俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

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「それは……難儀だったな」
「ええ……けれどこうして……他人と会うことが……できるようにもなったわ。わたし……物凄く頑張ったわ」

 表情は変わらずとも、フンスと鼻息を出してどことなく誇らしげだ。そんなドヤ顔が何だか微笑ましくて思わず笑みが零れる。

「はは、元気になったのなら良かったじゃんか。俺もまあ、比較的まともな転生者の知り合いができて嬉しいしな!」
「! ……そう。そう言ってもらえると……ちょっと嬉しいわね」

 なら嬉しそうな顔をしろよと言いたいが、それは野暮というものだろう。

「それで……その……どうかしら?」
「え? ……ああ、手を組む云々のことか?」
「できれば……手を貸してもらいたいのだけれど」
「さっきも言ったように、ナクルを巻き込まないなら別にいい。壬生島も悪い奴じゃなさそうだしな」

 こうして二人きりで対話をしているとよく分かる。この少女は不器用ではあるが、赤髪少年のような根が腐っている奴でもないし、金剛寺のように猪突猛進なバカでもない。長門のように話し合えば分かる相手だ。

 なら情報を共有できる相手として考えれば悪くない関係だろう。もちろん心の底から信用しているわけではないが、そこは向こうだって同じだろうし、そこらへんは今後過ごしていく時間次第だと思う。

(それに原作を知ってるのなら、羽竹からの情報も合わせてより先に備えることができるだろうしな)

 羽竹だって知らないことがあるらしいし、それをこのえの知識が補ってくれれば助かる。加えてこのえの能力があれば、この先も大いに活躍を期待することもできる。手を組む利だって大きいと判断した。
 だから彼女の手を取ることを承諾したのである。

「……感謝するわ。これで……あの子を救える可能性が……少しでも上がってくれれば……」

 やはりこのえにとって千疋という存在は大きいようだ。もしかしたら沖長にとってのナクルのようなものか。だとするなら彼女の気持ちもよく分かる。
 自分だってナクルが呪いに侵されていると知れば、何が何でも助けたいと願うし動くだろう。たとえ危険だとしてもダンジョンにだって挑む。他の転生者を利用だってしてやる。

「千にも……知らせたいわ。良ければ……呼んできて……くれないかしら?」

 その頼みに「分かった」と告げて部屋を出る。そのまま玄関の方へ向かうと――。

「――踏み込みが甘いわ!」
「ぐはぁっ!?」
「フェイントが分かり安過ぎる!」
「ごほぉっ!?」
「その筋肉は見せかけか!」
「んがぁっ!?」

 ………………何故か千疋と、ガタイの良い連中が組手のようなものをしていた。

 まだ十歳の子供であるはずの千疋だが、プロレスラーのような強面たちを相手に、投げ飛ばしたり吹き飛ばしたりと異様な光景が広がっている。

(現実感の無い光景だなぁ……)

 ただ、大の大人がポンポンと投げ飛ばされていくのは、見ていて少し愉快ではあった。
 するとこちらの視線に気が付いたのか、千疋がニヤ~ッと嫌な予感をさせる笑みを浮かべた直後、凄まじい速度でこちらへ迫ってくる。

 一瞬にして懐に入られ、沖長の身体はその敵意に反応してすぐさま応戦した。
 胸元へと伸ばされてきた手を払いのけると、「おぉ」と感心したような表情を浮かべた千疋は、次に屈み込んで足払いを放ってくる。

 沖長は軽く舌打ちをすると同時に後方へ跳んで回避し、千疋の攻撃が空ぶった隙を突いて今度はこちらが駆け寄り手を伸ばす。

「クフフ、甘いわい!」

 彼女の身体に触れられたかと思った瞬間にその場からいなくなる。どこへと思ったが、頭上からハラハラと砂が落ちてくるのに気づく。即座に天を仰ぐと、そこには踵落としを放ってくる千疋がいた。

(――避けられねえっ!?)

 仕方ないと、腕をクロスして彼女の足を受け止めた。

「!? ……ほほう!」

 千疋が跳ねるようにして身体を回転させながら距離を取って着地した。そして互いに睨み合う時間が続くが……。

「「「「おおぉぉぉぉぉっ!?」」」」

 突然歓声が聞こえたのでそちらに目をやると、いつの間にかかなりの男衆どもが観戦していた。

「すげえじゃねえか、坊主!」
「千疋ちゃん相手に大したもんだぜ!」
「ていうかナニモンなんだよ、あのガキは!」

 などと口々に好き勝手なことを言っている。そこで沖長もハッとして、ようやく自分が何をしていたかを把握する。

「ちょ、いきなり何すんだよ十鞍!」
「カーッハッハッハ! 悪い悪い! ただお嬢が選んだ男を試してみとうなってのう」
「いやいやいや、試すにしても急過ぎるぞ! ケガしてたらどうすんだよ!」
「これは異なことを。試しというのは急でなければ意味がないであろう。それにケガなど男が気にするでないわい」
「違うっつうの。お前がケガしたらどうするって話をしてんだよ」
「……は? ワ、ワシがか?」
「十鞍だって女の子だろ? いきなりでこっちも手加減とかできなかったし、顔にでもケガさせたら大変だろ?」
「………………ほんに面白い男じゃのう、お主は」
「はい? 何が?」

 こっちは冷や冷やもので少しも面白さなど感じなかったのだが。

「ククク、まあええわい。ところでお嬢はどうしたんじゃ?」
「そのお嬢がお呼びだぞ」
「うむ、そうかえ。ならばさっそく向かうとするか。お主ら、鍛錬を欠かさぬようにのう!」
「「「「おう!」」」」

 男衆の返事に満足げに頷いた千疋とともに離れへと向かうことになった。その最中に、先ほどの手合いを千疋が褒めてきた。

「それにしても先ほどのお主の動きは見事じゃった」
「勇者様に褒めて頂けて何よりだよ」
「日ノ部ナクルはお主よりも強いのかえ?」
「まともに戦えば、ね」
「ふむ……まともに、のう。つまり何でもありならばお主が勝つと?」

 やはり老獪な見解を持つ輩は面倒だ。すぐにこちらの真意を悟ってしまう。

「さあね。それより戦うにあたって呪いは影響しないのか?」
「少なくとも戦力が落ちることはあるまい。戦いの経験で言うならば、初代から積み重ねてきたワシは最強キャラじゃぞ」

 それはそうだろう。彼女に蓄積されている戦いの経験値は膨大だろう。何せ何十年? 何百年? それほどの経験は間違いなく大きな力となっているはず。

「そういや呪いを受けたら外見的に何か変わったりするのか?」
「特に著しい変化はないのう。強いていうなら……コレじゃな」

 そう言って彼女が胸元を少し開ける。喉のすぐ下らへんか。そこには鍵穴のような黒っぽい痣があった。

「呪いを受けた直後に生まれた痣じゃ。恐らくこれは呪われた者の証なんじゃろうな」

 そう言って胸元をもとに戻す。千疋の顔に哀愁のようなものを感じた。きっとこの痣を見る度に、引き剝がしたいという葛藤を何度もしてきたことだろう。それこそ何年も、何十年も……。

(呪いの証か……呪い、ね)

 その時、ふと思いついたことがあった。いや、できるかどうか分からないが、何となく試してみるのも悪くないのかも、と。

「……なあ、ちょっと手を貸してくれないか?」
「む? こうかのう?」
「……普通もっと警戒するもんじゃない?」

 素直に手を差し出してくるから少し注意しておいた。

「なぁに、害しようとするならば返り討ちにするだけじゃて!」

 確かに彼女ほどの強さがあればそれも可能かと得心する。そして差し出された手に沖長は自身の手でそっと触れた。

 そして――。

(――――――回収)



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