俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

文字の大きさ
上 下
172 / 233

171

しおりを挟む
 インターホンが鳴ってしばらくすると、こちらに近づいてくる気配を感じながら黙して待っていると、突然庭に面している障子が勢いよく開いた。
 そこにいた人物を見て、沖長は思わず「あ!」と声を上げ、その者の名を口にする。

「だ、大悟さん!?」

 ――籠屋大悟。以前日ノ部家と一緒に温泉旅行に出かけたことがあるが、その時に世話になった旅館の大将である。

 見た目は誰も寄せ付けないほどの強面顔さと威圧感を放っているが、意外にも面倒見が良くて沖長とナクルも世話になった。
 そんな人物が派手なポロシャツと短パンを着用した状態で登場したのである。

「よぉ沖長、久しぶりじゃねえか。元気にしてたか?」
「は、はい! えっと……」

 説明を求めたくて、挨拶をしてきた大悟から修一郎へと視線を向けた。すると修一郎は微笑を浮かべながら、「彼がそうさ」と口にしたのだ。

「……まさか助っ人、ですか?」

 沖長の問いに対し、修一郎が首肯する。一体誰を呼んだのかと思ったが、まさかあの山奥の旅館から大悟を呼び出すとは思っていなかった。

「ほれ、土産だ」

 早足で沖長の傍までやってきた大悟が、手に持っていたビニール袋を渡してきた。受け取って中を見ると、そこには子供が喜びそうな玩具が複数入っていた。

「あ、ありがとうございます、大悟さん」

 ハッキリ言ってあまり嬉しい土産ではないが、それでも気を遣ってくれたことに関してはしっかり礼を言っておく。
 すると大悟が、修一郎の方へ身体を向けてそのまま座り込む。

「んで、男二人で何話してたんだよ?」
「おいおい、いきなりだな。少しは長旅の疲れを癒そうとか思わないのかい?」
「けっ、てめえが俺を呼びつけるなんて普通じゃねえだろうが。それに遊びに来たわけじゃねえんだ、さっさと本題に入りやがれ」

 相変わらずのせっかちぶりだが、こちらとしてもありがたい申し出だ。大悟の強さは修一郎のお墨付き。過去のダンジョンブレイクでも活躍したそうなので心強いものを感じる。
 修一郎から、昨今に起こった出来事を掻い摘んで教えてもらった大悟は、元々険しい顔つきをさらに険しくさせた。

「ちっ……よりにもよって妖魔人ユンダかよ。それに加えて恭介のクソ野郎がナクルを拉致しようってか? かぁ……相変わらずてめえの血筋はどうなってんだよ? 大人しく暮らせねえのか、ああ?」
「はは、俺たちは何もしてないんだけどなぁ」
「そんなだから『渦巻き一族』って言われんだよ」

 こちらが意図していないにもかかわらず、次々とトラブルを引き込んでしまう体質。それを揶揄って『渦巻き一族』と周りは呼ぶ。

「あの、大悟さん。大悟さんもユンダのこと知ってるんですよね?」
「まあな。この野郎と一緒で喧嘩したこともあるしよぉ」
「ケンカって……それで、やっぱり強かったですか?」
「……腐っても妖魔人だぜ。ブレイヴオーラを持ってねえ俺やコイツには、足止めできても倒すことはできねえ」

 それはつまり倒すことはできなかったということ。

「けどよぉ、それを抜きにしてもヤツは強え。妖魔人の中でもトップクラスだろうよ」

 そう、妖魔人は何もユンダだけではない。
 妖魔を統べる存在のことを妖魔人と呼称するが、その存在は最低限でも妖魔千匹に相当する戦闘力を持つと言われているらしい。

 中でも妖魔人ユンダの強さは上位であり、かつて修一郎と大悟も死闘を繰り広げたが、結局完全に討伐することはできなかったとのこと。

「当時の勇者も倒せなかったということですよね?」
「そうだね。時の勇者として活躍した者たちは、全員が妖魔人よりも恐ろしい存在と戦っていたから」
「それって……」
「魔王…………の、欠片だ」

 大悟の言葉に思わず眉をひそめて「欠片?」と問い返した。

「妖魔人の連中が望むのは魔王の復活だ。けど当時、奴らは復活させるところまではいかなかったらしいぜ」
「うん。何でも復活のためのエネルギーが足りなかったようでね。けれどそれでも蓄えたエネルギーを使って不完全ながらも復活を試みた結果、生まれたのが〝魔王の欠片〟と呼ばれた存在だったんだよ」

 つまりは完全体である魔王ではなく、あくまでもその力を一部引き継いだ存在だったという。

「けどま、それでも俺ら人間にとっちゃバケモンだ。何せ何人もの勇者は殺され、結果的に生き残ったのは二人だけ。俺らみてえなオーラ使いもバカみてえに殺されちまったよぉ」

 殺された者たちの中には、当然ながら修一郎たちと同格以上の強さを備える者もいた。それでも魔王の欠片に容易く命を奪われてしまったのだ。

(とんでもねえな、魔王ってやつは……)

 欠片でさえ常軌を逸した存在だ。もし完全体だったらと思うとゾッとする。恐らく今頃はこの世界は存在していない可能性があったのだから。
 多くの被害を出しながらも、当時の勇者たちは多くの者たちと力を合わせて魔王の欠片を討伐するに至った。それと同時に、それまで活動していた妖魔や妖魔人もまた、ダンジョンとともに姿を消したのである。 

 こうして日本を、いや、地球を滅ぼしかねない未曽有の危機を救ったのだ。まさにそれは英雄の所業と呼べるだろう。

「じゃあ今頃ユンダが出てきたのは……」
「当然、魔王復活のためだろうぜ」
「大悟の言う通り、俺もそう思う。しかし魔王復活にはかなりの時間がかかることも事実だ」
「……その魔王を復活させるエネルギーというのは?」

 本当は知っているが、ここで尋ねないと不思議なので質問を投げかけた。

「ダンジョンにはコアがあることは知っているね?」

 修一郎の問いに対し「はい」と頷く。

「そのコアには膨大なエネルギーが蓄積されているんだけど、妖魔人たちはそのコアエネルギーを欲しているんだ」
「ダンジョンコアの?」
「そう。ただしそれは普通のダンジョンコアじゃない」
「……普通じゃないとはどういうことですか?」

 少し間を開けた後、修一郎は二人の視線をその身に受けつつ答える。

「奴らが欲するのは、勇者が持つダンジョンコアのエネルギ―なんだよ」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

チートをもらえるけど戦国時代に飛ばされるボタン 押す/押さない

兎屋亀吉
ファンタジー
チートはもらえるけど戦国時代に強制トリップしてしまうボタン。そんなボタンが一人の男の元にもたらされた。深夜に。眠気で正常な判断のできない男はそのボタンを押してしまう。かくして、一人の男の戦国サバイバルが始まる。『チートをもらえるけど平安時代に飛ばされるボタン 押す/押さない』始めました。ちなみに、作中のキャラクターの話し方や人称など歴史にそぐわない表現を使う場面が多々あります。フィクションの物語としてご理解ください。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!

飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。 貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。 だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。 なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。 その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

家族に辺境追放された貴族少年、実は天職が《チート魔道具師》で内政無双をしていたら、有能な家臣領民が続々と移住してきて本家を超える国力に急成長

ハーーナ殿下
ファンタジー
 貴族五男ライルは魔道具作りが好きな少年だったが、無理解な義理の家族に「攻撃魔法もろくに使えない無能者め!」と辺境に追放されてしまう。ライルは自分の力不足を嘆きつつ、魔物だらけの辺境の開拓に一人で着手する。  しかし家族の誰も知らなかった。実はライルが世界で一人だけの《チート魔道具師》の才能を持ち、規格外な魔道具で今まで領地を密かに繁栄させていたことを。彼の有能さを知る家臣領民は、ライルの領地に移住開始。人の良いライルは「やれやれ、仕方がないですね」と言いながらも内政無双で受け入れ、口コミで領民はどんどん増えて栄えていく。  これは魔道具作りが好きな少年が、亡国の王女やエルフ族長の娘、親を失った子どもたち、多くの困っている人を受け入れ助け、規格外の魔道具で大活躍。一方で追放した無能な本家は衰退していく物語である。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

転生したアラサーオタク女子はチートなPCと通販で異世界でもオタ活します!

ねこ専
ファンタジー
【序盤は説明が多いので進みがゆっくりです】 ※プロローグを読むのがめんどくさい人は飛ばしてもらっても大丈夫です。 テンプレ展開でチートをもらって異世界に転生したアラサーオタクOLのリリー。 現代日本と全然違う環境の異世界だからオタ活なんて出来ないと思いきや、神様にもらったチートな「異世界PC」のおかげでオタ活し放題! 日本の商品は通販で買えるし、インターネットでアニメも漫画も見られる…! 彼女は異世界で金髪青目の美少女に生まれ変わり、最高なオタ活を満喫するのであった。 そんなリリーの布教?のかいあって、異世界には日本の商品とオタク文化が広まっていくとかいかないとか…。 ※初投稿なので優しい目で見て下さい。 ※序盤は説明多めなのでオタ活は後からです。 ※誤字脱字の報告大歓迎です。 まったり更新していけたらと思います!

処理中です...