俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

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 本来なら即決していいことではないのかもしれない。
 しかし時間を置いたとしても、向こうはこちらの事情を知っているし、手を組むか考えている間に厄介な問題が起きるとこちらに手を回す余裕がなくなるかもしれない。

 たとえば突然ダンジョンが出現し、ナクルとともに攻略に挑むことになったり、他にも金剛寺たちが絡んできて状況がややこしくなったりなど、沖長としてもあまり想定外のことに時間を割いている余裕がないのだ。 
 だから目の前の問題は、まだ余裕がある時点である程度の妥協点を設けて、その都度少しずつ調整していく方が性に合っている。

(羽竹に助力を仰いでからでもいいと思うけど、警戒心の強いアイツのことだ。間違いなく即決なんてしないし距離を置くことを進めてくるはず)

 それも確かに正しい選択の一つだが、ここまでついてきてしまった以上は、せっかくだから情報共有できる相手を増やしておくのもいいと考えた。
 幸いなことに、転生者であろう壬生島このえは明確な敵意をこちらに向けていないので、引き込むなら今がチャンスでもある。

 それに……だ。

 チラリと千疋を一瞥する。彼女は作中でも強キャラに位置している感じだ。何せ初代勇者の経験を背負っているのだから、今のナクルと比べても間違いなく強いだろう。
 その経験を活かせば、ナクルを勇者として鍛えることも可能かもしれない。

「……巻き込むなとは、どの程度のことを言っておるんじゃ? あやつが勇者として覚醒した以上は、自ずと接触の機会も増えるんじゃがのう」
「もちろん完全に非接触するなってことじゃない。ただ、〝ダンジョンの秘宝〟探しについては黙ってほしいってことだよ」
「こちらとしては、戦力は多ければ多いほどいいんじゃがのう」
「けれど人が増えれば、秘宝を奪い合う率も高くなるんじゃないのか? それとも秘宝は幾つもあるってこと?」

 手を組むといってもやはり赤の他人だ。理想が叶うといわれる代物をその他人が欲しないとは限らない。いや、普通の人間なら喉から手が出るほど欲しいだろう。
 もっとも沖長にとっては、別にそれほど執着するような理想は今のところないが。強いて言えば平和だったり、ナクルが幸せになるとか漠然とした願いは持っている。

 言いたいことは、人が多くなれば、それだけ理想の数も増えるということ。素直に譲ってくれる相手ならいいが、そうでなければ最後に出し抜かれて終わり何てことも有り得る。

「……そうね。あなたの……言う通りだと思うわ。……分かった。あなたの大切な幼馴染を巻き込まないと誓うわ」
「まあボスがこう言うておるからのう。ワシも認めるわい」

 どこまで本当か分からないが、一応言質は取った。

「というより……わたしは最初から……あなただけと手を組む予定だったし」
「……何だって?」
「む? それは初耳じゃぞ」

 どうやら千疋も聞かされていないことだったようだ。

「……千、少しだけこの人と……二人で話したいわ」
「! ……了解じゃ」

 言いたいことを飲み込んだ様子の千疋が、そのまま沖長の脇を通り過ぎて部屋から出て行った。

「……ずいぶんと素直に従ってるんだな。あの子は……」
「単にわたしのワガママを……聞いてくれているだけよ」
「そっか。それで? 何で二人きりに?」

 するとスッと丁寧に頭を下げてきた。思わずこちらはギョッとなるが……。

「本当は……もっと最初に謝っておかなければ……いけなかったわ」
「な、何のことだ?」
「かなり……強引な手で……あなたをここへ導いたからよ」
「……ああ、なるほどね。確かに強引だったな。脅されもしたし」
「安心して。どうしてもこの時期に……あなたと話したかっただけ。日ノ部ナクルには……手を出すつもりは……ないわ」

 顔を上げた彼女の表情を見るが、ここに来てからと同じで無感情のままだ。表情筋がまったく活躍していないように思える。

「分かった。一応信じる。……と、その前に確かめていいか?」
「わたしは転生者で……間違いないわよ」
「カミングアウトはやっ!?」

 思わずツッコんでしまった。もっともこちらが当然質問するだろうことは予想できていたのだろうが。

「……ふぅ。証拠とかはあるか?」

 まだほんの僅かだか、その言葉を裏にいる本物の転生者に言わせている可能性だってある。とはいってもこれは念には念を入れての問いかけにはなるが。

「証拠…………そう言われても思いつかないわ」

 確かに、ここで前世のことや神のことを言われても、それもまた事前に聞かされている可能性を考慮したら無意味だ。

「それもそっか……あ~じゃあ、とりあえず幾つか質問してもいいか?」

 そう言って沖長は、地球についての質問をいろいろ投げかけた。いわゆる地球人なら常識的に知っているであろうことばかりだ。
 そしてその質問に対し、このえは困るようなことはなく淡々と正解を口にしていた。

(さすがにこれだけ答えられるなら本物だろうな)

 もしこれでもまだ本当に黒幕がいて、このえが操り人形だとしたら、それはもうその時に対処を考える。

「そういえば、さっき言ってたことだけど、何で俺と手を組みたいって思ったんだ? しかも強引な手まで使って」
「……他の転生者では……役には立たないと……考えたからよ」
「それって、あの赤髪とか金剛寺……金髪頭の二人?」
「ええそう……ただもう一人いるはず……その人も頼れるほどではないと……判断したわ」

 もう一人……それは長門のことを言っているのか。

「転生者は俺以外の三人を把握してるのか?」
「転生者が……わたし含めて五人いるのは……分かっているわよ。ただ接触したのは……あなただけだし……他の三人はあまり……知らないわ」
「? ……つまり俺なら話を聞いてくれると? そんなこと話したことないのに普通分からないだろ?」
「あなたは……日ノ部ナクルの傍に……ずっといたもの。その人となりを……調べるのは……難しくはなかったわ」

 なるほど。どうやらこのえは、長門のように沖長の存在を認知した時点で調査していたらしい。けれどどうやって調べたのか、ストーカー行為をしていたとしたら長門が気づいていてもおかしくはないが。

 故にどうやって調査したのか聞いてみた。すると、このえはおもむろに右手を胸の前に上げる。何をしているのかと思ったら、彼女の指の先からキラキラと光る細長いものが確認できた。

「それは…………糸?」

 一見してそのように見えた。そしてこのえは「そう」と頷きさらに続ける。

「これが……わたしの能力。わたしは……自分の身体を糸状に変化させることが……できるのよ」



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