65 / 238
64
しおりを挟む
「……あぁ……二人……とも…………無事……だったの……ね」
「蔦絵さんのお蔭です! あなたが守ってくれたから!」
あの時、誰よりも早くミミックの攻撃に気づいてくれたからこそ、自分やナクルは無事だったのである。
しかし今は一刻を争う。とにかくここから出て病院へ行かないと。
(けどおかしいぞ! ボスを倒せばダンジョンは崩壊して元の世界に戻れるって羽竹は言ってたのに!)
しかしいつまで経っても景色は変わらない。このままではこの空間から出られない。当然蔦絵も治療することができないのだ。
またも蔦絵が血を吐いたことで、ナクルは彼女に縋りつくようにしてその名を叫ぶ。
するとナクルの頬にそっと手を当てる蔦絵。
「そんな……顔……しない……の……ナクル」
「で、でもっ……でもぉ……!」
「あなたが……無事……なら……私は……それでいい……のだか……ら」
想像を絶するほどの痛みを感じているはずなのに、それでもナクルを想い笑顔を浮かべている。蔦絵にとって、どれだけナクルが大事なのかがよく分かる。
「ごめん……ね……」
「!? 蔦絵ちゃん?」
「もっと……あなた……たちに……いろいろ…………教えてあげ……たかったん……だけど…………もうダメ……みたい」
「そんな! そんなこと言わないでほしいッス!」
「……逃げてばかり……だったけど……最後に…………あなたたちを……守……れて……よか……った……」
必死で開き続けていた瞼が、その重さのままに静かに閉じていく。
「嫌! 嫌ッス! 蔦絵ちゃん、ダメッスよ! 死なないでぇぇぇっ!」
ナクルの心からの懇願。だが無常にも蔦絵の命の灯が消えていく。何度彼女の名を呼んでも、叫んでも、彼女が再び目を開くことはない。
(そんな…………くそぉっ)
せっかく原作の流れを変えることができたと思ったのに。ナクルの最初の悲劇である蔦絵の死。そんな残酷なことが本当に起きるなら、それを覆す予定だった。何よりもナクルを悲しませたくなかったからだ。
いや、それももちろんあるが、世話になった蔦絵に生きていてほしいと願っていたから。
(結局、俺がどうやったって結果は変わらねえってことかよ!)
確かに原作の流れに変化は生じた。自分というイレギュラーがいたから、それも可能だということを知り、ならば悲劇もどうにか回避できるだろうと信じていたのだ。
しかし結果はこの通り。まるで歴史を修正する〝ナニカ〟が作用しているかのように、ナクルは勇者として覚醒し、蔦絵はその命を奪われた。結果だけを見れば原作と同じ。
二人して、無力感に打ちひしがれていたその時――。
「――――どうやら間に合わなかったようじゃのう」
突然聞こえてきた声に、思わずハッとして声がした方角へ顔を向けた。
大岩の上。そこからこちらを見下ろす人影がある。
「だ、誰っスか?」
ナクルも声の主を視界に捉え、どこか怯えたような声音を出す。また新たな敵が登場したとでも思ったのかもしれない。
実際沖長もすぐに警戒した。何せ原作の流れには、ここで誰かが登場するというシーンはなかったからだ。
思わず赤髪と同じような転生者がやってきたのかと思って勘ぐってしまう。
しかしその人物の姿を見てさらに驚きが増す。
何故ならその人物はナクルとそう変わらない少女であり、かつ先ほどナクルが纏っていたライトアーマーをその身に装着していたからだ。
造形がナクルとは違う。こちらは少し分厚そうな装甲で、エメラルドグリーン色を基調としており、臀部当たりから長い尻尾のようなものが生えている。それがウネウネと動いていることから、自分の意思で動かせるのかもしれない。
(ナクルと似た鎧? まさかこの子も……勇者?)
そう判断できるだけの状況証拠があった。
長門からは勇者の特徴を聞いていた。そして共通して言えるのは、その身に纏うライトアーマーとのこと。もしここに長門がいれば、彼女の正体を看破してくれたのだろうが、登場キャラクターのすべてを知らない沖長には、彼女を見てもピンとこない。
そんな思考を巡らせていると、件の少女がこちらを観察するように見てくる。その瞳に睨まれた瞬間にゾクッとするものを感じた。まだ幼気な少女にもかかわらず凄まじい眼力である。
とても深い瞳をしていると、沖長は何となく感じた。それと同時に、何もかも見通すような練達さも伝わってくるようだ。だからこそ沖長は、この少女が原作キャラではなく転生者である可能性が高いと踏む。
まだ十歳程度の子供にできる眼差しではないと思ったからだ。
「……ふむ。ここの主をやったのは……小娘の方じゃな? 小娘、名は何という?」
「こ、小娘? ボ、ボクはナクルっていうッスけど……! そんなことより蔦絵ちゃんが!」
「蔦絵? ……ああ、七宮の小娘のことか。そうか、残念な結果となったのう」
軽く左右に頭を振りながらそう言う少女。
「この人を助けて欲しいんス! 誰か大人の人を呼んで――」
「無理じゃ」
「!? ……む、無理?」
「お主に分かっておろう。そやつは――――もう死んでおる」
「!?」
「認めぃ。そやつはすでに骸じゃ。いつまでも死んだ者のことを引きずる出ないわ。そんなこと、これから苦労するだけじゃぞ?」
ゾッとするほどの冷たい物言い。その瞳も氷のようだ。
認めたくない現実を再度突きつけられ、ナクルが言葉を失い固まる。
「っ……言葉を選んでくれないかな?」
少し大人げないと思いつつも、我慢できずに沖長が言い放った。
「一体君はどこの誰なんだ?」
「……先ほどから気にはなっておったが、お主……何故ココにいる? 見たところ何のオーラも感じぬが……不可思議なことじゃのう」
どうやら自分の思考や気持ちを優先するタイプのようだ。こちらの質問を完全に無視だ。
するとその時、突然蔦絵の身体から淡い光が発せられた。
「蔦絵さんのお蔭です! あなたが守ってくれたから!」
あの時、誰よりも早くミミックの攻撃に気づいてくれたからこそ、自分やナクルは無事だったのである。
しかし今は一刻を争う。とにかくここから出て病院へ行かないと。
(けどおかしいぞ! ボスを倒せばダンジョンは崩壊して元の世界に戻れるって羽竹は言ってたのに!)
しかしいつまで経っても景色は変わらない。このままではこの空間から出られない。当然蔦絵も治療することができないのだ。
またも蔦絵が血を吐いたことで、ナクルは彼女に縋りつくようにしてその名を叫ぶ。
するとナクルの頬にそっと手を当てる蔦絵。
「そんな……顔……しない……の……ナクル」
「で、でもっ……でもぉ……!」
「あなたが……無事……なら……私は……それでいい……のだか……ら」
想像を絶するほどの痛みを感じているはずなのに、それでもナクルを想い笑顔を浮かべている。蔦絵にとって、どれだけナクルが大事なのかがよく分かる。
「ごめん……ね……」
「!? 蔦絵ちゃん?」
「もっと……あなた……たちに……いろいろ…………教えてあげ……たかったん……だけど…………もうダメ……みたい」
「そんな! そんなこと言わないでほしいッス!」
「……逃げてばかり……だったけど……最後に…………あなたたちを……守……れて……よか……った……」
必死で開き続けていた瞼が、その重さのままに静かに閉じていく。
「嫌! 嫌ッス! 蔦絵ちゃん、ダメッスよ! 死なないでぇぇぇっ!」
ナクルの心からの懇願。だが無常にも蔦絵の命の灯が消えていく。何度彼女の名を呼んでも、叫んでも、彼女が再び目を開くことはない。
(そんな…………くそぉっ)
せっかく原作の流れを変えることができたと思ったのに。ナクルの最初の悲劇である蔦絵の死。そんな残酷なことが本当に起きるなら、それを覆す予定だった。何よりもナクルを悲しませたくなかったからだ。
いや、それももちろんあるが、世話になった蔦絵に生きていてほしいと願っていたから。
(結局、俺がどうやったって結果は変わらねえってことかよ!)
確かに原作の流れに変化は生じた。自分というイレギュラーがいたから、それも可能だということを知り、ならば悲劇もどうにか回避できるだろうと信じていたのだ。
しかし結果はこの通り。まるで歴史を修正する〝ナニカ〟が作用しているかのように、ナクルは勇者として覚醒し、蔦絵はその命を奪われた。結果だけを見れば原作と同じ。
二人して、無力感に打ちひしがれていたその時――。
「――――どうやら間に合わなかったようじゃのう」
突然聞こえてきた声に、思わずハッとして声がした方角へ顔を向けた。
大岩の上。そこからこちらを見下ろす人影がある。
「だ、誰っスか?」
ナクルも声の主を視界に捉え、どこか怯えたような声音を出す。また新たな敵が登場したとでも思ったのかもしれない。
実際沖長もすぐに警戒した。何せ原作の流れには、ここで誰かが登場するというシーンはなかったからだ。
思わず赤髪と同じような転生者がやってきたのかと思って勘ぐってしまう。
しかしその人物の姿を見てさらに驚きが増す。
何故ならその人物はナクルとそう変わらない少女であり、かつ先ほどナクルが纏っていたライトアーマーをその身に装着していたからだ。
造形がナクルとは違う。こちらは少し分厚そうな装甲で、エメラルドグリーン色を基調としており、臀部当たりから長い尻尾のようなものが生えている。それがウネウネと動いていることから、自分の意思で動かせるのかもしれない。
(ナクルと似た鎧? まさかこの子も……勇者?)
そう判断できるだけの状況証拠があった。
長門からは勇者の特徴を聞いていた。そして共通して言えるのは、その身に纏うライトアーマーとのこと。もしここに長門がいれば、彼女の正体を看破してくれたのだろうが、登場キャラクターのすべてを知らない沖長には、彼女を見てもピンとこない。
そんな思考を巡らせていると、件の少女がこちらを観察するように見てくる。その瞳に睨まれた瞬間にゾクッとするものを感じた。まだ幼気な少女にもかかわらず凄まじい眼力である。
とても深い瞳をしていると、沖長は何となく感じた。それと同時に、何もかも見通すような練達さも伝わってくるようだ。だからこそ沖長は、この少女が原作キャラではなく転生者である可能性が高いと踏む。
まだ十歳程度の子供にできる眼差しではないと思ったからだ。
「……ふむ。ここの主をやったのは……小娘の方じゃな? 小娘、名は何という?」
「こ、小娘? ボ、ボクはナクルっていうッスけど……! そんなことより蔦絵ちゃんが!」
「蔦絵? ……ああ、七宮の小娘のことか。そうか、残念な結果となったのう」
軽く左右に頭を振りながらそう言う少女。
「この人を助けて欲しいんス! 誰か大人の人を呼んで――」
「無理じゃ」
「!? ……む、無理?」
「お主に分かっておろう。そやつは――――もう死んでおる」
「!?」
「認めぃ。そやつはすでに骸じゃ。いつまでも死んだ者のことを引きずる出ないわ。そんなこと、これから苦労するだけじゃぞ?」
ゾッとするほどの冷たい物言い。その瞳も氷のようだ。
認めたくない現実を再度突きつけられ、ナクルが言葉を失い固まる。
「っ……言葉を選んでくれないかな?」
少し大人げないと思いつつも、我慢できずに沖長が言い放った。
「一体君はどこの誰なんだ?」
「……先ほどから気にはなっておったが、お主……何故ココにいる? 見たところ何のオーラも感じぬが……不可思議なことじゃのう」
どうやら自分の思考や気持ちを優先するタイプのようだ。こちらの質問を完全に無視だ。
するとその時、突然蔦絵の身体から淡い光が発せられた。
273
お気に入りに追加
1,477
あなたにおすすめの小説

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~
十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

前代未聞のダンジョンメーカー
黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。
けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。
というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない?
そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。
小説家になろうでも掲載しております。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
モブ高校生、ダンジョンでは話題の冒険者【ブラック】として活動中。~転校生美少女がいきなり直属の部下とか言われても困るんだが~
エース皇命
ファンタジー
学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は【ブラック】という活動名でダンジョンに潜っているAランク冒険者だった。
ダンジョンが世界に出現して30年後の東京。
モンスターを倒し、ダンジョンの攻略を目指す冒険者は、新しい職業として脚光を浴びるようになった。
黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。果たして、白桃の正体は!?
「才斗先輩、これからよろしくお願いしますねっ」
これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。
※序盤は結構ラブコメ感がありますが、ちゃんとファンタジーします。モンスターとも戦いますし、冒険者同士でも戦ったりします。ガチです。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
※お気に入り登録者2600人超えの人気作、『実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する』も大好評連載中です!

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)
ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。
流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定!
剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。
せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!?
オマケに最後の最後にまたもや神様がミス!
世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に
なっちゃって!?
規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。
……路上生活、そろそろやめたいと思います。
異世界転生わくわくしてたけど
ちょっとだけ神様恨みそう。
脱路上生活!がしたかっただけなのに
なんで無双してるんだ私???

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる