116 / 220
115
しおりを挟む
九馬水月――【勇者少女なっくるナクル】という物語において、ナクルの悲劇の一つに数えられるメインキャラの一人。
今はまだどこにでもいる普通の少女でしかない彼女ではあるが、物語が進むと突然彼女に焦点が当てられるストーリーへ発展する。
彼女の家は言葉を飾らないのであればとてつもなく貧乏である。母子家庭ということもあるが、何よりも彼女を長女として、他に三人の弟がいるのだ。しかも三つ子。
親一人、子四人という生活は、一般家庭の水準を保つのはなかなかに困難である。そのため母親は寝る間も惜しんで毎日働き、その代わり水月が家庭内のあれこれに従事する。家事もそうだがまだ幼稚園に通う三つ子の世話も水月が率先して行っていた。
毎日大変ではあるものの、いろいろ切り詰めて何とか乗り越えていたのだが……が、ある日のこと、母親が仕事先で怪我を負って入院することになるのだ。
しかもその怪我の原因が、仕事とはまったく関係ないところで負ったこともあり、労災保険適用外とされて手当てもつかない。さらに不幸は重なり、病院での検査の結果で母親に癌があることが分かってしまうのだ。
幸いにも今すぐどうということではないし、早期発見ということで手術により命を繋ぐことは可能だが、治療費や労働時間など、九馬家にとっては致命傷に成り得る大ダメージを受けることになる。
故に母親は痛む身体を押して病院から抜け出し仕事に勤しむことになる……が、そのような状態が長く続くわけもなく、とうとう最悪な事態を招くことになってしまう。
フラフラ状態で深夜に帰宅している途中、足を滑らせて階段から落下したことにより死亡してしまうのである。
不幸の中、さらに支柱を失うことになった水月たちは途方に暮れることになる。何でもすでに他界している父親とは半ば駆け落ちのような形で結婚したことで、親戚に頼ることもできない状態。
故にそのままだと彼女たちは施設送りになるわけだが、施設の事情により全員が同じ施設に行けないと分かりこのままでは家族がバラバラになってしまう。
そんなどん底で嘆いていた中、彼女の目の前にダンジョンへの入口である亀裂が出現する。そこである人物に遭遇することになった。
その人物に、ダンジョンに存在する素材を手にすることができれば金持ちになれると吹き込まれ、藁にも縋りたい水月は、そんな甘言に飛びつくことになる。
金さえあれば、家族が離れ離れにならなくてもいいと彼女は考えたのだ。
そして幸か不幸か、彼女は勇者として覚醒することができ、ダンジョンで素材を手にし、それらを教えてくれた人物のもとへ届けて代わりに金という対価を得る。
そうして水月は、謎の人物の教えのもとにダンジョン探索を続けていくが、そこでナクルと出会うことになるのだ。
水月にとって他の勇者は、自分の仕事の邪魔をする存在だと謎の人物に教え込まれていた。だから当然ナクルと敵対することになってしまう。
ナクルは同じ勇者として分かり合えると言葉を届けようとするが、何の不自由もなく幸せに暮らしているナクルの言葉が水月の心を捉えることはなかった。
だがある時、またダンジョンで二人は遭遇することになったのだが、そのダンジョンはいつも攻略してきたようなダンジョンではなく、いわゆる〝ハードダンジョン〟と言われるランクが一つ上のダンジョンだった。
そこに現れる凄まじい強さを持ったダンジョン主を相手に、ナクルと水月は苦戦必至。このままでは殺されると判断した二人は一時的に手を組むことになり、それがきっかけで徐々に距離が縮まっていく。
しばらくして水月は、ナクルに自分の境遇を伝えた。対しナクルもまた、自身の歪すぎる家庭環境を告白し、互いがそれぞれ抱える苦痛を共有した結果、確かな情の繋がりが生まれることなる。
しかしそれを快く思わない謎の人物が、水月をかどわかして再びナクルと敵対する道に歩ませてしまう。
そんな状況で、九馬家の三つ子に出会ったナクルは、彼らから姉である水月を助けてほしいと願われナクルはそれを了承する。
そしてダンジョン内で対面する両者は、互いに譲れないもののために戦うことになり、結果的にナクルが勝利を得る――が、そこへ謎の人物がけしかけた刺客の攻撃がナクルへと放たれる。
ナクルが深手を負い戦闘不能になるが、彼女を守るために水月は奮闘し、勇者としてのすべての力を使い果たして何とか勝利を得る。
ナクルと水月は揃って病院へと担ぎ込まれるが、両者ともに命は何とか繋ぎ止められた。
しかし目覚めたナクルは、衝撃の事実を聞くことになる。
それは水月が――――――植物状態になってしまったということ。
最後の戦いで無理を超えたことによる反動で、脳に多大なダメージを負ったのではないかという見解だった。
いつ目覚めるか、回復するかも分からない。ナクルにとって初めて心を開けた同い年の友人。そんな大切な存在の時間を奪うことになってしまったのだ。
姉に縋りながら泣きじゃくる三つ子を見て、ナクルの心に浅くない傷が入る。
自分がもっと強ければ、きっとこんな悲劇は起こらなかった。
それからナクルは、前にもまして強さに貪欲になっていく。強くなれば悲しさなんて吹き飛ばすことができるとでも言うかのように、毎日毎日ボロボロになるまで修練を積む。
そんなナクルを心配して修一郎たちが寄り添おうとするが、心の距離がある家族との不和は治らずに、ナクルはただ一人強さを追い求めるようになっていく。
(まさかそんな悲劇のヒロインの一人とここで会うなんてな)
この学校にいることは知っていたが、クラスも違うし接点はなかった。それがまさか向こうから接触してくるとは思ってもいなかったので驚いている。
「あのさあのさ、札月くんってすっごく料理が上手いけど、もしかして将来の夢は料理人とか?」
これから起こる悲劇なんて欠片も感じさせないほどの屈託のない笑顔で尋ねてくる水月。
「えっと……興味はないこともないけど、どちらかというと趣味みたいなものかな」
「ふ~ん、つまりは料理男子ってことだね! うんうん、それってばモテ要素だよ! あ、もしかしてそういうつもりで料理してるとか?」
早口で捲し立てるように聞いてくる。お喋り好きであろうことは、このやり取りだけで十分伝わってきた。
今はまだどこにでもいる普通の少女でしかない彼女ではあるが、物語が進むと突然彼女に焦点が当てられるストーリーへ発展する。
彼女の家は言葉を飾らないのであればとてつもなく貧乏である。母子家庭ということもあるが、何よりも彼女を長女として、他に三人の弟がいるのだ。しかも三つ子。
親一人、子四人という生活は、一般家庭の水準を保つのはなかなかに困難である。そのため母親は寝る間も惜しんで毎日働き、その代わり水月が家庭内のあれこれに従事する。家事もそうだがまだ幼稚園に通う三つ子の世話も水月が率先して行っていた。
毎日大変ではあるものの、いろいろ切り詰めて何とか乗り越えていたのだが……が、ある日のこと、母親が仕事先で怪我を負って入院することになるのだ。
しかもその怪我の原因が、仕事とはまったく関係ないところで負ったこともあり、労災保険適用外とされて手当てもつかない。さらに不幸は重なり、病院での検査の結果で母親に癌があることが分かってしまうのだ。
幸いにも今すぐどうということではないし、早期発見ということで手術により命を繋ぐことは可能だが、治療費や労働時間など、九馬家にとっては致命傷に成り得る大ダメージを受けることになる。
故に母親は痛む身体を押して病院から抜け出し仕事に勤しむことになる……が、そのような状態が長く続くわけもなく、とうとう最悪な事態を招くことになってしまう。
フラフラ状態で深夜に帰宅している途中、足を滑らせて階段から落下したことにより死亡してしまうのである。
不幸の中、さらに支柱を失うことになった水月たちは途方に暮れることになる。何でもすでに他界している父親とは半ば駆け落ちのような形で結婚したことで、親戚に頼ることもできない状態。
故にそのままだと彼女たちは施設送りになるわけだが、施設の事情により全員が同じ施設に行けないと分かりこのままでは家族がバラバラになってしまう。
そんなどん底で嘆いていた中、彼女の目の前にダンジョンへの入口である亀裂が出現する。そこである人物に遭遇することになった。
その人物に、ダンジョンに存在する素材を手にすることができれば金持ちになれると吹き込まれ、藁にも縋りたい水月は、そんな甘言に飛びつくことになる。
金さえあれば、家族が離れ離れにならなくてもいいと彼女は考えたのだ。
そして幸か不幸か、彼女は勇者として覚醒することができ、ダンジョンで素材を手にし、それらを教えてくれた人物のもとへ届けて代わりに金という対価を得る。
そうして水月は、謎の人物の教えのもとにダンジョン探索を続けていくが、そこでナクルと出会うことになるのだ。
水月にとって他の勇者は、自分の仕事の邪魔をする存在だと謎の人物に教え込まれていた。だから当然ナクルと敵対することになってしまう。
ナクルは同じ勇者として分かり合えると言葉を届けようとするが、何の不自由もなく幸せに暮らしているナクルの言葉が水月の心を捉えることはなかった。
だがある時、またダンジョンで二人は遭遇することになったのだが、そのダンジョンはいつも攻略してきたようなダンジョンではなく、いわゆる〝ハードダンジョン〟と言われるランクが一つ上のダンジョンだった。
そこに現れる凄まじい強さを持ったダンジョン主を相手に、ナクルと水月は苦戦必至。このままでは殺されると判断した二人は一時的に手を組むことになり、それがきっかけで徐々に距離が縮まっていく。
しばらくして水月は、ナクルに自分の境遇を伝えた。対しナクルもまた、自身の歪すぎる家庭環境を告白し、互いがそれぞれ抱える苦痛を共有した結果、確かな情の繋がりが生まれることなる。
しかしそれを快く思わない謎の人物が、水月をかどわかして再びナクルと敵対する道に歩ませてしまう。
そんな状況で、九馬家の三つ子に出会ったナクルは、彼らから姉である水月を助けてほしいと願われナクルはそれを了承する。
そしてダンジョン内で対面する両者は、互いに譲れないもののために戦うことになり、結果的にナクルが勝利を得る――が、そこへ謎の人物がけしかけた刺客の攻撃がナクルへと放たれる。
ナクルが深手を負い戦闘不能になるが、彼女を守るために水月は奮闘し、勇者としてのすべての力を使い果たして何とか勝利を得る。
ナクルと水月は揃って病院へと担ぎ込まれるが、両者ともに命は何とか繋ぎ止められた。
しかし目覚めたナクルは、衝撃の事実を聞くことになる。
それは水月が――――――植物状態になってしまったということ。
最後の戦いで無理を超えたことによる反動で、脳に多大なダメージを負ったのではないかという見解だった。
いつ目覚めるか、回復するかも分からない。ナクルにとって初めて心を開けた同い年の友人。そんな大切な存在の時間を奪うことになってしまったのだ。
姉に縋りながら泣きじゃくる三つ子を見て、ナクルの心に浅くない傷が入る。
自分がもっと強ければ、きっとこんな悲劇は起こらなかった。
それからナクルは、前にもまして強さに貪欲になっていく。強くなれば悲しさなんて吹き飛ばすことができるとでも言うかのように、毎日毎日ボロボロになるまで修練を積む。
そんなナクルを心配して修一郎たちが寄り添おうとするが、心の距離がある家族との不和は治らずに、ナクルはただ一人強さを追い求めるようになっていく。
(まさかそんな悲劇のヒロインの一人とここで会うなんてな)
この学校にいることは知っていたが、クラスも違うし接点はなかった。それがまさか向こうから接触してくるとは思ってもいなかったので驚いている。
「あのさあのさ、札月くんってすっごく料理が上手いけど、もしかして将来の夢は料理人とか?」
これから起こる悲劇なんて欠片も感じさせないほどの屈託のない笑顔で尋ねてくる水月。
「えっと……興味はないこともないけど、どちらかというと趣味みたいなものかな」
「ふ~ん、つまりは料理男子ってことだね! うんうん、それってばモテ要素だよ! あ、もしかしてそういうつもりで料理してるとか?」
早口で捲し立てるように聞いてくる。お喋り好きであろうことは、このやり取りだけで十分伝わってきた。
193
お気に入りに追加
1,301
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした
月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。
それから程なくして――――
お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。
「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」
にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。
「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」
そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・
頭の中を、凄まじい情報が巡った。
これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね?
ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。
だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。
ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。
ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」
そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。
フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ!
うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって?
そんなの知らん。
設定はふわっと。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる