桜色の閃光が迸る。
「ガルァァァァァァァァアアアアアアッ!」
断末魔の声を上げながら、白虎は死に絶えてしまった。
そんな白虎の腹部が僅かに動き、そこからぬるっと出てきたのが俺である。
「うっわ、全身血塗れ。くっせぇ~」
そこへ仲間の断末魔を聞いた白虎たちが、次々と舞い戻ってきた。
「ったく、今日は久しぶりに無傷で帰れると思ったのに。もう……二回も死んじまったじゃねえか」
俺は再び絶望の淵に立たされる環境にありながら、ニィ……ッと冷笑を浮かべる。
「悪いが、今日はもうさっさと帰りてえんだ。だから――一緒に死んでくれ」
――十分後。
壁や床にはビッシリと夥しいほどの血や肉片が飛び散っていた。
その場で息をしている存在はたった一つ。
血溜まりの中、俺は立ち尽くしながら深い溜息を吐いていた。
「ようやく終わったわぁ。あぁ~疲れた」
どんよりとした黒い瞳で周囲を見回し、他に敵がいないか確認する。どうやらここらのモンスターはコイツらだけだったみたいだ。
「とりあえずコイツらの素材は金になるしな。……でも剥ぎ取るの超めんどいわ」
そう愚痴を零しながらも、腰に携帯しているナイフで切り取った素材を、床に放り投げておいたバッグに詰めていく。
見た目は普通サイズのバッグだが、これは優れモノの〝マジックアイテム〟であり、その名を《トランクバッグ》といって、見た目以上の容量を誇り、一トンまでの重さなら何でも収納することができるのだ。
しかも重さもバッグそのものの重量から変化しないという有能さ。そんな持ち運びにも便利なバッグは、そこそこ貴重品であり冒険者なら手にしておきたい代物である。
さすがに白虎全部の素材を詰めるのは無理なので、より高値がつく皮や牙を収納した。
「うし、これで終わり……と。このナイフも刃毀れしまくって切れ味悪くなってきたなぁ。また新調しねえと」
バッグを装着すると、俺は改めて周りを見回し、自分が起こした現状を見つめる。
ここはダンジョン都市に存在するダンジョンの一つであり、難関と言われているダンジョンの九十九階層。
この都市にはダンジョンは五つ存在するが、俺が挑んでいるのは最上階が百階に設定されていて、当然上がる度に規模も大きく、またモンスターの強さも増していく。
さらに十階層ごとにボスモンスターが待ち構えており、倒せば次に進める階段が現れるという、まるで一昔前のRPGによくあったシステムになっている。
ちなみに十階層のボスは、腕利きと呼ばれる冒険者たちが、パーティを組んで挑まないといけないほどの攻略難易度だ。
だが俺は、たった一人でこの階層まで上ってきた。無論、各層のボスを倒してである。
ボスが一度倒しても、時間が経てばリスポーンするという訳の分からない仕様になっているので、一度倒したからといって安心はできない。
それでも下に戻る時は、別に相手をせずとも逃げることが可能なので、作戦次第では無傷で通り抜けることはできるが。
俺は下に通じる階段を目指し歩き始める。
そうして突き進む中、ふと思う。
まさか俺が、こんな激ムズダンジョンを攻略できるくらい強くなるなんてなぁ。
それもこれも、あの時からすべてが変わったのである。
俺は今、襲ってきている現状に対し辟易し、大きな溜息とともにボリボリと頭をかく。
「「「「ガルルルルルル……ッ!」」」」
俺を取り囲んでいるのは、体長十メートル以上にも及ぶ白い獣たちだ。口からボタボタと涎を垂らしながら、獲物である俺に対し睨み殺さんばかりの殺気をぶつけてきている。
止めろよ、怖えだろうが。今にも腰抜けそうだし。
コイツらの名前は白虎といい、噛む力は鉄でさえ砕くと言われ、一体でも遭遇すれば必ず逃げろと教えを受けるほどの存在だ。それが数にして十匹。
まさに絶望的な状況といえるだろう。
「まさか落とし穴に落ちた先が、こんなやべえモンスターハウスだったなんてな。相変わらず俺ってば運ねえわ」
これじゃ、サマージャンボや年末宝くじを幾ら買っても全部外れるのも仕方ない。
何せ絶対に200円は当たると言われているスクラッチカードですら何故か0円で終わるのだから。あれって業者のミスなんじゃね?
俺の運の無さは折り紙付きというか、とにかく泣けてくるほどなのだ。
すると痺れを切らしたかのように、目の前で唸り声を上げている白虎が、大口を開けて俺を一口で飲み込んでしまう。
口の中で何度も咀嚼し、その度に血肉が白虎の口から溢れてくる。
それを見た他の白虎は、もう興味を失ったかのように一体ずつその場から離れていく。
そして喉を鳴らし、獲物を胃袋に収めて満足したのか、一体残されていた白虎もその場を離れようとする――が、
「……ガル?」
どういうわけか、ピタリと足を止め眉をひそめる。
次の瞬間、白虎が苦しそうに蹲ったと思ったら、悲痛な叫び声まで上げて悶え始めた。
直後、白虎の腹部が異常なまでに膨らみ、そのまま――破裂した。
血肉とともに割れた腹部から桜色の閃光が迸る。
「ガルァァァァァァァァアアアアアアッ!」
断末魔の声を上げながら、白虎は死に絶えてしまった。
そんな白虎の腹部が僅かに動き、そこからぬるっと出てきたのが俺である。
「うっわ、全身血塗れ。くっせぇ~」
そこへ仲間の断末魔を聞いた白虎たちが、次々と舞い戻ってきた。
「ったく、今日は久しぶりに無傷で帰れると思ったのに。もう……二回も死んじまったじゃねえか」
俺は再び絶望の淵に立たされる環境にありながら、ニィ……ッと冷笑を浮かべる。
「悪いが、今日はもうさっさと帰りてえんだ。だから――一緒に死んでくれ」
――十分後。
壁や床にはビッシリと夥しいほどの血や肉片が飛び散っていた。
その場で息をしている存在はたった一つ。
血溜まりの中、俺は立ち尽くしながら深い溜息を吐いていた。
「ようやく終わったわぁ。あぁ~疲れた」
どんよりとした黒い瞳で周囲を見回し、他に敵がいないか確認する。どうやらここらのモンスターはコイツらだけだったみたいだ。
「とりあえずコイツらの素材は金になるしな。……でも剥ぎ取るの超めんどいわ」
そう愚痴を零しながらも、腰に携帯しているナイフで切り取った素材を、床に放り投げておいたバッグに詰めていく。
見た目は普通サイズのバッグだが、これは優れモノの〝マジックアイテム〟であり、その名を《トランクバッグ》といって、見た目以上の容量を誇り、一トンまでの重さなら何でも収納することができるのだ。
しかも重さもバッグそのものの重量から変化しないという有能さ。そんな持ち運びにも便利なバッグは、そこそこ貴重品であり冒険者なら手にしておきたい代物である。
さすがに白虎全部の素材を詰めるのは無理なので、より高値がつく皮や牙を収納した。
「うし、これで終わり……と。このナイフも刃毀れしまくって切れ味悪くなってきたなぁ。また新調しねえと」
バッグを装着すると、俺は改めて周りを見回し、自分が起こした現状を見つめる。
ここはダンジョン都市に存在するダンジョンの一つであり、難関と言われているダンジョンの九十九階層。
この都市にはダンジョンは五つ存在するが、俺が挑んでいるのは最上階が百階に設定されていて、当然上がる度に規模も大きく、またモンスターの強さも増していく。
さらに十階層ごとにボスモンスターが待ち構えており、倒せば次に進める階段が現れるという、まるで一昔前のRPGによくあったシステムになっている。
ちなみに十階層のボスは、腕利きと呼ばれる冒険者たちが、パーティを組んで挑まないといけないほどの攻略難易度だ。
だが俺は、たった一人でこの階層まで上ってきた。無論、各層のボスを倒してである。
ボスが一度倒しても、時間が経てばリスポーンするという訳の分からない仕様になっているので、一度倒したからといって安心はできない。
それでも下に戻る時は、別に相手をせずとも逃げることが可能なので、作戦次第では無傷で通り抜けることはできるが。
俺は下に通じる階段を目指し歩き始める。
そうして突き進む中、ふと思う。
まさか俺が、こんな激ムズダンジョンを攻略できるくらい強くなるなんてなぁ。
それもこれも、あの時からすべてが変わったのである。
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