98 / 220
97
しおりを挟む
視界が開けた直後、沖長は思わず息を呑んだ。
何故なら目の前に広がっている光景が、前に見たものとは明らかに別物だったからである。
以前は、土と岩という乾いた大地がただただ存在しているだけの無骨な世界だった。
しかし視界に映っているのは、だだっ広い草原。どこまでも続くような緑色の絨毯が広がっている。時折岩や木々などが確認できるが、自然豊かに思えるここは、明らかに先の荒野とは真逆のフィールドだった。
「ん~、オキくん風が気持ち良いッスね!」
暢気なもんで、ナクルは全身を撫でつけるそよ風に身を任せて頬を緩めていた。
確かに空を見上げればちらほらと白い雲が泳いでいるが、晴れ晴れとした天気で清々しい。太陽のような物体もあり気候も穏やかだ。
ここがダンジョンであることが忘れるほどの心地の良い空間である。ついピクニック気分になってしまうのも無理はないだろう。
「ナクル、ここがダンジョンだってことは忘れちゃダメだぞ?」
「! そうだったッス! けど……妖魔も見当たらないッスよ?」
確かに彼女の言う通り、少なくとも見渡せるところには妖魔らしき存在はいない。
(けど羽竹が言うには、ここでナクルは妖魔と戦うはず)
なら気を抜くことができない。沖長はいつ襲われても対処できるように警戒は怠らない。
ただその場にジッとしていると、いつまでも攻略はできないので、とりあえずダンジョン主を探すべく歩き始めた。
十分ほど歩いていると、ふと視線の先にあった茂みがガサッと揺れたのを目にし足を止める。
ナクルも気が付いたようで、構えながらジッと茂みを見つめていた。
すると茂みの中から現れたのは、明らかに異形な体躯をした存在だった。
前に沖長が遭遇した個体とはまた別の形をしている。
四足歩行ではあるが、頭部らしき部分が歪で鍵のようなガタガタになっており、間違いなくそれが妖魔だということは一目で判別できた。
「ナクル、臨戦態勢!」
沖長の言葉にナクルは返事をして両者ともに身構える。
するとこちらを敵と認識したのか、妖魔が素早い動くで迫ってきた。
「そのまま突撃してくるつもりか!?」
確かにあの尖った頭部で突かれたら大ダメージは必至だろう。ただ動きは素早くとも単調な攻撃なので回避することは容易い。
向かってきた妖魔に対し、二人は左右に分かれるように距離を取る。ピタリと止まった妖魔は、その意識をナクルへと向けて彼女に突進していく。
(妖魔はナクル狙いってことか)
やはり勇者を先に討とうという意識があるのか、妖魔はこちらを完全に無視だ。
「なら逆に都合が良い! はっ!」
《アイテムボックス》から取り出した千本を複数同時に投げつける。死角から襲い掛かる千本に気づかず、妖魔は攻撃を受けるが……。
(ちっ……やっぱ僅かに刺さるだけ、か)
前の妖魔もそうだったが、外皮が異常に硬いせいか大してダメージが入らない。
妖魔が沖長の攻撃を無視したままナクルへと飛びつく。やはりその頭部で刺殺しようとしているようだ。
「ナクル、気をつけろ!」
「これくらい大丈夫ッス!」
飛び込んでくる妖魔の頭部を回避すると同時に、その腹部に向かって拳を突き上げた。すると妖魔は、拳をまともに受けて上空へと突き上げられていく。
そのまま地面に落下した妖魔だったが、少しもがいただけでまた立ち上がる。どうやら致命傷には至っていない様子。しかし――。
「動きを止めてくれたならこれで終わりだ」
以前倒した時と同じように、妖魔の頭上に巨岩を出現させて潰してやった。
どれだけ外皮が固くても、これだけの質量で押し潰されればやはり一溜まりもないはず。
「やった! やったッスよ、オキくん!」
嬉しそうにピョンピョン跳ねながらこちらにやってくるナクル。しかしその時、岩のすぐ近くの地面がボコッと盛り上がるのを沖長が見た。
「!? ナクルッ、後ろっ!」
「え……っ!?」
地面から飛び出てきたのは、先ほどの潰したと思われた妖魔だった。
咄嗟に駆け出していた沖長は、寸でのところでナクルを突き飛ばすことに成功するが、代わりに妖魔の突撃を受けてしまう。
何とかギリギリで身体を捻って被害は最小限にできたが、背中に裂傷が走り血が出る。
「オ、オキくんっ!?」
痛みに顔を歪めている沖長に駆け寄ってくるナクル。
「だ、大丈夫……これくらいなら問題ないって」
「で、でも! ボクが油断したから!」
「それを……言うなら……俺だって倒したって思っちまってたし」
前に潰した時は、地面が硬い岩盤のようだった。しかしここの地面は柔らかい。恐らく潰される前に地面に潜って回避したのだろう。
(思ったより知恵も回るってことか)
そんな回避行動をするとは思っていなかった自分が悪い。反省すべき点である。
「…………くも」
「……ナクル?」
彼女を見ると、両拳を強く握って震わせていた。その表情は彼女に似合わず怒りに満ちていた。
そしてナクルはキッと妖魔を睨みつけて、
「……よくも……よくも、ボクの大切な人を傷つけたッスねっ!」
怒鳴ると同時に、彼女の全身から凄まじいオーラが噴き出た。
「――ブレイヴクロスッ!」
そう口にしたナクルの身体が眩い輝きを放ち、オーラがその姿をライトアーマーへと変わった。
妖魔がナクルの気迫に押されてか動けずにいると、その隙を突いてナクルが駆け出す。
しかし妖魔が逃げるように地面へと潜ったことで、ナクルが目標を失ってしまう。
(なるほど、あの妙な頭部はドリルみたいに活用することもできたんだな)
どうやって地面を掘ったのか理解できたが、地中にいる敵をどうすればいいかナクルは悩んでいるようだ。
するとまたナクルの背後から奇襲をかけようと飛び出てきた。
「――そこッス!」
しかし死角を突かれたばずのナクルは見事に反応し、振り向き様に回し蹴りを放った。
その一撃には凄まじいオーラが込められており、まともに受けた妖魔の身体は粉砕することになったのである。
「――押忍っ!」
バラバラになり、そしてそのまま塵と化した妖魔を見てナクルが勝利の声を上げた。
何故なら目の前に広がっている光景が、前に見たものとは明らかに別物だったからである。
以前は、土と岩という乾いた大地がただただ存在しているだけの無骨な世界だった。
しかし視界に映っているのは、だだっ広い草原。どこまでも続くような緑色の絨毯が広がっている。時折岩や木々などが確認できるが、自然豊かに思えるここは、明らかに先の荒野とは真逆のフィールドだった。
「ん~、オキくん風が気持ち良いッスね!」
暢気なもんで、ナクルは全身を撫でつけるそよ風に身を任せて頬を緩めていた。
確かに空を見上げればちらほらと白い雲が泳いでいるが、晴れ晴れとした天気で清々しい。太陽のような物体もあり気候も穏やかだ。
ここがダンジョンであることが忘れるほどの心地の良い空間である。ついピクニック気分になってしまうのも無理はないだろう。
「ナクル、ここがダンジョンだってことは忘れちゃダメだぞ?」
「! そうだったッス! けど……妖魔も見当たらないッスよ?」
確かに彼女の言う通り、少なくとも見渡せるところには妖魔らしき存在はいない。
(けど羽竹が言うには、ここでナクルは妖魔と戦うはず)
なら気を抜くことができない。沖長はいつ襲われても対処できるように警戒は怠らない。
ただその場にジッとしていると、いつまでも攻略はできないので、とりあえずダンジョン主を探すべく歩き始めた。
十分ほど歩いていると、ふと視線の先にあった茂みがガサッと揺れたのを目にし足を止める。
ナクルも気が付いたようで、構えながらジッと茂みを見つめていた。
すると茂みの中から現れたのは、明らかに異形な体躯をした存在だった。
前に沖長が遭遇した個体とはまた別の形をしている。
四足歩行ではあるが、頭部らしき部分が歪で鍵のようなガタガタになっており、間違いなくそれが妖魔だということは一目で判別できた。
「ナクル、臨戦態勢!」
沖長の言葉にナクルは返事をして両者ともに身構える。
するとこちらを敵と認識したのか、妖魔が素早い動くで迫ってきた。
「そのまま突撃してくるつもりか!?」
確かにあの尖った頭部で突かれたら大ダメージは必至だろう。ただ動きは素早くとも単調な攻撃なので回避することは容易い。
向かってきた妖魔に対し、二人は左右に分かれるように距離を取る。ピタリと止まった妖魔は、その意識をナクルへと向けて彼女に突進していく。
(妖魔はナクル狙いってことか)
やはり勇者を先に討とうという意識があるのか、妖魔はこちらを完全に無視だ。
「なら逆に都合が良い! はっ!」
《アイテムボックス》から取り出した千本を複数同時に投げつける。死角から襲い掛かる千本に気づかず、妖魔は攻撃を受けるが……。
(ちっ……やっぱ僅かに刺さるだけ、か)
前の妖魔もそうだったが、外皮が異常に硬いせいか大してダメージが入らない。
妖魔が沖長の攻撃を無視したままナクルへと飛びつく。やはりその頭部で刺殺しようとしているようだ。
「ナクル、気をつけろ!」
「これくらい大丈夫ッス!」
飛び込んでくる妖魔の頭部を回避すると同時に、その腹部に向かって拳を突き上げた。すると妖魔は、拳をまともに受けて上空へと突き上げられていく。
そのまま地面に落下した妖魔だったが、少しもがいただけでまた立ち上がる。どうやら致命傷には至っていない様子。しかし――。
「動きを止めてくれたならこれで終わりだ」
以前倒した時と同じように、妖魔の頭上に巨岩を出現させて潰してやった。
どれだけ外皮が固くても、これだけの質量で押し潰されればやはり一溜まりもないはず。
「やった! やったッスよ、オキくん!」
嬉しそうにピョンピョン跳ねながらこちらにやってくるナクル。しかしその時、岩のすぐ近くの地面がボコッと盛り上がるのを沖長が見た。
「!? ナクルッ、後ろっ!」
「え……っ!?」
地面から飛び出てきたのは、先ほどの潰したと思われた妖魔だった。
咄嗟に駆け出していた沖長は、寸でのところでナクルを突き飛ばすことに成功するが、代わりに妖魔の突撃を受けてしまう。
何とかギリギリで身体を捻って被害は最小限にできたが、背中に裂傷が走り血が出る。
「オ、オキくんっ!?」
痛みに顔を歪めている沖長に駆け寄ってくるナクル。
「だ、大丈夫……これくらいなら問題ないって」
「で、でも! ボクが油断したから!」
「それを……言うなら……俺だって倒したって思っちまってたし」
前に潰した時は、地面が硬い岩盤のようだった。しかしここの地面は柔らかい。恐らく潰される前に地面に潜って回避したのだろう。
(思ったより知恵も回るってことか)
そんな回避行動をするとは思っていなかった自分が悪い。反省すべき点である。
「…………くも」
「……ナクル?」
彼女を見ると、両拳を強く握って震わせていた。その表情は彼女に似合わず怒りに満ちていた。
そしてナクルはキッと妖魔を睨みつけて、
「……よくも……よくも、ボクの大切な人を傷つけたッスねっ!」
怒鳴ると同時に、彼女の全身から凄まじいオーラが噴き出た。
「――ブレイヴクロスッ!」
そう口にしたナクルの身体が眩い輝きを放ち、オーラがその姿をライトアーマーへと変わった。
妖魔がナクルの気迫に押されてか動けずにいると、その隙を突いてナクルが駆け出す。
しかし妖魔が逃げるように地面へと潜ったことで、ナクルが目標を失ってしまう。
(なるほど、あの妙な頭部はドリルみたいに活用することもできたんだな)
どうやって地面を掘ったのか理解できたが、地中にいる敵をどうすればいいかナクルは悩んでいるようだ。
するとまたナクルの背後から奇襲をかけようと飛び出てきた。
「――そこッス!」
しかし死角を突かれたばずのナクルは見事に反応し、振り向き様に回し蹴りを放った。
その一撃には凄まじいオーラが込められており、まともに受けた妖魔の身体は粉砕することになったのである。
「――押忍っ!」
バラバラになり、そしてそのまま塵と化した妖魔を見てナクルが勝利の声を上げた。
215
お気に入りに追加
1,301
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした
月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。
それから程なくして――――
お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。
「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」
にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。
「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」
そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・
頭の中を、凄まじい情報が巡った。
これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね?
ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。
だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。
ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。
ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」
そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。
フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ!
うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって?
そんなの知らん。
設定はふわっと。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる