86 / 237
85
しおりを挟む
このえの言葉を受け、絶賛頭の中はプチパニック状態の沖長。それもそのはずだ。
千疋が呪いを受けたと聞いてから、少なくともそれは十三年以上前に彼女をその身に受けたことを示していたからだ。
加えて修一郎からも、十鞍千疋という存在が十三年前も勇者として活躍していたという話も聞いている。
しかし千疋の見た目は自分と変わらないような見た目をしていることもあり、年を取らないような何かしらの影響をその身に受けていると考えた。そして呪いを受けたのが千疋だと聞き、それが不老に関することではとも考察したのだ。
その喋り方もそうだが、纏う老獪な雰囲気などにも納得がいく。
だがこのえは、千疋は十五年しか生きられないと口にした。これは一体どういうことなのか。それが真実とすれば、いつ呪いを受けたというのか。いや、そもそもの話、このえは千疋のことを幼馴染とまで言っていたはず。
だからこそ様々な情報が矛盾を呼んで思考が纏まらない。そんなこちらの動揺を察してなのか、千疋自身が解明してくれることになる。
「そう難しく考えんでもええよ。ここにいるワシは間違いなく十鞍千疋じゃし、お主が聞いたであろう十三年に活躍した勇者である十鞍千疋とは別人のようなものじゃ」
「!? ……別人。ちょっと待ってくれ、なら呪いを受けたってのは? ダンジョンはつい最近……十三年ぶりに出現したって聞いた。俺たちが経験したあのダンジョンがそうなんじゃないのか?」
実はそれは違っており、以前にもダンジョンが出現し、それが〝カースダンジョン〟であり、その呪いをここにいる十鞍千疋が受けたというならまだ理解できた。
しかしそれを否定するかのように千疋は、沖長の言葉に同意する。
「その通り。お主が足を不意入れたダンジョン。恐らくあれが此度のダンジョンブレイクの始まりじゃのう」
それはつまり、彼女はそれ以前にはダンジョンに入っていないということだ。いや、その前にあることを確かめておこう。
「……十鞍千疋、君は一体今何歳なんだ?」
「おやおや、女性に年齢を聞くなどマナーがなってないのう」
「こちとらお茶目で聞いてるわけじゃない」
沖長の真剣な眼差しを見て、「そう怖い目をするでない、冗談じゃ」と軽口を叩くと、千疋が静かに唇を開く。
「十歳じゃよ。さっきもこやつが言うたであろう。ワシは幼い頃から、こやつとともに育ってきたと」
このえが口にしたことに偽りはないと言う。
「おっと、追加で言うとくが、ワシ自身もこの間のダンジョンが初めての経験じゃぞ。一応のう」
飄々とした佇まいではあるが、こちらを騙そうとしているようには見えない。このえも一切動揺していないし、それが真実なのかもしれない。
(十歳……つまり俺と同い年。そんでダンジョンに入ったのも先日が初めて? おいおい、訳が分からんぞ)
彼女たちが言うことが正しいなら、呪いというのは〝カースダンジョン〟にしか存在しない。そして沖長たちが経験したダンジョンは普通だったはず。そもそもコアを掌握したのはナクルであり、呪いを受けるのなら彼女になるのだ。
だからこそ矛盾が生じる。〝カースダンジョン〟に入ったことがない千疋が、何故呪いを受けることになったのか。
「……十鞍が受けた呪いってのは、間違いなく〝カースダンジョン〟で受けた呪いなのか?」
「うむ、間違いないのう」
「……それも十鞍自身が受けた?」
こちらの確認に対し、二人ともが同時に頷く。
「どういうことだ? 〝カースダンジョン〟の呪いは、ダンジョンに入らなくても受けてしまうものなのか?」
「いーや、ワシの呪いは、間違いなく〝カースダンジョン〟の主を討伐したことによって、そのコアの浸食で受けた呪いじゃよ」
益々分からない。難しく考えるなと千疋は言ったが、こんなもの困難過ぎて解明の糸口すら掴めないではないか。
するとこちらの困惑する様子が楽しいのか、千疋はクスクスと笑うので思わず睨みつけてしまう。
「……千、あまり人をからかうのは……どうかと思うわ。彼には……協力を頼みたいのだから」
「おっと、そうじゃったそうじゃった。沖長よ、すまんのう」
謝罪を受けて、沖長も怒気を少し収める。
「ちゃんと説明してくれ。協力するか否かはそれで決めたい」
直感でしかないが、彼女たちは悪い連中ではないように思える。だから困っているなら力になるのは吝かではないが、ただ一方的に利用されるのは嫌だし、何も知らずに手を貸すのも勘弁だ。
だからこそ彼女たちからできる限り情報を絞り出したい。それもきっと将来、ナクルのためになるだろうから。
仮にそれでこちらを騙そうとしているなら、あとで長門と情報をすり合わして確認すればいい。そしてそれ相応に対処するだけだ。
「お主の疑問を解決するには、たった一つに真実を説明すればいいだけなんじゃよ」
「たった一つの真実? それは?」
もったいぶったように間を取った千疋が、苦笑を浮かべつつその言葉を口にする。
「ワシには『継ぎ憶』という特別な力が備わっておる」
「つぎ……おく?」
「『継ぎ憶』……それは親の記憶を子に継がせる……力よ」
その説明をしたのは、このえだった。当然まだハッキリと理解できていない沖長の様子を察し、そのまま彼女は続ける。
「つまり……親が死ぬ時に、そのすべての記憶が子へと注がれる」
そこでハッとする。記憶とは経験とも言い換えられる。
親が人生で経験したものすべてが、知識として子へと受け継がれるということは、それはどこか転生者――自分にも似た作用に思えた。
沖長もまた、転生前の記憶を所持して生まれ変わったのである。
(なるほど。そう考えれば、十鞍千疋が醸し出す子供らしくない雰囲気やその喋り方は……)
その受け継がれた知識によって表面化したものなのだ。
「まず言っておくがのう、この十鞍千疋という名もワシの本名ではない。初代勇者として活躍した十鞍千疋の名を引き継いでいるに過ぎないのじゃよ」
「……! つまり十三年前にも活躍した勇者というのは……君の親で、その知識を受け継いで生まれたのが、今代の十鞍千疋である君ってことか?」
「うむ、物分かりが良くて助かるわい」
何ともまあ、想像以上の真実が飛び込んできたものだった。
千疋が呪いを受けたと聞いてから、少なくともそれは十三年以上前に彼女をその身に受けたことを示していたからだ。
加えて修一郎からも、十鞍千疋という存在が十三年前も勇者として活躍していたという話も聞いている。
しかし千疋の見た目は自分と変わらないような見た目をしていることもあり、年を取らないような何かしらの影響をその身に受けていると考えた。そして呪いを受けたのが千疋だと聞き、それが不老に関することではとも考察したのだ。
その喋り方もそうだが、纏う老獪な雰囲気などにも納得がいく。
だがこのえは、千疋は十五年しか生きられないと口にした。これは一体どういうことなのか。それが真実とすれば、いつ呪いを受けたというのか。いや、そもそもの話、このえは千疋のことを幼馴染とまで言っていたはず。
だからこそ様々な情報が矛盾を呼んで思考が纏まらない。そんなこちらの動揺を察してなのか、千疋自身が解明してくれることになる。
「そう難しく考えんでもええよ。ここにいるワシは間違いなく十鞍千疋じゃし、お主が聞いたであろう十三年に活躍した勇者である十鞍千疋とは別人のようなものじゃ」
「!? ……別人。ちょっと待ってくれ、なら呪いを受けたってのは? ダンジョンはつい最近……十三年ぶりに出現したって聞いた。俺たちが経験したあのダンジョンがそうなんじゃないのか?」
実はそれは違っており、以前にもダンジョンが出現し、それが〝カースダンジョン〟であり、その呪いをここにいる十鞍千疋が受けたというならまだ理解できた。
しかしそれを否定するかのように千疋は、沖長の言葉に同意する。
「その通り。お主が足を不意入れたダンジョン。恐らくあれが此度のダンジョンブレイクの始まりじゃのう」
それはつまり、彼女はそれ以前にはダンジョンに入っていないということだ。いや、その前にあることを確かめておこう。
「……十鞍千疋、君は一体今何歳なんだ?」
「おやおや、女性に年齢を聞くなどマナーがなってないのう」
「こちとらお茶目で聞いてるわけじゃない」
沖長の真剣な眼差しを見て、「そう怖い目をするでない、冗談じゃ」と軽口を叩くと、千疋が静かに唇を開く。
「十歳じゃよ。さっきもこやつが言うたであろう。ワシは幼い頃から、こやつとともに育ってきたと」
このえが口にしたことに偽りはないと言う。
「おっと、追加で言うとくが、ワシ自身もこの間のダンジョンが初めての経験じゃぞ。一応のう」
飄々とした佇まいではあるが、こちらを騙そうとしているようには見えない。このえも一切動揺していないし、それが真実なのかもしれない。
(十歳……つまり俺と同い年。そんでダンジョンに入ったのも先日が初めて? おいおい、訳が分からんぞ)
彼女たちが言うことが正しいなら、呪いというのは〝カースダンジョン〟にしか存在しない。そして沖長たちが経験したダンジョンは普通だったはず。そもそもコアを掌握したのはナクルであり、呪いを受けるのなら彼女になるのだ。
だからこそ矛盾が生じる。〝カースダンジョン〟に入ったことがない千疋が、何故呪いを受けることになったのか。
「……十鞍が受けた呪いってのは、間違いなく〝カースダンジョン〟で受けた呪いなのか?」
「うむ、間違いないのう」
「……それも十鞍自身が受けた?」
こちらの確認に対し、二人ともが同時に頷く。
「どういうことだ? 〝カースダンジョン〟の呪いは、ダンジョンに入らなくても受けてしまうものなのか?」
「いーや、ワシの呪いは、間違いなく〝カースダンジョン〟の主を討伐したことによって、そのコアの浸食で受けた呪いじゃよ」
益々分からない。難しく考えるなと千疋は言ったが、こんなもの困難過ぎて解明の糸口すら掴めないではないか。
するとこちらの困惑する様子が楽しいのか、千疋はクスクスと笑うので思わず睨みつけてしまう。
「……千、あまり人をからかうのは……どうかと思うわ。彼には……協力を頼みたいのだから」
「おっと、そうじゃったそうじゃった。沖長よ、すまんのう」
謝罪を受けて、沖長も怒気を少し収める。
「ちゃんと説明してくれ。協力するか否かはそれで決めたい」
直感でしかないが、彼女たちは悪い連中ではないように思える。だから困っているなら力になるのは吝かではないが、ただ一方的に利用されるのは嫌だし、何も知らずに手を貸すのも勘弁だ。
だからこそ彼女たちからできる限り情報を絞り出したい。それもきっと将来、ナクルのためになるだろうから。
仮にそれでこちらを騙そうとしているなら、あとで長門と情報をすり合わして確認すればいい。そしてそれ相応に対処するだけだ。
「お主の疑問を解決するには、たった一つに真実を説明すればいいだけなんじゃよ」
「たった一つの真実? それは?」
もったいぶったように間を取った千疋が、苦笑を浮かべつつその言葉を口にする。
「ワシには『継ぎ憶』という特別な力が備わっておる」
「つぎ……おく?」
「『継ぎ憶』……それは親の記憶を子に継がせる……力よ」
その説明をしたのは、このえだった。当然まだハッキリと理解できていない沖長の様子を察し、そのまま彼女は続ける。
「つまり……親が死ぬ時に、そのすべての記憶が子へと注がれる」
そこでハッとする。記憶とは経験とも言い換えられる。
親が人生で経験したものすべてが、知識として子へと受け継がれるということは、それはどこか転生者――自分にも似た作用に思えた。
沖長もまた、転生前の記憶を所持して生まれ変わったのである。
(なるほど。そう考えれば、十鞍千疋が醸し出す子供らしくない雰囲気やその喋り方は……)
その受け継がれた知識によって表面化したものなのだ。
「まず言っておくがのう、この十鞍千疋という名もワシの本名ではない。初代勇者として活躍した十鞍千疋の名を引き継いでいるに過ぎないのじゃよ」
「……! つまり十三年前にも活躍した勇者というのは……君の親で、その知識を受け継いで生まれたのが、今代の十鞍千疋である君ってことか?」
「うむ、物分かりが良くて助かるわい」
何ともまあ、想像以上の真実が飛び込んできたものだった。
248
お気に入りに追加
1,460
あなたにおすすめの小説

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~
十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~
芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。
駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。
だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。
彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。
経験値も金にもならないこのダンジョン。
しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。
――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる