俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

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「ふぅん、それじゃ結構大変だったんだ」

 家庭科室にて、選択授業である食育の最中、沖長は魚を捌きながら籠屋本家で起こった出来事を、同じく食育を選択している水月に教えていた。
 ナクルから事のあらましは大体聞いていたらしいが、改めて話を聞きたいと言った彼女に、こうして伝えることにしたのだった。

「まあでも、みんな無事だったんだからホッとしたし。あたしも手伝えたら良かったんけどねぇ」
「さすがに今の九馬さんじゃ、ハードダンジョンは厳しいと思うぞ」
「あ、フフーン。見くびられてるなぁ。これでもお師匠には素質があるって褒められてんだから!」
「お師匠? ああ……千疋のことか」

 水月は千疋から勇者としての手解きをしてもらっているのだ。元々才能があることは分かっていたが、初代からの知識を引き継ぐ千疋のシゴキで、最近メキメキと腕を上げているらしい。

「確かもうオーラの扱いも随分と慣れたみたいだね」
「そうそう! 札月くん相手でもあたし買っちゃうかもよ~」
「はは、そいつは怖いな。こっちも負けずに頑張らないと」

 ただ水月が本格的に戦えるようになれば、自衛力として申し分がなくなる。何せ、彼女はこれでも原作勇者の一人なのだ。あのユンダが目をつけるほどに。
 しかし沖長にとっては、でき得るならダンジョンに挑むようなことはしてほしくない。いくら勇者といえど危険が無いとは言えないし、原作での彼女の末路を知っている側としては複雑なのである。

 それでも彼女に力があることは確かで、今後もユンダや他の妖魔人が接してくる可能性が無いとは言えない。だからせめて自衛できるだけの実力をつけさせたいとは思っている。
 そのためにも千疋に師事していることは、彼女にとって大きな財産に成り得る。

「それにしても札月くんもよくトラブルに巻き込まれるよね。あたしの時もそうだったけど、その新しい勇者の子? も札月くん絡みっしょ?」
「別に好きでトラブルに突っ込んでるわけじゃないんだけどなぁ」

 しかしこればかりは仕方ない。何故なら主人公のナクルの傍にいるということは、必然的にイベントの渦中に立つということなのだから。

「あ、でも聞いたよぉ。その勇者の子、まぁた可愛い女の子なんだってね?」
「へ? まあ可愛いらしくはあるかな。ナクルとはまた違った妹みたいな感じ?」
「えーでもすっごい懐かれてるって聞いたよ?」
「う~ん、そこが不思議なんだよなぁ。俺は別に特別なことはしてねえんだけどさ」
「けど危ないところを救ってあげたんでしょ? あたしの時みたいに」
「それは当然だろ? 黙ってみてるなんてできっこないって」
「はぁ……そういうところだと思うけどなぁ」
「? どういうことさ?」
「べぇつにぃ~。ただいつか修羅場にならなきゃいいなってこと」
「修羅場? ……それならもう結構経験してるぞ? この間も死にそうになったし」
「そういう意味で言ったんじゃないし……」

 何だか呆れたようなジト目を向けられてきているが、その意図するところが良く分からない。

「ま、いっか。でもナクルを泣かしたら承知しないからね!」
「いやいや、俺がナクルを泣かせることはないって」
「そう願いますぅ~。ところで今度の土曜、その噂の勇者の子が来るんでしょ?」
「もしかしてナクルに聞いた?」
「そうそう。あの子、その話をした時、ちょっと不機嫌だったし」
「あーどうにも二人とも相性があまり良くなくてな。特に俺と一緒の時は言い合ったりしててさ…………何でだろう?」
「…………」
「何、そのコイツマジかっていう目は?」
「……はぁ。やっぱいつか修羅場るはコレ……」
「はい?」
「お師匠もそうだし蔦絵さんも怪しいし………………ライバル多過ぎてしょげるわ」
「ん? ライバルが何だって?」
「な~んでもないし! そんなことよりもほら、こっちの魚も捌いて!」
「え? コレ九馬さんの分なんだけど……」
「ナニカ言った?」
「い、いえ! 喜んで捌かせて頂きます、はい」

 怖い。笑顔なのに怖い。女性がこういうオーラを醸し出す時は下手に反抗しない方が良いと直感で察知している沖長は、素直に言うことを聞くのであった。
 それからその日の授業が恙なく終わると、ナクルや水月と一緒に帰宅することになったのだが……。

「……あれ? あそこにいるのってお師匠?」

 正門前にその姿をいち早く発見したのは水月だった。確かにそこにいたのは彼女の師である十鞍千疋。

「おう、待っておったぞ」

 向こうもこちらに気づき笑顔を見せる。何故ここで待ち伏せなんかをしているのか尋ねると、どうにも千疋の親友である壬生島このえが沖長を連れてきてほしいとのこと。何でも大事な話があるらしい。

「ま、まさか札月くん……このえさんにまでその無邪気な牙を?」

 水月が一体何を言っているのか分からないから無視だ無視。

「千疋の言うことは分かった。これから向かえばいいのか?」
「うむ。ではともに行こうぞ」
「ああ……って、何で腕を組む?」

 まるでエスコートを望むかのようにさり気なく右側に寄り添ってきた。

「ちょっ、千ちゃん! オキくんから離れるッスよ!」
「それは聞けぬ要望じゃのう。ほれ水月、左が開いておるぞ」
「ふぇ? あ、え、えっとぉ……じゃあ」

 若干戸惑いつつも、何故か千疋に促されるように左腕の裾をチョコンと掴んできた。

「あーっ! 水月ちゃんまで!? ズルイッスズルイッス!」
「お、おいナクル、あんまり大きな声を出すなって」
「何でッスかぁ!?」
「いや、何でって……」

 チラリと周りを見ると、女子たちは楽しそうにニヤニヤしながら見ているし、その逆に男子からは殺意を感じる。当然その視線は沖長に集中しているが。
 ナクルもそうだが、水月も千疋も美少女だ。そんな三人に言い寄られている状況であり、男子たちが沖長を敵視するのは当然だった。

「と、とにかくさっさと行くぞ!」

 一刻早くここから離れたいと急ぎ足になる沖長に対し、ナクルは「あ、待つッスよ~!」と慌てて追いかけて行った。



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