157 / 220
156
しおりを挟む
「……………っぷはぁぁぁぁ~!」
すべての緊張から解き放たれたかのように脱力しながら盛大に息を吐き出した。
仰向けに横たわる沖長は、ぼう~っと見知らぬ天を見上げながら心を落ち着かせていた。
そして気怠い感じで右手を目の前に持ってきて閉じては開いてを繰り返す。
(……生きてるってことは……上手くいったってことだよな)
少しそのままで呼吸を整えた後、ゆっくりと上半身を起こし周囲を見回す。
そこに広がっている光景は一言で言うなら――異質。
白、白、白、白、白。
辺り一面、どこを見渡しても白一色なのだ。こんな場所にいるだけで、普通は息が詰まるし気が狂う者もいるかもしれない。それほどまでに何もない空間。
しかし沖長にとっては、どこか落ち着く感じがする暖かな場所でもあった。
そして一切慌てていない。何故ならここがどこかは分かっているからだ。
あの時、ユンダの無慈悲にも似た一撃が振り下ろされた瞬間、防御も回避も不可能だと悟った。いや、正確にいえばたった一つだけ回避する方法は思いついていた。
ただそれまでに試したことはなかったし、上手くいく保証はどこにもなかった。しかし最早それに懸けるしか生き延びる道がなかったのである。
沖長を窮地から救ってくれた存在。その存在の〝中〟に現在佇んでいるのだ。
そしてそれは――。
「ここが――――《アイテムボックス》の中か」
そう、ユンダから放たれた凶悪な一撃から身を守るにはこれしか方法が思いつかなかった。
以前不意にこの〝回収〟の効果について考えたことがあった。
確かに沖長が生物と認識している存在は回収することができないが、ならば自分自身はどうだろうかと。
間違いなく生物であることは疑いようもない事実だが、能力を行使している本人はその範疇に入らないのではないか、と。
ただ試そうとは思ってみても、少し踏ん切りがつかなかったこともあった。
何せ仮に回収できたとして、自分の身体がボックス内に在るのだ。中は時間凍結しているはずだし、そこで自分の時間も停止して永久に動けなくなるのではという懸念があった。
またそこで動けたとしても、自分自身を外に取り出すことが可能なのか否かも定かではなかったため今まで躊躇われてきた。
だがあの瞬間、自分が生き残るにはコレしか方法はなかったため使わざるを得なかったわけである。
一応こっちに来る前に、以前もしかしたら輸血に活用できるかもと事前に回収しておいた自分の血液を大量に取り出しておいた。加えてクリスマスに母が購入していた丸鶏も数羽分放出してから自分を回収したのである。
これで上手くいけば、沖長という人間を殺した実感をユンダに与えることができると踏んだ。もっとも詳しく現場を調べられたら、肉片が人間のものではないことは分かるだろうが。そこはもう賭けるしかなかった。
(てか、あの一瞬でよくそこまで頭が回った自分を褒めてやりたいわ……)
ほとんど反射的に行った感じだったが、これも普段の修練の賜物だとするなら古武術を習ったのは心から正しい判断だったと思う。
「にしても…………何も無いな」
とりあえず自分の身体は動くし心臓も止まっていないことから、自分が時間凍結していないことは理解できた。そして回収できた事実にも、やはり使い手は例外だということも知ることができてホッとしている。
しかしながら、まさかボックス内がこんな白一色の世界だとは思いもしていなかった。
「回収したものがどっかに収められると思ってたんだけど…………無いよな?」
どこを見渡してもやはり無限に白が広がっているだけ。
「……あ、そうだ。確認してみるか」
何かここから出る手がかりでもと思って、いつものボックス画面を開いてみた。
すると〝新着〟カテゴリーにそれはあった。
Ⅹ 札月沖長(アイテムボックス使用者)
「…………Ⅹ?」
見慣れないランクが記載されていて思わず瞠目した。
ランクの最大値は〝S〟までのはずだ。そして最低値は〝F〟。
故に〝X〟というランクは有り得ない。
困惑しながらもテキストを確認するためにクリックすると、別画面が開いて札月沖長の概要が示される。
その内容は当然ながら自分でも知っているものばかり。だから今度は〝X〟の方をクリックしてみた。
すると――。
「Xとは…………ランク外の存在?」
そこに書かれていた内容を熟読していく。
どうやら〝X〟というのはランクを示すものではなく、ランクでは位置付けできない存在に与えられる称号のようなものらしい。
またココは〝X界〟と称されており、《アイテムボックス》の根幹を成す場所でもあるとのこと。つまりダンジョンでいうならばコアみたいなものだろうか。
「ここでは時間も空間も、すべてが思いのままで、鍵となるマスターのみがその力を自在に行使することが可能……か。マスターってのは多分俺のこと、だよな?」
それならたとえばここで何がを願えばそれが現実になるということなのかと思案し、とりあえず試してみることにした。
「えーっと…………浮け」
そう口にした直後に、身体がフワリと浮いた。
「お、おお~!」
さらにそのまま思い描いた通りに飛行することもできた。
「これは思った以上に楽しいな。あとはそうだな……こんなこともできるのか?」
脳内にある景色を思い描いた刹那、それが瞬く間に再現された。
ただただ白だけだった空間に、空や大地、森などが生まれて、まさに自然が誕生した世界へと一変したのである。
「す、すっげぇ……」
自分の力ではあるはずなのだが、あまりにも想像外な事実に目を丸くしてしまった。
すべての緊張から解き放たれたかのように脱力しながら盛大に息を吐き出した。
仰向けに横たわる沖長は、ぼう~っと見知らぬ天を見上げながら心を落ち着かせていた。
そして気怠い感じで右手を目の前に持ってきて閉じては開いてを繰り返す。
(……生きてるってことは……上手くいったってことだよな)
少しそのままで呼吸を整えた後、ゆっくりと上半身を起こし周囲を見回す。
そこに広がっている光景は一言で言うなら――異質。
白、白、白、白、白。
辺り一面、どこを見渡しても白一色なのだ。こんな場所にいるだけで、普通は息が詰まるし気が狂う者もいるかもしれない。それほどまでに何もない空間。
しかし沖長にとっては、どこか落ち着く感じがする暖かな場所でもあった。
そして一切慌てていない。何故ならここがどこかは分かっているからだ。
あの時、ユンダの無慈悲にも似た一撃が振り下ろされた瞬間、防御も回避も不可能だと悟った。いや、正確にいえばたった一つだけ回避する方法は思いついていた。
ただそれまでに試したことはなかったし、上手くいく保証はどこにもなかった。しかし最早それに懸けるしか生き延びる道がなかったのである。
沖長を窮地から救ってくれた存在。その存在の〝中〟に現在佇んでいるのだ。
そしてそれは――。
「ここが――――《アイテムボックス》の中か」
そう、ユンダから放たれた凶悪な一撃から身を守るにはこれしか方法が思いつかなかった。
以前不意にこの〝回収〟の効果について考えたことがあった。
確かに沖長が生物と認識している存在は回収することができないが、ならば自分自身はどうだろうかと。
間違いなく生物であることは疑いようもない事実だが、能力を行使している本人はその範疇に入らないのではないか、と。
ただ試そうとは思ってみても、少し踏ん切りがつかなかったこともあった。
何せ仮に回収できたとして、自分の身体がボックス内に在るのだ。中は時間凍結しているはずだし、そこで自分の時間も停止して永久に動けなくなるのではという懸念があった。
またそこで動けたとしても、自分自身を外に取り出すことが可能なのか否かも定かではなかったため今まで躊躇われてきた。
だがあの瞬間、自分が生き残るにはコレしか方法はなかったため使わざるを得なかったわけである。
一応こっちに来る前に、以前もしかしたら輸血に活用できるかもと事前に回収しておいた自分の血液を大量に取り出しておいた。加えてクリスマスに母が購入していた丸鶏も数羽分放出してから自分を回収したのである。
これで上手くいけば、沖長という人間を殺した実感をユンダに与えることができると踏んだ。もっとも詳しく現場を調べられたら、肉片が人間のものではないことは分かるだろうが。そこはもう賭けるしかなかった。
(てか、あの一瞬でよくそこまで頭が回った自分を褒めてやりたいわ……)
ほとんど反射的に行った感じだったが、これも普段の修練の賜物だとするなら古武術を習ったのは心から正しい判断だったと思う。
「にしても…………何も無いな」
とりあえず自分の身体は動くし心臓も止まっていないことから、自分が時間凍結していないことは理解できた。そして回収できた事実にも、やはり使い手は例外だということも知ることができてホッとしている。
しかしながら、まさかボックス内がこんな白一色の世界だとは思いもしていなかった。
「回収したものがどっかに収められると思ってたんだけど…………無いよな?」
どこを見渡してもやはり無限に白が広がっているだけ。
「……あ、そうだ。確認してみるか」
何かここから出る手がかりでもと思って、いつものボックス画面を開いてみた。
すると〝新着〟カテゴリーにそれはあった。
Ⅹ 札月沖長(アイテムボックス使用者)
「…………Ⅹ?」
見慣れないランクが記載されていて思わず瞠目した。
ランクの最大値は〝S〟までのはずだ。そして最低値は〝F〟。
故に〝X〟というランクは有り得ない。
困惑しながらもテキストを確認するためにクリックすると、別画面が開いて札月沖長の概要が示される。
その内容は当然ながら自分でも知っているものばかり。だから今度は〝X〟の方をクリックしてみた。
すると――。
「Xとは…………ランク外の存在?」
そこに書かれていた内容を熟読していく。
どうやら〝X〟というのはランクを示すものではなく、ランクでは位置付けできない存在に与えられる称号のようなものらしい。
またココは〝X界〟と称されており、《アイテムボックス》の根幹を成す場所でもあるとのこと。つまりダンジョンでいうならばコアみたいなものだろうか。
「ここでは時間も空間も、すべてが思いのままで、鍵となるマスターのみがその力を自在に行使することが可能……か。マスターってのは多分俺のこと、だよな?」
それならたとえばここで何がを願えばそれが現実になるということなのかと思案し、とりあえず試してみることにした。
「えーっと…………浮け」
そう口にした直後に、身体がフワリと浮いた。
「お、おお~!」
さらにそのまま思い描いた通りに飛行することもできた。
「これは思った以上に楽しいな。あとはそうだな……こんなこともできるのか?」
脳内にある景色を思い描いた刹那、それが瞬く間に再現された。
ただただ白だけだった空間に、空や大地、森などが生まれて、まさに自然が誕生した世界へと一変したのである。
「す、すっげぇ……」
自分の力ではあるはずなのだが、あまりにも想像外な事実に目を丸くしてしまった。
179
お気に入りに追加
1,301
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
逆ハーレムエンドは凡人には無理なので、主人公の座は喜んで、お渡しします
猿喰 森繁
ファンタジー
青柳千智は、神様が趣味で作った乙女ゲームの主人公として、無理やり転生させられてしまう。
元の生活に戻るには、逆ハーレムエンドを迎えなくてはいけないと言われる。
そして、何度もループを繰り返すうちに、ついに千智の心は完全に折れてしまい、廃人一歩手前までいってしまった。
そこで、神様は今までループのたびにリセットしていたレベルの経験値を渡し、最強状態にするが、もうすでに心が折れている千智は、やる気がなかった。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる