117 / 233
116
しおりを挟む
「いやいや、だからただの趣味だって。それよりも九馬さんも先生に上手いって褒められてたじゃない」
実際に彼女の調理技術もなかなかのものだ。それはきっと家庭のために毎日料理をしているからだろう。
「えへへ、これでも毎日やってるからね! でもでも、食べさせてもらった札月くんのポテサラは絶品だったよ! もうチョーイケてた! これマジで!」
ずいぶんとノリがギャルだなと思いつつも、原作でもこんな感じだったのなら、よくもまあ陰キャと化しているナクルと仲良くなったなと感心する。
いや、その時は水月も持ち前の快活さよりも、家族を守りたいというただ一つの願望に執着していただろうから、陽キャのカテゴリーに入っていたかは分からない。
ただナクルも水月も、本質は根明なので相性は良いとはいえる。だから敵同士だったとはいえ絆を紡ぐことができたのだろう。
「そういう九馬さんは、将来はどうなの? 料理人?」
「あーウチはちょっち貧乏でさぁ。そんでね、少しでもお母さんの助けになるかもって、料理の勉強してるんだよー。ほらほら、節約料理ってやつ? んで、せっかくだから授業でも学べたらいいなーって」
泣かせる話である。本当にこの娘が良い子なのか、こうして話しているとよく分かる。
だからか、今度彼女の身に起こる不幸のことを考えると、思わず目を背けたくなってしまうが。
「あはは、ちょっと暗い話しちゃった? 気にしないでね! 貧乏でも毎日がめっちゃ楽しいくらいだし! というか騒がしい? ウチってさ、弟が三人いてね、あ、しかも三つ子! すっごいでしょ! 三人とも同じ顔なんだぁ! そうだ、写真見る?」
まさにマシンガントークというか、これぞギャルとでも言わんばかりの饒舌っぷり。さすがに圧倒されて沖長も相槌を打つくらいしか対抗できない。
そうしてスマホで撮った写真を見せられ、確かにそこに写っている三人の子供はコピーでもしたかのようにそっくりだった。また丸坊主というのが愛らしさを引き立てていて可愛らしい。
そんな感じで水月の家庭自慢を聞いていると――。
「――――オキくぅ~ん!」
不意にドアの方から聞こえてきた声に振り向く。するとそこにはナクルが顔を覗かせていた。彼女は沖長の姿を発見すると、嬉しそうに駆け寄ってくる。こういうところは小動物のようだ。
「あ、日ノ部さんじゃん!」
「ふぇ? えっと……誰ッスか?」
どうやら水月の方はナクルのことを知っているようだが、ナクルは少し小首を傾げていた。
「あたしは九馬水月っていうの!」
「そッスか! ボクは日ノ部ナクルッス!」
「知ってるよー。だって有名だもん!」
「有名? ナクルが?」
思わずそう沖長が問いかけた。
「うん。だってあの超有名人の金剛寺くんを投げ飛ばした子だもん」
そういえばそういうこともあった。
「ほら、金剛寺くんってモテモテじゃん? いっつも周りに女の子いっぱいだし。そんな金剛寺くんが夢中になってるのが日ノ部さんだし」
確かにナクルを手に入れようと、いつもいつも絡んでくるから話題に上がっても不思議ではないか。
「けど日ノ部さんって、何度も言い寄られても毎回拒否してるでしょ?」
「当然ッス! だってボクにはオキくんがいるッスから!」
「! ……やっぱり二人って付き合ってたりするの?」
女子はそういう話題が好きなのは本当のようで、水月もまた目を輝かせながら聞いてきた。
「いや別にそういうわけじゃ……」
「それ以上の関係っス!」
否定しようとしたところ、ナクルが胸を張って宣言した。
「わーお! なになに、もしかしてもう大人の階段を上ったとか!?」
まだ小学生にもかかわらずさすがは恋愛体質のギャル。顔を赤らめつつも興味津々といった様子だ。
「大人の……階段? よく分かんないッスけど、ボクとオキくんは一緒に階段を上ったこともあるッスよ!」
「わわわ!? お、お、大人だぁぁぁ!」
ナクルは素直に普通の階段の話をしたようだが、水月は恋愛的な意味で捉えてさらに顔を真っ赤にしている。このままでは変な噂が飛び交ってしまいかねないと思い、沖長は分かるようにちゃんと説明をした。
「なぁんだ、そういうことかぁ。でもでも、それにしても仲良いよね! いっつも一緒って聞くし」
「まあ、幼馴染だしな。家族同然みたいなもんだし」
「ふ~ん、じゃあ札月くんにとって日ノ部さんってどんな存在なん?」
「そうだなぁ……可愛い妹分かな」
「!? オ、オキくん! ボクは妹じゃないッスよ!」
「いや、だから本当の妹ってわけじゃなくて、妹みたいな存在ってことで……」
「妹じゃ嫌ッス!」
「え? あ、だから妹じゃなくて、えっと……」
何故かこちらを頬を膨らませて睨みつけてくるナクルに対し、どう対応したものかと戸惑っていると、「まったく、男の子はこれだからなぁ」と水月が発言し、沖長は「どういうこと?」と問い返した。
「いい、札月くん? 女の子にとって近しい男の子に妹扱いされるのはあんまり嬉しくないんだよ」
「そ、そういうもんなの?」
それは知らなかった。沖長としては家族同然の深い絆で結ばれているという意味合いを込めていて、最上級に等しい間柄ということなのだが。
「はぁぁ~、あの金剛寺くんと肩を並べるくらいに人気が高い札月くんでも女心は分かってないってことかぁ」
何だか聞き捨てならない言葉が聞こえた。
実際に彼女の調理技術もなかなかのものだ。それはきっと家庭のために毎日料理をしているからだろう。
「えへへ、これでも毎日やってるからね! でもでも、食べさせてもらった札月くんのポテサラは絶品だったよ! もうチョーイケてた! これマジで!」
ずいぶんとノリがギャルだなと思いつつも、原作でもこんな感じだったのなら、よくもまあ陰キャと化しているナクルと仲良くなったなと感心する。
いや、その時は水月も持ち前の快活さよりも、家族を守りたいというただ一つの願望に執着していただろうから、陽キャのカテゴリーに入っていたかは分からない。
ただナクルも水月も、本質は根明なので相性は良いとはいえる。だから敵同士だったとはいえ絆を紡ぐことができたのだろう。
「そういう九馬さんは、将来はどうなの? 料理人?」
「あーウチはちょっち貧乏でさぁ。そんでね、少しでもお母さんの助けになるかもって、料理の勉強してるんだよー。ほらほら、節約料理ってやつ? んで、せっかくだから授業でも学べたらいいなーって」
泣かせる話である。本当にこの娘が良い子なのか、こうして話しているとよく分かる。
だからか、今度彼女の身に起こる不幸のことを考えると、思わず目を背けたくなってしまうが。
「あはは、ちょっと暗い話しちゃった? 気にしないでね! 貧乏でも毎日がめっちゃ楽しいくらいだし! というか騒がしい? ウチってさ、弟が三人いてね、あ、しかも三つ子! すっごいでしょ! 三人とも同じ顔なんだぁ! そうだ、写真見る?」
まさにマシンガントークというか、これぞギャルとでも言わんばかりの饒舌っぷり。さすがに圧倒されて沖長も相槌を打つくらいしか対抗できない。
そうしてスマホで撮った写真を見せられ、確かにそこに写っている三人の子供はコピーでもしたかのようにそっくりだった。また丸坊主というのが愛らしさを引き立てていて可愛らしい。
そんな感じで水月の家庭自慢を聞いていると――。
「――――オキくぅ~ん!」
不意にドアの方から聞こえてきた声に振り向く。するとそこにはナクルが顔を覗かせていた。彼女は沖長の姿を発見すると、嬉しそうに駆け寄ってくる。こういうところは小動物のようだ。
「あ、日ノ部さんじゃん!」
「ふぇ? えっと……誰ッスか?」
どうやら水月の方はナクルのことを知っているようだが、ナクルは少し小首を傾げていた。
「あたしは九馬水月っていうの!」
「そッスか! ボクは日ノ部ナクルッス!」
「知ってるよー。だって有名だもん!」
「有名? ナクルが?」
思わずそう沖長が問いかけた。
「うん。だってあの超有名人の金剛寺くんを投げ飛ばした子だもん」
そういえばそういうこともあった。
「ほら、金剛寺くんってモテモテじゃん? いっつも周りに女の子いっぱいだし。そんな金剛寺くんが夢中になってるのが日ノ部さんだし」
確かにナクルを手に入れようと、いつもいつも絡んでくるから話題に上がっても不思議ではないか。
「けど日ノ部さんって、何度も言い寄られても毎回拒否してるでしょ?」
「当然ッス! だってボクにはオキくんがいるッスから!」
「! ……やっぱり二人って付き合ってたりするの?」
女子はそういう話題が好きなのは本当のようで、水月もまた目を輝かせながら聞いてきた。
「いや別にそういうわけじゃ……」
「それ以上の関係っス!」
否定しようとしたところ、ナクルが胸を張って宣言した。
「わーお! なになに、もしかしてもう大人の階段を上ったとか!?」
まだ小学生にもかかわらずさすがは恋愛体質のギャル。顔を赤らめつつも興味津々といった様子だ。
「大人の……階段? よく分かんないッスけど、ボクとオキくんは一緒に階段を上ったこともあるッスよ!」
「わわわ!? お、お、大人だぁぁぁ!」
ナクルは素直に普通の階段の話をしたようだが、水月は恋愛的な意味で捉えてさらに顔を真っ赤にしている。このままでは変な噂が飛び交ってしまいかねないと思い、沖長は分かるようにちゃんと説明をした。
「なぁんだ、そういうことかぁ。でもでも、それにしても仲良いよね! いっつも一緒って聞くし」
「まあ、幼馴染だしな。家族同然みたいなもんだし」
「ふ~ん、じゃあ札月くんにとって日ノ部さんってどんな存在なん?」
「そうだなぁ……可愛い妹分かな」
「!? オ、オキくん! ボクは妹じゃないッスよ!」
「いや、だから本当の妹ってわけじゃなくて、妹みたいな存在ってことで……」
「妹じゃ嫌ッス!」
「え? あ、だから妹じゃなくて、えっと……」
何故かこちらを頬を膨らませて睨みつけてくるナクルに対し、どう対応したものかと戸惑っていると、「まったく、男の子はこれだからなぁ」と水月が発言し、沖長は「どういうこと?」と問い返した。
「いい、札月くん? 女の子にとって近しい男の子に妹扱いされるのはあんまり嬉しくないんだよ」
「そ、そういうもんなの?」
それは知らなかった。沖長としては家族同然の深い絆で結ばれているという意味合いを込めていて、最上級に等しい間柄ということなのだが。
「はぁぁ~、あの金剛寺くんと肩を並べるくらいに人気が高い札月くんでも女心は分かってないってことかぁ」
何だか聞き捨てならない言葉が聞こえた。
245
お気に入りに追加
1,439
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~
十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
チートをもらえるけど戦国時代に飛ばされるボタン 押す/押さない
兎屋亀吉
ファンタジー
チートはもらえるけど戦国時代に強制トリップしてしまうボタン。そんなボタンが一人の男の元にもたらされた。深夜に。眠気で正常な判断のできない男はそのボタンを押してしまう。かくして、一人の男の戦国サバイバルが始まる。『チートをもらえるけど平安時代に飛ばされるボタン 押す/押さない』始めました。ちなみに、作中のキャラクターの話し方や人称など歴史にそぐわない表現を使う場面が多々あります。フィクションの物語としてご理解ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!
飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。
貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。
だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。
なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。
その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
家族に辺境追放された貴族少年、実は天職が《チート魔道具師》で内政無双をしていたら、有能な家臣領民が続々と移住してきて本家を超える国力に急成長
ハーーナ殿下
ファンタジー
貴族五男ライルは魔道具作りが好きな少年だったが、無理解な義理の家族に「攻撃魔法もろくに使えない無能者め!」と辺境に追放されてしまう。ライルは自分の力不足を嘆きつつ、魔物だらけの辺境の開拓に一人で着手する。
しかし家族の誰も知らなかった。実はライルが世界で一人だけの《チート魔道具師》の才能を持ち、規格外な魔道具で今まで領地を密かに繁栄させていたことを。彼の有能さを知る家臣領民は、ライルの領地に移住開始。人の良いライルは「やれやれ、仕方がないですね」と言いながらも内政無双で受け入れ、口コミで領民はどんどん増えて栄えていく。
これは魔道具作りが好きな少年が、亡国の王女やエルフ族長の娘、親を失った子どもたち、多くの困っている人を受け入れ助け、規格外の魔道具で大活躍。一方で追放した無能な本家は衰退していく物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転生したアラサーオタク女子はチートなPCと通販で異世界でもオタ活します!
ねこ専
ファンタジー
【序盤は説明が多いので進みがゆっくりです】
※プロローグを読むのがめんどくさい人は飛ばしてもらっても大丈夫です。
テンプレ展開でチートをもらって異世界に転生したアラサーオタクOLのリリー。
現代日本と全然違う環境の異世界だからオタ活なんて出来ないと思いきや、神様にもらったチートな「異世界PC」のおかげでオタ活し放題!
日本の商品は通販で買えるし、インターネットでアニメも漫画も見られる…!
彼女は異世界で金髪青目の美少女に生まれ変わり、最高なオタ活を満喫するのであった。
そんなリリーの布教?のかいあって、異世界には日本の商品とオタク文化が広まっていくとかいかないとか…。
※初投稿なので優しい目で見て下さい。
※序盤は説明多めなのでオタ活は後からです。
※誤字脱字の報告大歓迎です。
まったり更新していけたらと思います!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる