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 以前金剛寺銀河に呼び出された時と同じ場所で彼と二人で対面することになった。
 ナクルが沖長を守るためについていきたいと言ったが、何とか説得して教室に残ってもらうことになったのである。

 ただ以前と違うところがあるとするなら、目の前にいる銀河から強烈な敵意を感じなくなっていることか。
 前回はすぐに殴りつけてきたが、その時も彼からの敵意があったから、いつでも攻撃に対処できるように警戒していた。しかし何故か今回は、前ほどの敵意は感じない。
 実際こちらを睨みつけているが、すぐに飛び掛かってくる様子はない。

「……それで? またここに呼び出して今度は何だ?」
「……っ」

 沖長の問いに対し、何か酷く言い辛そうな表情を浮かべる。しかしいつまで待っても口を開いてはくれないので、軽く溜息を吐いてから背中を押してやることにした。

「夜風さんが心配してたけど、あんまり家族に心配かけたりすんなよ」

 もっとも彼が落ち込んで引きこもった理由を作った張本人としては、誰が言っているんだと言われてもおかしくないが。

「っ……うるせえな。姉ちゃんの話をお前がすんな」

 ……姉ちゃん?

 少し違和感を覚えた。いつもだったら他人の前では〝姉貴〟と呼んでいた。恥ずかしいのか、格好をつけているのか分からないが、沖長たちクラスメイトの前では極力そう呼称していたのだ。
 それが今は違う。加えて語気にはどこか親しみさが含まれているように感じた。

(夜風さん、金剛寺が立ち直ったって嬉しそうに電話してきたけど、姉弟仲も修復したってのか?)

 どちらかというと夜風の一方的な親愛だったが、銀河もまた彼女のことを家族として認めたのかもしれない。だとするなら良いことではあるが……。

「じゃあ何で呼んだ? また勝負でもしようってか?」
「それは……」

 直後、銀河思わぬ言葉が投げかけられた。

「お前は本当にただのイレギュラーなのか?」
「…………言ってる意味が分からんが?」
「俺や他の連中のせいで生まれたイレギュラーかって思ってたけど、それにしてはおかしいことがいっぱいあんだよ」
「だから、何を言って――」
「今日の体育でもお前はやらかしただろ!」
「! ……」

 あのバレーボール時に、咄嗟にボールを破裂させたことを言っているのだろう。

「クラスメイトの連中は、ボールに空気を入れ過ぎてたから破裂したとか、腐ってたとか訳の分からねえことばっか言ってやがったけど、アレは……違う」

 すると銀河が咎めるような眼差しを向けてくる。

「あの時、お前の右手にはオーラが宿ってた!」
「…………」
「ただのイレギュラーがオーラまで使えるなんて有り得ねえ」
「何が言いたいんだ?」
「お前も神に転生させてもらったんだろ?」
「また転生か……何度言われても俺は――」
「別に認めなくていいぜ」
「ん?」
「正直、お前が転生者だろうがそうでなかろうが今はどうだっていい」
「……なら何で聞いたんだよ」

 今の時間は一体何だったのだと呆れてしまう。

「どっちだろうが、分かってるのはお前は普通じゃねえってことだ」
「失礼な。俺ほど常識人はそうはいないぞ」
「フン、誤魔化そうったってそうはいかねえよ。いや、そんなことを言いたいわけじゃねえ」

 先ほどから銀河の真意が見えない。何を目的としてこの場を設けているのか……。

「お前じゃねえのか? 俺から能力を奪ったのは?」

 なるほど。それが本題だったようだ。確信はなさそうだが、状況判断から察したらしい。もっとも普通に考えれば有り得る想像だから大したことでもないが。何せ彼が能力を失った前後には沖長がいたのだから。

「能力? 奪ったって? さっきから何言ってんだ?」
「やっぱ素直に言ってくれるわけねえよな……当然か」
「……!?」

 その時、あろうことか銀河が両膝を地面について頭を下げたのだ。

「頼む! もし本当にお前が俺から能力を奪ったのなら返してくれ!」

 よもやあの高慢と横柄が擬人化したような銀河が素直に謝罪するとは思わなかった。しかもこれまで憎々しい相手として見ていた沖長い対して土下座までして。

(おいおい、コイツに何があったんだ?)

 正直意外過ぎて軽いパニック状態だ。銀河からは敵認定されていると確信していたし、きっと和解もできないのだろうなと諦念していた。
 彼が依存していた能力を奪ったことで引きこもりになり、もう二度と会うことすらないかもしれないとまで考えていた。それが立ち直って学校に来るどころか、こうして敵相手に謝罪までするなど誰が想像できようか。

「お前が何を言ってるのか、何でいきなり土下座なんかしてるのか分からないけど、正直迷惑だから止めてほしいんだが?」
「っ……ダメか? これでも能力を返してくれないのか?」
「だから……」
「もう二度と悪いことには使わねえって誓う! だから!」

 どうやら彼の中では沖長が犯人だと断定している様子。明確な証拠はないので、もちろんこのまますっとぼけるつもりでいる。
 心を入れ替えた。そう言葉にするのは簡単だが、それでも本当に心変わりしたのか確証はないし、たとえ一時でもまともになっても、能力を手にするとまた歪む危険だって十二分に有り得る。

 今の銀河を信じるだけのものが、沖長には持ち得ていない。何せこれまでがこれまでだったのだ。そう簡単に信じるなんてできるわけがない。そしてそれを銀河も痛感しているのか、

「お前が俺を信じられねえのは当然だと思う。でも俺は……俺には必要な力なんだよ」

 今も地面に頭を擦りつけている姿を見ていると、まるでこちらがイジメているような気分になってくる。

「これから戦っていくためにも、転生特典が必要なんだ! 転生者のお前なら分かるだろう?」

 銀河にとって戦うための武器は転生特典だけのようだ。その言葉を聞いて、益々彼を信じられなくなった。

「……仮に俺がお前の能力とやらを奪ったとしよう。お前はその能力を使っていろいろ悪さをしていた。なのに返してやると思うか?」
「だからもう二度としねえって言ってんじゃねえか!」
「今のお前を見て信じる根拠がねえよ」
「!? ……んでだよ…………何でだ? こんなに頼んでんのにっ!」

 懇願する銀河を前に、沖長は背を向ける。そして決定的な言葉をぶつける。

「お前にとって本当に必要なものが何なのか。特典とやらがなければ本当に戦えないのか。もう一度ジックリ考えてみるんだな」
「ちょ、待て……待てよ! まだ話は……っ!?」

 顔だけ振り向いて睨みつけてやると、怯えたように口を閉ざす銀河。
 そうして大人しくなった銀河を置いて、沖長はそのままその場を去って行った。 
 残された銀河は悔しそうに「ちくしょう……」と全身を震わせていたのであった。


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