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今日も今日とて小学生として勉学に勤しむ。
普通ならすでに通過した学びということもあり退屈なはずだが、小学四年生になってからは一部ではあるが楽しみも増えていた。
それは前世時、沖長が子供の時にはカリキュラムに無かった授業があること。
週に三度、選択科目というのが設定されてあり、そこでは各々選択した授業を受けることができるのだ。
技工、英会話、プログラミンなど、世界に通じる技術を養うために取り組まれている。
沖長の時は、図工や道徳といったものはあったが、図工はどちらかというと拙い工作といった感じで、道徳も本当に社会の上辺的なものだけを学んでいた気がする。
さらにいうなら英語を学びカリキュラムも無かったし、パソコンを扱うような授業だってなかった。ただ沖長がこの世界に来る少し前には、それらのカリキュラムが増えていたようだが、この世界もやはり求められる技術というのは似通っているらしい。
特に英会話は、より実践的で活用できるもののようで、グローバルな視野を持って選択する生徒も多い。
様々な選択授業の中で沖長が選んだのはこれも変わり種ではあるが、【食育】というカリキュラムである。
簡単にいえば〝食〟に関する知識や技術を学ぶ授業だ。
我々の生活には切っても切り離せない食文化。各々国には数え切れないほどの食文化が根付いており、それらを学ぶことで自国だけでなく他国の在り方を学んでいく。
また将来調理師や料理研究家を目指す者にとっても頼りになる科目なのだ。
前世から食べることが好きだった沖長は、迷わず食育を選択したというわけである。
本日の授業は、座学ではなく生徒たちが待ちに待っていた調理実習。しかもカレーという万国共通で人気トップクラスに位置する料理である。
沖長がリズミカルに包丁で玉ねぎを切っていると、他の生徒たちが何故かこぞって集まってきて、「わぁ、はや~い」や「よく目が痛くならないよね~」と口々に言っている。
前世でも自炊はしていたし、今世でもよく食事の手伝いはするので沖長としては慣れたものだ。特にカレーは何度も作っているし手際だって当然良くなる。
「はいはいみんな、札月くんに注目してないで調理を進めようにね」
担当教師である皆川先生が手を叩きながら言うと、生徒たちは返事をして自分たちのキッチンへと戻っていく。
(それにしても以外にも男子が多いよなぁ)
プロの料理人こそ、男性の方が多いかもしれないが、こういう授業を率先して行う男子というのは前世の頃は少なかった。どこか調理は女性のものという風潮があったからこそかもしれないが。
しかし現代では、主婦ではなく主夫という立場も増えてきており、料理男子というのも珍しくない。特に男子が調理をしている動画配信が度々バズッたりしていて、需要もかなり増えているというわけだ。
(まあナクルは調理に興味ないみたいだけどな)
だからこの場にはナクルはいない。ナクルは作るより食べる人らしく、たまに蔦絵の菓子作りを手伝うくらいだという。それもつまみ食いが目的みたいだが。
ちなみにナクルの選択科目は〝ダンス〟である。これも昨今爆発的に人気が上がっている。動画配信でも【踊ってみた】などが人気コンテンツであり、オリンピックでもダンスが種目に加わるなど、世界的職種として名を挙げているのだ。
身体を動かすことが得意なナクルにとってはピッタリな科目だろう。
「よし、あとは煮込んで終わりだな」
鍋に入ったカレーをお玉で混ぜていると、またも他の生徒たちが鼻をひく突かせながら近づいてきては皆川先生に叱られている。
「まあ気持ちは分かるけどね。札月くんの作る料理って美味しいから」
皆川先生は溜息交じりにそう言う。
前にも授業で味噌汁を作ったことがあったが、どのグループよりも沖長がメインで調理したグループの味噌汁の方が美味かったことから皆に一目置かれるようになっている。
周りを見回しても、完成したのは沖長のグループだけみたいだ。
せっかくだからと余った食材で何かを作りたいと思い皆川先生に許可をもらって作り始めた。
そうして皆が完成する頃には、沖長はもう一品を作り上げていた。すると皆川先生が我先にと味見を所望してくる。
「ん~~~~、この滑らかな舌触りと心地良い野菜の食感がいいわね~。と~っても美味しくできてるわ、このポテトサラダ!」
そう、余ったジャガイモでポテトサラダを作ったのである。
すると皆川先生だけズルイと生徒たちが文句を言い始めた。
「先生、たくさん作ったからみんなにも分けてもいいですか?」
皆川先生が許可を出すと、みんなが満面の笑みを浮かべる。そこまで食べたかったのかと呆れるが、そもそも食に興味がある子たちが集まっているので当然かと納得する。
それから全員席に座り、自分たちで作ったカレー+沖長特製ポテトサラダを食すことになった。
「おぉ~、このポテサラうまっ!?」
「ほんと~、とろける感じ~」
「これでご飯食べられるよね!」
などと、何故かほとんどがカレーではなくポテトサラダから食べる。
(いやいや、まず自分たちで作ったカレーを食いなよ……まあ嬉しいけど)
何だかんだいっても自分で作った料理で笑顔になってくれるのは喜ばしいものだ。
別に将来は料理人になりたいとは思っていないが、一つの選択肢としてはありかもと思う。
食べながらではあるが、皆川先生によってカレーの歴史について語られたり、それについて生徒たちが質問したりする。
そうして食事が終わると全員で後片付けをしているとチャイムが鳴る。少し時間的にオーバーしまったようだが、今日は四時間目だったのですぐに次の授業があるわけではなく休み時間が挟むので問題はない。
「ねえねえ、札月くん?」
食器を洗っていると、不意に声を掛けられた。
「ん? えっと……」
「あ、いきなりごめんね! あたしは三組の九馬水月《くばみづき》っていうの、よろしくね!」
「九馬……ね。俺は札月沖長、よろしく」
九馬と聞いて、沖長の脳内から呼び起こされたある記憶が反応したが、とりあえずポーカーフェイスで挨拶をした。
普通ならすでに通過した学びということもあり退屈なはずだが、小学四年生になってからは一部ではあるが楽しみも増えていた。
それは前世時、沖長が子供の時にはカリキュラムに無かった授業があること。
週に三度、選択科目というのが設定されてあり、そこでは各々選択した授業を受けることができるのだ。
技工、英会話、プログラミンなど、世界に通じる技術を養うために取り組まれている。
沖長の時は、図工や道徳といったものはあったが、図工はどちらかというと拙い工作といった感じで、道徳も本当に社会の上辺的なものだけを学んでいた気がする。
さらにいうなら英語を学びカリキュラムも無かったし、パソコンを扱うような授業だってなかった。ただ沖長がこの世界に来る少し前には、それらのカリキュラムが増えていたようだが、この世界もやはり求められる技術というのは似通っているらしい。
特に英会話は、より実践的で活用できるもののようで、グローバルな視野を持って選択する生徒も多い。
様々な選択授業の中で沖長が選んだのはこれも変わり種ではあるが、【食育】というカリキュラムである。
簡単にいえば〝食〟に関する知識や技術を学ぶ授業だ。
我々の生活には切っても切り離せない食文化。各々国には数え切れないほどの食文化が根付いており、それらを学ぶことで自国だけでなく他国の在り方を学んでいく。
また将来調理師や料理研究家を目指す者にとっても頼りになる科目なのだ。
前世から食べることが好きだった沖長は、迷わず食育を選択したというわけである。
本日の授業は、座学ではなく生徒たちが待ちに待っていた調理実習。しかもカレーという万国共通で人気トップクラスに位置する料理である。
沖長がリズミカルに包丁で玉ねぎを切っていると、他の生徒たちが何故かこぞって集まってきて、「わぁ、はや~い」や「よく目が痛くならないよね~」と口々に言っている。
前世でも自炊はしていたし、今世でもよく食事の手伝いはするので沖長としては慣れたものだ。特にカレーは何度も作っているし手際だって当然良くなる。
「はいはいみんな、札月くんに注目してないで調理を進めようにね」
担当教師である皆川先生が手を叩きながら言うと、生徒たちは返事をして自分たちのキッチンへと戻っていく。
(それにしても以外にも男子が多いよなぁ)
プロの料理人こそ、男性の方が多いかもしれないが、こういう授業を率先して行う男子というのは前世の頃は少なかった。どこか調理は女性のものという風潮があったからこそかもしれないが。
しかし現代では、主婦ではなく主夫という立場も増えてきており、料理男子というのも珍しくない。特に男子が調理をしている動画配信が度々バズッたりしていて、需要もかなり増えているというわけだ。
(まあナクルは調理に興味ないみたいだけどな)
だからこの場にはナクルはいない。ナクルは作るより食べる人らしく、たまに蔦絵の菓子作りを手伝うくらいだという。それもつまみ食いが目的みたいだが。
ちなみにナクルの選択科目は〝ダンス〟である。これも昨今爆発的に人気が上がっている。動画配信でも【踊ってみた】などが人気コンテンツであり、オリンピックでもダンスが種目に加わるなど、世界的職種として名を挙げているのだ。
身体を動かすことが得意なナクルにとってはピッタリな科目だろう。
「よし、あとは煮込んで終わりだな」
鍋に入ったカレーをお玉で混ぜていると、またも他の生徒たちが鼻をひく突かせながら近づいてきては皆川先生に叱られている。
「まあ気持ちは分かるけどね。札月くんの作る料理って美味しいから」
皆川先生は溜息交じりにそう言う。
前にも授業で味噌汁を作ったことがあったが、どのグループよりも沖長がメインで調理したグループの味噌汁の方が美味かったことから皆に一目置かれるようになっている。
周りを見回しても、完成したのは沖長のグループだけみたいだ。
せっかくだからと余った食材で何かを作りたいと思い皆川先生に許可をもらって作り始めた。
そうして皆が完成する頃には、沖長はもう一品を作り上げていた。すると皆川先生が我先にと味見を所望してくる。
「ん~~~~、この滑らかな舌触りと心地良い野菜の食感がいいわね~。と~っても美味しくできてるわ、このポテトサラダ!」
そう、余ったジャガイモでポテトサラダを作ったのである。
すると皆川先生だけズルイと生徒たちが文句を言い始めた。
「先生、たくさん作ったからみんなにも分けてもいいですか?」
皆川先生が許可を出すと、みんなが満面の笑みを浮かべる。そこまで食べたかったのかと呆れるが、そもそも食に興味がある子たちが集まっているので当然かと納得する。
それから全員席に座り、自分たちで作ったカレー+沖長特製ポテトサラダを食すことになった。
「おぉ~、このポテサラうまっ!?」
「ほんと~、とろける感じ~」
「これでご飯食べられるよね!」
などと、何故かほとんどがカレーではなくポテトサラダから食べる。
(いやいや、まず自分たちで作ったカレーを食いなよ……まあ嬉しいけど)
何だかんだいっても自分で作った料理で笑顔になってくれるのは喜ばしいものだ。
別に将来は料理人になりたいとは思っていないが、一つの選択肢としてはありかもと思う。
食べながらではあるが、皆川先生によってカレーの歴史について語られたり、それについて生徒たちが質問したりする。
そうして食事が終わると全員で後片付けをしているとチャイムが鳴る。少し時間的にオーバーしまったようだが、今日は四時間目だったのですぐに次の授業があるわけではなく休み時間が挟むので問題はない。
「ねえねえ、札月くん?」
食器を洗っていると、不意に声を掛けられた。
「ん? えっと……」
「あ、いきなりごめんね! あたしは三組の九馬水月《くばみづき》っていうの、よろしくね!」
「九馬……ね。俺は札月沖長、よろしく」
九馬と聞いて、沖長の脳内から呼び起こされたある記憶が反応したが、とりあえずポーカーフェイスで挨拶をした。
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