俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

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「のわぁぁぁぁぁっ!?」

 地面に叩きつけるわけではなく、そのまま空へと投げられた赤髪少年は、放物線を描きながら飛んで行く。できることならそのまま彼方まで消えてくれると助かるが、十メートルほど先の地面へと墜落した。

「……あ! 咄嗟に投げたッスけど、良かったッスかね?」
「大丈夫だろ。ダンジョン主に弾き飛ばされても無事だったみたいだしな」

 普通の子供なら骨折以上の重傷待ったなしだろうが、相手は転生者であり身体も丈夫そうなので問題ないと思う。
 それを示すかのように、倒れていた赤髪少年がむくりと起き上がる。

「っ……くそぉ、いきなり何すんだよ、ナクル! 敵は俺じゃなくてソイツだぞ!」

 どうやら大したダメージも負っていないようで、ビシッと沖長に対して指を突きつけてくる。

「オキくんは敵なんかじゃないッス! ボクの大事な人ッスよ!」
「目を覚ませ! お前は騙されてんだよ!」
「騙されてなんかないッス! むしろオキくんに騙されるなら、それも新鮮で何だか嬉しいッスから!」
「なっ……くっそぉっ! モブのくせに強力な催眠術を使いやがって……っ!」

 二人で盛り上がっているが、どちらに対しても言いたいことがある。
 まずナクル。いつから騙されて快感を得るような子に育ったのか、兄貴分としては複雑でしかない。

 そして赤髪少年だが、もちろんナクルを騙しているなんてあるわけがないし、それに強力な催眠術を使えるような奴がモブなはずがないだろう。むしろそんな力を持っているキャラは物語の一つの軸として扱われるのがほとんどだ。

「安心しろ、ナクル! この俺がお前を解放してやるからな!」
「だーかーら! オキくんはいい人ッス! これ以上手を出すつもりならボクがぶっ飛ばしてやるッスよ!」
「ナクル、その言葉遣いはちょっとはしたないぞ」
「オキくんは黙っててッス!」
「あ、はい……」

 ナクルも熱くなったら周りが見えなくなるタイプで、赤髪少年もまた同タイプ。これではこちらの話が通じるわけもなかった。
 そして二人は激突し、拳を交え始めた。とはいってもナクルが一方的に攻撃をして、赤髪が逃げに徹している形ではあるが。

(まあ、赤髪の奴はナクルを傷つけるつもりはなさそうだし放置してても問題ないか)

 せっかくだからこの時間を利用してダンジョン主でも探すかと思っていると……。

「――――主様も気苦労が耐えんようじゃのう」
「!? って、十鞍、いつの間に!?」

 すぐ隣で腕を組みながら面白そうな笑みを浮かべていたのは十鞍千疋だった。

「なぁに、ダンジョンの発生を感知したんでな」

 ちなみに千疋には、せめて敬語を使うのは止めるように言った。主様呼びはもう諦めたが。

「……やっぱり壬生島はいない、か」

 虚弱体質が完全に治ったわけではないので、さすがにダンジョン内へ来ることは難しいようだ。
 しかし千疋は、「いいや、ここにおるぞ」と自分の頭の上を指差す。すると、ボリュームのある髪の中からひょっこりと顔を出すモノがあった。
 それは一見してハムスターに見える。

「もしかして例の糸を使った?」
「うむ。喋れはせんが、こちらの声もちゃんと届いておると思うぞ」

 どうやらこのえも原作イベントが気になって千疋を遣わしてきたらしい。

(けどこれで原作の流れは大分違ったものになったな)

 本来はナクル一人での攻略だったはずだが、ここにはイレギュラーが三……いや、四人いる。

「――――お前ぇぇぇっ! ナクルに何してやがるぅぅぅぅっ!」

 直後、ナクルと赤髪の戦いの間に割って入ってきた存在がいた。
 金の髪を靡かせ怒りの形相で赤髪へと迫り、その身体を蹴り飛ばした一人の少年。

 もう一人のイレギュラー――金剛寺銀河。五人目の登場である。

(……羽竹の奴、アイツを抑えることができなかったのか?)

 いや、そもそも抑えるつもりはなかったかもしれないが。

「ちぃっ、てめえは誰だ!?」

 蹴り飛ばされはしたものの、赤髪少年は倒れることもなく金剛寺を睨みつけながら怒鳴った。

「フン! モブのくせして俺のナクルに手を出そうとしやがって! いいか! 俺こそこの物語のオリジナル主人公――金剛寺銀河だっ!」
「!? ……なるほど、こっちはイレギュラーじゃなくて転生者ってわけか」

 赤髪が何だか納得気味に頷いているが、転生者でもイレギュラーはイレギュラーだとツッコミを入れたい。もっとも赤髪も金剛寺も、何故か沖長のことは転生者ではなく、自分たちがいることで生じたイレギュラーなモブだと考えているようだが。

「ナクル、無事か?」
「え? ぶ、無事……ッスけど」
「それなら良かったぜ! 安心しな、この俺が来たからにはお前に指一本触れさせはしねえからな!」

 そう言いながら金剛寺がイケメンスマイルを披露する。他の女子ならばそれだけで昏倒する衝撃を受けるのだろうが、ナクルは「……はぁ」とどこか困惑した様子で声を漏らしていた。

「クソ鬱陶しい連中ばかり現れやがって! よりにもよってオリジナル主人公だと? ふざけんな! てめえみてえな弱者が名乗っていい肩書きじゃねえんだよ!」

 怒りのボルテージをさらに上げた赤髪少年から、凄まじいオーラが迸る。

「ほほう、もしや彼の者が前に主様が言っておった七宮の小娘を蘇生させた一端を担った奴かえ?」
「え……あーまあ、そう……かな」

 そういえば蔦絵を蘇生させた時、赤髪が放置したオーラの塊が起因となったと誤魔化したことを思い出した。

「何じゃ歯切れが悪いのう。……やはり七宮の小娘の蘇生について、あの場で口にしたことは方便じゃったかえ?」

 どうやら何となくこちらが誤魔化していることにも気づいていた様子。そういう素振りもあったからもしやと思っていたが、さすがは初代十鞍千疋から膨大な経験を連綿と受けついできただけはある。

「まあ今更主様が何をしようが驚かぬよ。何せワシを救ってくれたお方じゃからのう。無論他言もせぬ」
「…………助かるよ」

 明言はしていないが、どこか察してくれた千疋の気遣いには感謝しておく。

「しかしあの者は一体何じゃ? あれだけのオーラは尋常ではないんじゃが?」
「十鞍から見てもそう思うのか?」
「うむ。コモンでしかないが、オーラを扱える中でなら総量は上級者に匹敵しておる」


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