俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

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 何とか水月を説得して二人だけでダンジョンが発生した場所へと急いでいた沖長とナクルだったが、不意に沖長は足と止めた。

「? オキくん、どうしたんスか?」

 当然ナクルが小首を傾げながら聞いてくる。

「…………ナクル、やっぱ九馬さんを家まで送ってってあげてくれないか?」
「え……ええ!? いきなりどうしたッスか!?」
「ほら、前に【異界対策局】が俺らを勧誘しに来たろ?」
「あ、はいッス。あの綺麗なお姉さんたちのことッスよね?」
「ああ、あの組織は人材不足らしいし、子供の俺らでもスカウトしてきたわけだ」
「それがどうしたんスか?」
「九馬さんが【異界対策局】に狙われるかもしれないって話だ」
「!? それってボクたちみたいにスカウトされるってことッスか? け、けど水月ちゃんてばダンジョンに入ったわけじゃないッスよね?」
「可能性があるってことだ。何となくだけど、九馬さんはナクルと同じような気がするんだ」
「同じ?」
「勇者かもしれないってこと」
「マジッスか!?」

 ナクルが目を丸くするが、沖長の中では確信があってのこと。当然原作知識に沿ってではあるが。

「近くには【異界対策局】がいるし、もしかしたら接触してくるかもしれない。それにもう一つ気になることがある。それは蔦絵さんの父親のことだ」
「あー……確か旅行に行った時にやってきたいかつい人ッスね」
「ああ。現在の防衛大臣を担ってる人で、彼も蔦絵さんだけじゃなくナクルまで引き取ろうとしてきた。その理由は勇者を確保しておきたいからだと思う」
「えーっと……つまりどういうことッスか?」
「つまり勇者の資質がある九馬さんが、その人にも狙われるかもしれないってことだ。あの時は修一郎さんたちが傍にいたから大丈夫だったけど、九馬さん一人じゃそのまま連れ去られてしまうかかもしれない」
「一大事じゃないッスかっ!?」
「だからナクルには九馬さんの護衛と、スカウトや拉致の可能性があることを伝えて欲しいんだ」
「え? でもだったら一緒に行ったらいいんじゃ……」
「ダンジョンについても気になるだろ? なぁに、一人で挑んだりしないから安心しろって。大体勇者じゃない俺がいくら頑張っても攻略はできないしな。だから様子を見守るだけ」

 ナクルは思案顔でどうすればいいかまだ迷っている様子。ここはあと一押しだろう。

「頼むよ。勇者の力を持ってるナクルが傍にいれば、きっと九馬さんも安心だろうしな」
「! ……分かったッス! オキくんの頼みならドンとこいッスよ!」
「そっか。なら頼んだぞ」

 頼られたことが嬉しいのか、ナクルは満面の笑みを浮かべ「任せるッス!」と手を上げて、来た道を引き返していった。

(……悪いな、ナクル)

 沖長は〝ある理由〟からナクルと遠ざけたかった。

 そしてそのまま少し足早に歩いていき、ダンジョンが発生した場所とは別の方向へ向かい、その先にあった路地へと入ったところで足を止める。

「…………それで? さっきからずっとつけてきてる人は、俺に何か用ですか?」

 ゆっくりと踵を返しながらそう言葉にすると、角から一人の人物が姿を見せた。


「――――これはこれは、まさか尾行に気づかれていたとは。子供だと思って甘くみていましたよ」


 そこに現れた人物を見て沖長は息を呑んだ。
 イギリス紳士とでもいえばいいか。身形の整ったダンディズムを纏っており、加えて異様な空気感を醸し出していた。

 そしてその風貌から沖長は内心で「やっぱりか」と思いつつも舌打ちをしてしまう。
 それと同時に、コイツの興味を自分一人に向けられたことには少し安堵していたが。

(まさかこんなとこで対峙することになるなんてな…………この妖魔人と)

 いつでも動けるように身構えつつ男を観察する。

「いやはや、突然後をつけてすみませんでした。少し君という存在に興味があったものでね」
「……オジサン、今の時代そんなことをしてるとすぐに通報されますよ?」
「はは、これは手厳しい。もっともこの世界のルールが私を縛れるとは思えませんがね」
「この世界……まるで自分は異世界の住人だとでも言いたいみたいですけど、その年で現実を見ることができていない可哀そうな大人なんですか?」
「ほほう、この状況で警戒を緩めずに逆に挑発してくる胆力を持ち合わせているとは、やはり君はどこか特殊のようですね」

 沖長はポケットにゆっくり手を突っ込んで、スマホを操作して修一郎に連絡を取ろうとしたが、不意に目の前から男が消えた……と思ったら、

「それは頂けませんねぇ」

 いつの間にか沖長の背に立ち、その肩に手を置いていた。

(!? ……まるで見えなかったぞ)

 顔には出さないようにしているが、冷や汗が滴り落ちてくる。
 慌てて前転しながら跳んで、すぐに背後にいた男の方へ身体を向けるが、またもそこには彼の姿がなく――。

「――こちらですよ」

 突然聞こえてきた声音に顔を向けてギョッとした。
 何故なら男は壁に対し垂直に立っていたのだから。

(おいおいデタラメ奴だな。重力とか関係ねえってか?)

 最大限に警戒していたつもりだが、それを容易に乗り越えてきた男の実力を察し、

(コイツ、現時点で蔦絵さんより強いかも)

 そう評価しざるを得なかった。
 男がゆっくりと壁を歩いて、再び沖長と対面する。

「さて……君には幾つか聞きたいことがあるのですが……素直に答えてくれますかね?」



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