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「…………うわぁ」
視界に飛び込んできた光景に、沖長は思わず感嘆の声を上げた。
端から端まで百メートル以上はあろうかと思われる外壁に囲われた敷地の中に佇む建物は、和を凝縮させたような古風な造りをしている。
さらに玄関を守っている扉もまた重厚な木造であり、まるで時代劇に出てくるような奉行所のような感じで圧倒されてしまう。
チラリと表札に視線を向ける。
――壬生島――
(みぶ……しま、かな?)
変わった苗字だと思ったが、それは札月である自分もそうなので不思議ではない。というよりこの世界の登場キャラクターのほとんどは、変わった名前が多いから、作者の好みが色濃く反映されているのだと知る。
(それよりもまさか十鞍の雇い主がこんな金持ちだったとはなぁ)
ここは高級住宅街でもあり、その中でのこの敷地。もしかしたら年末の宝くじで一等を当てたところで背中すら見えないほどのセレブなのかもしれない。
想像していなかった人物像に唖然としていると、千疋がインターホンを慣らし、頭上に設置されているカメラらしきものに顔を向けた。
すると扉がゆっくりと開き始め、まさか自動ドアだったのかと思っていると、その奥から黒スーツを着用した強面の男性が二人で、扉を中から押して開いていたのだ。
それだけでも驚いたが、さらに絶句してしまう。
何故なら――。
「「「「お疲れ様です!」」」」
玄関口へと通じる道の両脇にずらりと顔を並べているのは、幾人ものスーツ姿の男たち。比較的若い連中が多いが、どいつもこいつも剣呑な表情で、一言でいえば怖い。
「ほれ、行くぞ」
「え? マジで?」
「何じゃ、今更怖気づいたのかえ?」
確かに覚悟を決めてここへ来たつもりだが、まさか目的地が……。
(ヤクザだって思わねえじゃんか……)
いや、ヤクザかどうかはまだ分からないが、明らかに堅気ではなさそうな雰囲気なのは確かだ。これで一般庶民ですとか言われたら即座にツッコム自信すらある。
千疋はこちらの様子を見ながらクスクスと笑っているところを見るに、今の沖長の反応を楽しんでいることは間違いない。
緊張と恐怖で胃が痛み始めたが、ここで引き返すわけにはいかないと思い、意を決して足を踏み入れていく。
堂々と歩く千疋の後ろで、両脇から凄まじいまでの威圧感を浴びながら歩く。正直に言うと今すぐ帰りたい。
「これ、お嬢は?」
「うす、いつものところにおられます」
「うむ、感謝する」
千疋が、一人の男性に話を聞くと、玄関の扉ではなく左に曲がって歩き始める。
その先にはこれまた荘厳ともいえる庭園が広がっていた。
これと似たような光景を最近も見た。そうだ、【温泉旅館・かごや亭】だ。
あそこの庭園も素晴らしい造りだったが、ここも決して負けてはいない。いや、規模で言うならあそこ以上だ。きっと優秀な庭師を何人も雇って世話をさせているのだろう。
ここから見える縁側には誰もおらず、そこを素通りしていくと、その先には離れとして使用しているような建物があった。どうやら目的地はそこらしい。
離れの入口に辿り着くと、さらに緊張感が増しじんわりと汗が滲む。この家が元々纏うただならぬ空気もそうだが、やはりこれから自分と同じ転生者と会うという不安と期待が入り混じったような複雑な心の動きがそうさせているのだろう。
千疋の後に続いて離れの中に入っていくと、その先で閉じられた襖の前で千疋が立ち止まる。
「お嬢、連れてきたぞー」
軽い口調で千疋がそう言うと、向こうからの返事も待たずに襖を開けた。
その奥に広がる光景に、何度目かと思うほどの驚きを得る。
広さは十畳ほど、だろうか。この家の敷地面積から考えて決して広いとは言えない規模ではあるものの、それでも言葉を失った理由は、夥しいほどの数の書籍が周囲を埋め尽くしていたからだ。
本棚ではなく、ただ本が天井に届きそうなほどの積まれており、まるで本の山そのもの。一体全体どうしたらこんな環境ができあがるのかと呆れてしまう。
「おーい、お嬢―。どこにおるんじゃー?」
目の前には本しか入らないので、こんなところに人がいるとは到底思えない……が。
部屋の中央付近でごそごそと本が動いたと思ったら、そこからニョキッと黒い塊が出てきた。それがグルンッと回転し、黒い隙間から覗く肌色を見て、
「おぅっ!?」
思わず生首を連想させて情けない声が出てしまった。
しかしその首は、こちらの驚きなど無視してさらに動き、そこから身体を出したと思ったら、体勢を崩しこちらへと転がってきたのだ。千疋は止めることもなくヒョイッと回避すると、その勢いのままに入口付近の壁に激突して止まった。
「お、おい……大丈夫なのか? 動かないけど?」
「いつものことじゃ、気にせんでええわい」
しかし結構な音がしたし、頭を打ったような気もする。本当に無事なのか……。
心配していると、停止していた人物がむくりと上半身を起こし、
「…………痛いわ」
と、痛そうな顔をせず無感情のままに声音を発した。
「そりゃそうじゃろ」
「物凄く頭が痛いのだけれど……?」
「額が赤く腫れておるからのう。自業自得じゃて」
「……どうして止めてくれなかったの?」
「逆に聞くが、何で止めんといかんのじゃ。めんどくさい」
「…………それもそうね」
それで納得するのか……。
しかしその短いやり取りを見て沖長は察した。
(なるほど。変人の雇い主もまた変人みたいだな)
だからか、さらに帰宅したい意識が強まった沖長であった。
視界に飛び込んできた光景に、沖長は思わず感嘆の声を上げた。
端から端まで百メートル以上はあろうかと思われる外壁に囲われた敷地の中に佇む建物は、和を凝縮させたような古風な造りをしている。
さらに玄関を守っている扉もまた重厚な木造であり、まるで時代劇に出てくるような奉行所のような感じで圧倒されてしまう。
チラリと表札に視線を向ける。
――壬生島――
(みぶ……しま、かな?)
変わった苗字だと思ったが、それは札月である自分もそうなので不思議ではない。というよりこの世界の登場キャラクターのほとんどは、変わった名前が多いから、作者の好みが色濃く反映されているのだと知る。
(それよりもまさか十鞍の雇い主がこんな金持ちだったとはなぁ)
ここは高級住宅街でもあり、その中でのこの敷地。もしかしたら年末の宝くじで一等を当てたところで背中すら見えないほどのセレブなのかもしれない。
想像していなかった人物像に唖然としていると、千疋がインターホンを慣らし、頭上に設置されているカメラらしきものに顔を向けた。
すると扉がゆっくりと開き始め、まさか自動ドアだったのかと思っていると、その奥から黒スーツを着用した強面の男性が二人で、扉を中から押して開いていたのだ。
それだけでも驚いたが、さらに絶句してしまう。
何故なら――。
「「「「お疲れ様です!」」」」
玄関口へと通じる道の両脇にずらりと顔を並べているのは、幾人ものスーツ姿の男たち。比較的若い連中が多いが、どいつもこいつも剣呑な表情で、一言でいえば怖い。
「ほれ、行くぞ」
「え? マジで?」
「何じゃ、今更怖気づいたのかえ?」
確かに覚悟を決めてここへ来たつもりだが、まさか目的地が……。
(ヤクザだって思わねえじゃんか……)
いや、ヤクザかどうかはまだ分からないが、明らかに堅気ではなさそうな雰囲気なのは確かだ。これで一般庶民ですとか言われたら即座にツッコム自信すらある。
千疋はこちらの様子を見ながらクスクスと笑っているところを見るに、今の沖長の反応を楽しんでいることは間違いない。
緊張と恐怖で胃が痛み始めたが、ここで引き返すわけにはいかないと思い、意を決して足を踏み入れていく。
堂々と歩く千疋の後ろで、両脇から凄まじいまでの威圧感を浴びながら歩く。正直に言うと今すぐ帰りたい。
「これ、お嬢は?」
「うす、いつものところにおられます」
「うむ、感謝する」
千疋が、一人の男性に話を聞くと、玄関の扉ではなく左に曲がって歩き始める。
その先にはこれまた荘厳ともいえる庭園が広がっていた。
これと似たような光景を最近も見た。そうだ、【温泉旅館・かごや亭】だ。
あそこの庭園も素晴らしい造りだったが、ここも決して負けてはいない。いや、規模で言うならあそこ以上だ。きっと優秀な庭師を何人も雇って世話をさせているのだろう。
ここから見える縁側には誰もおらず、そこを素通りしていくと、その先には離れとして使用しているような建物があった。どうやら目的地はそこらしい。
離れの入口に辿り着くと、さらに緊張感が増しじんわりと汗が滲む。この家が元々纏うただならぬ空気もそうだが、やはりこれから自分と同じ転生者と会うという不安と期待が入り混じったような複雑な心の動きがそうさせているのだろう。
千疋の後に続いて離れの中に入っていくと、その先で閉じられた襖の前で千疋が立ち止まる。
「お嬢、連れてきたぞー」
軽い口調で千疋がそう言うと、向こうからの返事も待たずに襖を開けた。
その奥に広がる光景に、何度目かと思うほどの驚きを得る。
広さは十畳ほど、だろうか。この家の敷地面積から考えて決して広いとは言えない規模ではあるものの、それでも言葉を失った理由は、夥しいほどの数の書籍が周囲を埋め尽くしていたからだ。
本棚ではなく、ただ本が天井に届きそうなほどの積まれており、まるで本の山そのもの。一体全体どうしたらこんな環境ができあがるのかと呆れてしまう。
「おーい、お嬢―。どこにおるんじゃー?」
目の前には本しか入らないので、こんなところに人がいるとは到底思えない……が。
部屋の中央付近でごそごそと本が動いたと思ったら、そこからニョキッと黒い塊が出てきた。それがグルンッと回転し、黒い隙間から覗く肌色を見て、
「おぅっ!?」
思わず生首を連想させて情けない声が出てしまった。
しかしその首は、こちらの驚きなど無視してさらに動き、そこから身体を出したと思ったら、体勢を崩しこちらへと転がってきたのだ。千疋は止めることもなくヒョイッと回避すると、その勢いのままに入口付近の壁に激突して止まった。
「お、おい……大丈夫なのか? 動かないけど?」
「いつものことじゃ、気にせんでええわい」
しかし結構な音がしたし、頭を打ったような気もする。本当に無事なのか……。
心配していると、停止していた人物がむくりと上半身を起こし、
「…………痛いわ」
と、痛そうな顔をせず無感情のままに声音を発した。
「そりゃそうじゃろ」
「物凄く頭が痛いのだけれど……?」
「額が赤く腫れておるからのう。自業自得じゃて」
「……どうして止めてくれなかったの?」
「逆に聞くが、何で止めんといかんのじゃ。めんどくさい」
「…………それもそうね」
それで納得するのか……。
しかしその短いやり取りを見て沖長は察した。
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だからか、さらに帰宅したい意識が強まった沖長であった。
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