俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

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 どうにかギリギリ間に合ったようで沖長はホッとしていた。
 ただ見るからに雪風はボロボロだ。少し確認しただけだが命には別状ないように思えることが幸いである。しかしすぐに治療した方が良いのも確か。 

 最優先はダンジョンからの帰還ではあるのだが……。

(これは一体どういうことだ?)

 沖長は、いまだ唖然としながらこちらを見つめている雪風を横目に、噴水の頂点に優雅にティータイムしている謎の女性を見て眉をひそめた。

(ユンダじゃ……ねえよな)

 外見は人間のようにしか見えないが、明らかに纏う雰囲気が人間のソレとは違う。間違いなくその身から放たれているのは、ユンダと同じ悍ましいまでの気圧。つまり妖魔人である可能性が高いのだが、このようなイベントが起こるなど長門からは聞いていない。

(ユンダじゃなかったことに喜ぶべきか、違う妖魔人だったことを嘆くべきか)

 一応ユンダ対策として、どこまで通じるか分からないが馬面の被り物をしてきたのだ。もっとも本格的な戦闘になれば、すぐに壊れてしまうだろうが。それでも念には念を入れてだったのだが、ココにはユンダの気配はなく別の妖魔人らしき女性がいる。

(随分と貴婦人っぽい感じだな……話は……通じねえかもな)

 実際に雪風を追い詰めていたのは彼女だ。それに先ほどの攻撃を弾いていなければ、雪風は致命傷を受けていた危険性があった。つまり間違いなく人間の敵である証拠。

「ふむ……なかなかに愉快な見た目をしていらっしゃいますわね」

 そんな危険度マックスの女性が、不意に声をかけてきた。

「ココへ入って来られたならば今代の勇者かあるいはその資質を持つ者。あなたはどちらでしょうね」

 沖長の登場に一瞬だけ目を見開いたものの、すでに表情は涼し気で焦りの一つも見せていない。増援が来たとて取るに足らないとでも思っているのだろう。実際まともに戦っては沖長に勝ち目がないが。

「……雪風」
「……」
「……雪風!」
「!? は、はい!」

 ようやく反応してくれた。意識まで遠のいていたのかと思い不安だった。

「ここから逃げるぞ、いいな?」
「え、あ、そ、それは……それよりもあなたはどちら様なのですか?」
「はい? ……ああ」

 そういえば馬面だったことを思い出す。

「俺は……」

 名前だけでも告げて疑心暗鬼になっている雪風から警戒を取ろうとした直後、こちらに向かって女性から攻撃が繰り出される。
 すぐに両手に持っていた千本で、迫ってきたナニカを弾き飛ばす。

(……黒い薔薇)

 先ほど雪風を仕留めようとしたモノと同一。それにしても鉄か何かでできているのかと思うほどに固い。オーラを込めた千本でかなりの力で弾き飛ばしているにも関わらず傷一つないのだから。

「フフフ、少しは腕に覚えがあるようですわね。ならばこれでいかがでしょうか?」

 女性の言葉と同時に、彼女の傍の空間が歪み、そこから巨大な茨が伸びてきた。これはさすがに千本では防げそうにない。
 沖長は咄嗟に雪風を「ちょっとごめんな」と言って横抱きにする。

「ふぇっ、ちょっ……!?」

 いきなり見知らぬ奴に抱きかかえられるのは嫌だろうが今は我慢してもらうしかない。そのまま沖長は全速力で離脱していく。しかし茨が真っ直ぐ背に向かって追随してくる。

(向こうの方が速いか!? ――なら!)

 沖長の背後に突然出現したのは――大岩。茨はその岩に激突して動きを止めた。その隙に沖長は建物の陰へと入っていく。

「あら……これは愉快な逸材を見つけたかもしれませんわね」

 攻撃を防がれたというのに、女性は楽し気に笑うと、その場から音もなく消え去った。
 対して沖長は、一つの建物の窓から中へ侵入して息を潜めていた。

「…………あ、あの」

 雪風が何やら小声で話しかけるが、沖長は追っ手の気配に集中していたためか気づいていない。

「あ、あの!」
「!? え? あ、どうしたの?」
「ど、どうしたのではありませんです! その……もう降ろしてください」
「……ああっと、悪い悪い」

 そういえば雪風を抱えたままだった。彼女は恥ずかしいのか、それとも怒りが込み上げているのか、赤らめた表情で距離を取ると、こちらを睨みつけてきた。
 正直あれほど慕ってくれていた存在にこうまで拒絶反応を見せられるとなかなかに心が軋む。

「た、助けて頂いたことは感謝しますです。ですが……不気味過ぎなのです」

 どうもこの馬面がすべてを台無しにしている様子だ。雪風の誤解は早く解いておいた方が良いと判断した。加えて沖長の心の平穏のためにも。

「混乱させて悪かったよ。ほら、俺だ俺」

 そう言って面を取ると、雪風は信じられないものを見たような表情をした後、すぐに涙目になって飛び込んできた。

「おっと……はは、来るのが遅れて悪かったな、雪風」
「お兄様ぁぁぁぁっ…………こわっ……怖かったのですぅぅぅ……」

 優しく抱きしめながら泣きじゃくる雪風の頭を撫でてやる。
 しばらくそうしていると、ようやく落ち着いてきたのか雪風が胸の中から顔を上げて見つめてきた。

「お兄様……ここは……どこなんですか?」
「……そっか。雪風はダンジョンのことは知らないんだな?」
「ダンジョン? ……物語とかで出てくるあの?」
「ダンジョンってのは、地球とは別の異世界のことだ。最近地球のあちこちで、ここと同じような異空間に繋がる亀裂が発生してる」
「! そんなことが……知りませんでした」

 家も家だから、陣介たちに教えてもらっていると思っていたが、さすがにまだ若いためか時期を見ていたのかもしれない。

「元の世界には……戻れませんか?」
「通って来た亀裂を引き返せば帰れる。けど、ここには妖魔って呼ばれる人類の敵が生息してるんだよ」
「ヨウマ……! ではあの女性もそのヨウマというやつですか?」
「そうだな、けどそこらにいる妖魔とは桁違いの実力者だ。時間がないから詳しいことは後にするけど、今はとにかく逃げることを考えるんだ」
「わ、わかったのです! 雪はお兄様に従います!」
「いい子だ。……それよりも雪風、身体は大丈夫か? 血も出てるようだけど……」
「傷の具合は見た目よりもましなのです。けれど……」
「けれど?」
「オーラが使えないのです」
「オーラが?」

 雪風が自分の足首に刺さっている黒い薔薇について説明してくれた。



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