123 / 220
122
しおりを挟む
――翌日。
今日も今日とて普通に学校の授業があり、退屈さを紛らわせるために沖長は思考に耽っていた。
その内容は、昨日このえから伝えられた金剛寺の件である。
夜風から相談事を聞いて力になりたいと思い、このえに金剛寺の調査を依頼した。何でも夜中に金剛寺は皇居の周辺をウロウロしているという情報から、その中に侵入するのが目的らしいことが分かっていた。
そして金剛寺が、いよいよ皇居に侵入を試みたらしいが、結果的には失敗に終わったとのこと。
このえからの情報では、敷地内に入ることはできたものの、黒装束を纏った人物によって一瞬で気絶させられたらしい。目が覚めた金剛寺に、説教に似た脅しを受け、その人物によって強制的に帰宅させられたという話だ。
沖長はチラリと教室の真ん中の席に視線を向ける。そこにはうつらうつらと眠そうにしている金剛寺がいた。見たところはいつも通りだが、彼はまだ侵入を諦めていないのだろうか。
ただ大分恐怖を与えられたこともあり、それがトラウマになっている可能性も否定できないが。
これが恐れ知らずで傍若無人な赤髪少年こと紅蓮ならば、そんなこと知ったことかと、自分の目的を達成するためにしつこくチャレンジしそうだが、金剛寺に関していえばどこかヘタレな部分もあるので、これで逃げ腰になったということも考えられる。
夜風たちからも大分と説教を受けたらしいので、できればこのまま大人しくしてもらえたら嬉しいのだが。
(それにしても黒装束の人物……か)
これもこのえからもたらされた情報ではあるが、どうやらその人物もまた原作に登場するキャラクターらしい。
しかも最近何かと話題に出ていた天徒咲絵の護衛役。その力量は随一で、勇者にすら匹敵するほど。間違いなく今のナクルでは勝てないとのこと。
(仮に蔦絵さんと同等以上なら、俺だって勝てないしなぁ)
もちろん《アイテムボックス》を活用すれば勝機を見出すことはできるが、普通に戦ってもまず勝てないだろう。何せ向こうは国家が認めた護衛であり、本物の戦場を経験している猛者でもあるらしいから。
(それに〝護衛忍〟、ねぇ)
護衛忍――原作の設定では、皇族を守護するために育てられた忍びらしい。その血脈は昔から受け継がれており、最強の護衛という名を背負った者たちである。
その実力は下忍、中忍、上忍と格が上がるごとに強くなっていき、上忍ともなれば一つの武力組織を単独撃破できる程度だという。まさに一騎当千の強者といったところだ。
そして天徒咲絵を守護する護衛忍は、当然ながら上忍でありその名を――黒月。できることなら敵対しない方が良い相手だとこのえから注意を受けた。
(戦闘力もさることながら変装術や隠密力も高レベルらしいしな。確かに敵に回すのは厄介極まりないわ)
これぞ忍者とでも呼べるような外見と実力といえる。
確かにそんな相手が守護する領域に、何の策も無しに突っ込んだところで阻まれるのがオチだ。
沖長としても、蔦絵と咲絵を会わせてあげたいと思っていたこともあり、そうなれば必然的に皇居内に足を踏み入れることになる。なので護衛忍の情報はありがたかった。
ただそれと同時に困難さが増したことも意味して溜息が出る。
(これは正式な手続きを踏んだ方がまだ可能性はあるかもなぁ)
もっとも向こうが拒否すればこれまた意味がなくなるけれど。
(でもここでも忍かぁ。勇者やら忍やら、まさか魔法使いとか出てこないよな?)
何だかフラグが立ちそうな気がしたので、すぐに考えを捨てた。
(とりあえずこれで金剛寺が諦めてくれれば、夜風さんにとっては安心できるだろうけど)
もう少し様子を見守る必要はあるだろう。それも申し訳ないが、このえに頼むことにした。何か動きがあったら報告が来るようになっている。
これで一旦金剛寺の件については置いておくとして、目下気になることがもう一つ。
それは時期的にそろそろ次のダンジョンが発生すること。
長門からの情報では、そのイベントには例の九馬水月が関わってくる。彼女の母親に不幸が訪れ、そこから水月の悲劇の物語がスタートしていく。
(こっちもできれば何とかしたいな。長門に相談するか? いや、アイツに推しに関わらないキャラはどうでもいいみたいだしな。このえには金剛寺のことで世話になっててこれ以上世話になるのも……)
ここは原作知識を活用して、沖長だけで動いてみることにした。
幸いまだ時間はある。しかし自分たちのようなイレギュラーがいることで、原作通りに進むとは限らない。それはこれまでのことからも推察できる。
(となるとなるべく急いだ方が良い……か?)
水月の人生が転がって落ちていくきっかけとなるのが、母親の他界である。そしてそれに繋がるのが、母親が仕事場で怪我を負うこと。
まずはその怪我を防ぐことが先決になってくるだろう。
(ああでも、さすがに仕事先まで分かんねえぞ)
どんな仕事をしているのか知らないのだ。これは原作でも語られていないようで、長門に聞いても「知らん」の一言だった。
母親の仕事場が分からなければ、怪我を未然に防ぐことも難しい。
(やっぱそこは九馬に聞くしかないか。……怪しまれないようにしないとな)
いきなり君のお母さんの仕事って何? それってどこ? とか聞くのは非常に怪しい。下手をすれば警戒されて二度と近づけなくなる。
知らない仲ではないし、何気ない会話の流れから聞き出すことが望ましいだろう。
そうと決めればさっそく動こうと思い、次の昼休みにでも会いに行こうか。幸いなことに連絡先を交換しているから、事前に予約を入れることもできるはず。
そう思い授業中ではあるが、水月にメッセージを打った。内容はもちろん昼休みに会わないかということなのだが……。
(……いやいや待て待て。良く考えれば、いきなり会いたいとかおかしくね?)
まだ一度しか会って話したことがないのだ。それなのに突然会おうぜというのは、まるでチャラ男のやり口に見えないだろうか。いや、偏見かもしれないが。
ただ常識的を自負する沖長にとっては、今までこんな感じで女性を誘ったことがないので身体が固まってしまった。
気軽に誘えば向こうもあっさりと承諾してくれるかもしれないが、何だか気があるようにも見えるし、そのせいで警戒されるかもしれない。
(考え過ぎか? いやでも、俺だったら警戒するし……けどやっぱり考え過ぎってことも……)
そうこうしているうちにチャイムが鳴り授業が終わった。
そして結局誘えなかった自分に、思わず大きな溜息が零れ出たのである。
今日も今日とて普通に学校の授業があり、退屈さを紛らわせるために沖長は思考に耽っていた。
その内容は、昨日このえから伝えられた金剛寺の件である。
夜風から相談事を聞いて力になりたいと思い、このえに金剛寺の調査を依頼した。何でも夜中に金剛寺は皇居の周辺をウロウロしているという情報から、その中に侵入するのが目的らしいことが分かっていた。
そして金剛寺が、いよいよ皇居に侵入を試みたらしいが、結果的には失敗に終わったとのこと。
このえからの情報では、敷地内に入ることはできたものの、黒装束を纏った人物によって一瞬で気絶させられたらしい。目が覚めた金剛寺に、説教に似た脅しを受け、その人物によって強制的に帰宅させられたという話だ。
沖長はチラリと教室の真ん中の席に視線を向ける。そこにはうつらうつらと眠そうにしている金剛寺がいた。見たところはいつも通りだが、彼はまだ侵入を諦めていないのだろうか。
ただ大分恐怖を与えられたこともあり、それがトラウマになっている可能性も否定できないが。
これが恐れ知らずで傍若無人な赤髪少年こと紅蓮ならば、そんなこと知ったことかと、自分の目的を達成するためにしつこくチャレンジしそうだが、金剛寺に関していえばどこかヘタレな部分もあるので、これで逃げ腰になったということも考えられる。
夜風たちからも大分と説教を受けたらしいので、できればこのまま大人しくしてもらえたら嬉しいのだが。
(それにしても黒装束の人物……か)
これもこのえからもたらされた情報ではあるが、どうやらその人物もまた原作に登場するキャラクターらしい。
しかも最近何かと話題に出ていた天徒咲絵の護衛役。その力量は随一で、勇者にすら匹敵するほど。間違いなく今のナクルでは勝てないとのこと。
(仮に蔦絵さんと同等以上なら、俺だって勝てないしなぁ)
もちろん《アイテムボックス》を活用すれば勝機を見出すことはできるが、普通に戦ってもまず勝てないだろう。何せ向こうは国家が認めた護衛であり、本物の戦場を経験している猛者でもあるらしいから。
(それに〝護衛忍〟、ねぇ)
護衛忍――原作の設定では、皇族を守護するために育てられた忍びらしい。その血脈は昔から受け継がれており、最強の護衛という名を背負った者たちである。
その実力は下忍、中忍、上忍と格が上がるごとに強くなっていき、上忍ともなれば一つの武力組織を単独撃破できる程度だという。まさに一騎当千の強者といったところだ。
そして天徒咲絵を守護する護衛忍は、当然ながら上忍でありその名を――黒月。できることなら敵対しない方が良い相手だとこのえから注意を受けた。
(戦闘力もさることながら変装術や隠密力も高レベルらしいしな。確かに敵に回すのは厄介極まりないわ)
これぞ忍者とでも呼べるような外見と実力といえる。
確かにそんな相手が守護する領域に、何の策も無しに突っ込んだところで阻まれるのがオチだ。
沖長としても、蔦絵と咲絵を会わせてあげたいと思っていたこともあり、そうなれば必然的に皇居内に足を踏み入れることになる。なので護衛忍の情報はありがたかった。
ただそれと同時に困難さが増したことも意味して溜息が出る。
(これは正式な手続きを踏んだ方がまだ可能性はあるかもなぁ)
もっとも向こうが拒否すればこれまた意味がなくなるけれど。
(でもここでも忍かぁ。勇者やら忍やら、まさか魔法使いとか出てこないよな?)
何だかフラグが立ちそうな気がしたので、すぐに考えを捨てた。
(とりあえずこれで金剛寺が諦めてくれれば、夜風さんにとっては安心できるだろうけど)
もう少し様子を見守る必要はあるだろう。それも申し訳ないが、このえに頼むことにした。何か動きがあったら報告が来るようになっている。
これで一旦金剛寺の件については置いておくとして、目下気になることがもう一つ。
それは時期的にそろそろ次のダンジョンが発生すること。
長門からの情報では、そのイベントには例の九馬水月が関わってくる。彼女の母親に不幸が訪れ、そこから水月の悲劇の物語がスタートしていく。
(こっちもできれば何とかしたいな。長門に相談するか? いや、アイツに推しに関わらないキャラはどうでもいいみたいだしな。このえには金剛寺のことで世話になっててこれ以上世話になるのも……)
ここは原作知識を活用して、沖長だけで動いてみることにした。
幸いまだ時間はある。しかし自分たちのようなイレギュラーがいることで、原作通りに進むとは限らない。それはこれまでのことからも推察できる。
(となるとなるべく急いだ方が良い……か?)
水月の人生が転がって落ちていくきっかけとなるのが、母親の他界である。そしてそれに繋がるのが、母親が仕事場で怪我を負うこと。
まずはその怪我を防ぐことが先決になってくるだろう。
(ああでも、さすがに仕事先まで分かんねえぞ)
どんな仕事をしているのか知らないのだ。これは原作でも語られていないようで、長門に聞いても「知らん」の一言だった。
母親の仕事場が分からなければ、怪我を未然に防ぐことも難しい。
(やっぱそこは九馬に聞くしかないか。……怪しまれないようにしないとな)
いきなり君のお母さんの仕事って何? それってどこ? とか聞くのは非常に怪しい。下手をすれば警戒されて二度と近づけなくなる。
知らない仲ではないし、何気ない会話の流れから聞き出すことが望ましいだろう。
そうと決めればさっそく動こうと思い、次の昼休みにでも会いに行こうか。幸いなことに連絡先を交換しているから、事前に予約を入れることもできるはず。
そう思い授業中ではあるが、水月にメッセージを打った。内容はもちろん昼休みに会わないかということなのだが……。
(……いやいや待て待て。良く考えれば、いきなり会いたいとかおかしくね?)
まだ一度しか会って話したことがないのだ。それなのに突然会おうぜというのは、まるでチャラ男のやり口に見えないだろうか。いや、偏見かもしれないが。
ただ常識的を自負する沖長にとっては、今までこんな感じで女性を誘ったことがないので身体が固まってしまった。
気軽に誘えば向こうもあっさりと承諾してくれるかもしれないが、何だか気があるようにも見えるし、そのせいで警戒されるかもしれない。
(考え過ぎか? いやでも、俺だったら警戒するし……けどやっぱり考え過ぎってことも……)
そうこうしているうちにチャイムが鳴り授業が終わった。
そして結局誘えなかった自分に、思わず大きな溜息が零れ出たのである。
200
お気に入りに追加
1,301
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
異世界に行ったら才能に満ち溢れていました
みずうし
ファンタジー
銀行に勤めるそこそこ頭はイイところ以外に取り柄のない23歳青山 零 は突如、自称神からの死亡宣言を受けた。そして気がついたら異世界。
異世界ではまるで別人のような体になった零だが、その体には類い稀なる才能が隠されていて....
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる