64 / 237
63
しおりを挟む
「ええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
悲鳴にも近い叫び声を上げたのは沖長ではなくナクルだった。最初はどこか心ここにあらずな感じだったが、正気を取り戻したかのように自分の姿を見た彼女は驚愕している。
どうやらナクル自身、このような現象は初体験のようだ。
しかし現状を見た沖長は、心の中で得心していた。
(なるほどな。コレがナクルの勇者としての覚醒した姿ってわけか)
確かに見た感じ、ライトアーマーに身を包むその凛々しい姿はまさに勇者のような風格を漂わせている。ちょっとカッコ良いと感じたのは特撮などに惹かれる男心所以だろう。
「ナクル、落ち着け」
「で、でもでもでも! これ何なんスか!? いつ着たのかも分かんないッスよ!」
パニックになるのも分かるが、それを黙って見ていてくれる敵ではない。案の用、ミミックの身体から伸び出た妖魔が、再び槍のような造形になってナクルに襲い掛かる。
即座に回収してやろうとか思ったが、ミミックと槍が繋がっているからか、生物の一部と認識してしまっている現状では回収できなかった……が、問題はなかった。
攻撃にナクルも気づいたようで、真っ直ぐ向かってきていた槍に対し、拳を放って迎え撃つと、あっさりと槍の方が弾かれたのである。
しかもその威力は凄まじく、そのままミミックまで勢いで引っ張られて、その先にあった岩に激突した。
(うわぁ、すげえ威力……)
見た感じ、今の一撃はナクルにとって全力ではなかった。にもかかわらずこの威力だ。恐らく覚醒したことにより基礎的な能力が跳ね上がっているのだろう。
ナクルも自分の力に「え? え?」と困惑中だ。
ただこれだけでミミックは倒れるわけではなく、またもおもむろに宙に浮かびながらこちらに向かってくる。
「……カガヤキ…………オワレ……オワレ…………イマワシキ……モノ……」
何やら気になることを言っているが、どうせ問い質したところでまともに答えてくれるとは思えない。
するとミミックがさらに上空へと上がっていき、五メートル、十メートル、十五メートルと、こちらの手が届かない場所まで行く。
(くっ、遠いな。これじゃ階段を作るのも時間かかるかも)
どれだけ浮上しようと、こちらの物資は無限大だ。幾らでも到達できる階段は作れるものの、さすがにこれだけの距離を詰めるには相応の時間を要してしまう。
ナクルも相手に攻撃が届かないから、てっきり悔しいだろうと思っていると、何故かその表情は確信に満ちた色をしていた。
「オキくん……何だか、今なら何でもできそうッス」
「ナクル?」
「よく分かんないっスけど、今のボクだったら何とかなるような気がするんスよ」
まさかここからでも攻撃を届かせる手段があるというのだろうか。もしかしてナクルもまた赤髪のようなオーラを放つ技を使えるのかと思わせた。
ナクルが血塗れで今にも死にそうになっている蔦絵に視線を落とし悲痛な表情を見せる。だがすぐに覚悟を決めたように、再度ミミックの方へ顔を上げた。
「オキくん、蔦絵ちゃんのこと任せてもいいッスか?」
「え? ああ、もちろんだ! できることがあるなら、全力でやってこい!」
「はいッス!」
沖長の後押しに一切の迷いを振り切った様子のナクル。するとまた彼女の身体から蛍火のような光の粒が溢れてくる。とても暖かな輝きでホッとする。そして素直に美しいとさえ思った。
そんな光の粒が、今度はナクルの両足へと集束していく。
「っ……絶対に許さないッスよ! 蔦絵ちゃんが受けた痛み、全部お返しするッス!」
さらに両足が輝いたと同時、ナクルが全力で跳躍した。
沖長は目を疑った。何せ、二十メートルほどはあろうかというミミックとの絶望的な距離を、ナクルがたった一度の跳躍でゼロにしたのだから。
「……ナニ……!?」
ミミックも想定していなかったナクルの凄まじいジャンプ力にギョッとしていた。それでも反射的だろうか、目前に即座に到達してきたナクルに対し、すぐさま妖魔力を針状にして攻撃する。
だが伸びてきた針を勢いのまま蹴り上げ、半ばから簡単に砕いてしまった。そして空中で体勢を立て直したナクルが、右拳に力を込め始める。同時に拳が眩いまでの光で輝く。
「――――《ブレイヴナックル》ッ!」
発言とともに突き出された右拳は、ミミックの巨大な眼球へとめり込む。いや、明らかに体内まで拳が貫いている。
そしてその威力からか、ミミックの身体がドンドンと膨れ上がっていき、ところどころひび割れて光が漏れてくる。
ナクルは拳を引き抜くと、そのままミミックを土台にして跳び距離を取った。
「……コレ……ガ…………ユウシャ…………オノレェ……ッ」
それがミミックの最期の言葉となり、ヤツは急激に膨れ上がって、そのまま爆発し消失したのであった。
(す、すげえ……コレがナクルの力……)
長門から聞いてはいたが、こうして実際に目にするのとではやはり違う。ナクルの勇者としての力は、まさに絶大ともいえるエネルギーを有していた。
あの蔦絵ですら、その支配力を完全に抵抗できなかったほどの妖魔という存在。それに対してナクルは圧倒的なまでの勝利を手にしたのだ。それにあの跳躍力は、どう頑張ったところで人間が出せるものではない。
まさに主人公たる力を見せつけられたと実感させられた。
「……あ! ナクル! ナクルは!?」
あの高さから落ちたらと思って彼女を探すが、彼女はすでに一つの大岩の天辺に降り立っていた。どうやら着地も問題なかったようだ。
そんな彼女の姿を見て安堵の溜息を吐く。ナクルもこちらに向かって屈託のない笑顔で手を振っている。
だが蔦絵がその時、強く咳き込みと同時に吐血した。それを見た二人は、急いで彼女の傍に駆け寄る。
ナクルもすぐに駆けつけたが、いつの間にかライトアーマーは消えていて普段着になっていた。
二人して蔦絵の名を叫ぶと、そこでようやく彼女の瞼が震えながら開く。
悲鳴にも近い叫び声を上げたのは沖長ではなくナクルだった。最初はどこか心ここにあらずな感じだったが、正気を取り戻したかのように自分の姿を見た彼女は驚愕している。
どうやらナクル自身、このような現象は初体験のようだ。
しかし現状を見た沖長は、心の中で得心していた。
(なるほどな。コレがナクルの勇者としての覚醒した姿ってわけか)
確かに見た感じ、ライトアーマーに身を包むその凛々しい姿はまさに勇者のような風格を漂わせている。ちょっとカッコ良いと感じたのは特撮などに惹かれる男心所以だろう。
「ナクル、落ち着け」
「で、でもでもでも! これ何なんスか!? いつ着たのかも分かんないッスよ!」
パニックになるのも分かるが、それを黙って見ていてくれる敵ではない。案の用、ミミックの身体から伸び出た妖魔が、再び槍のような造形になってナクルに襲い掛かる。
即座に回収してやろうとか思ったが、ミミックと槍が繋がっているからか、生物の一部と認識してしまっている現状では回収できなかった……が、問題はなかった。
攻撃にナクルも気づいたようで、真っ直ぐ向かってきていた槍に対し、拳を放って迎え撃つと、あっさりと槍の方が弾かれたのである。
しかもその威力は凄まじく、そのままミミックまで勢いで引っ張られて、その先にあった岩に激突した。
(うわぁ、すげえ威力……)
見た感じ、今の一撃はナクルにとって全力ではなかった。にもかかわらずこの威力だ。恐らく覚醒したことにより基礎的な能力が跳ね上がっているのだろう。
ナクルも自分の力に「え? え?」と困惑中だ。
ただこれだけでミミックは倒れるわけではなく、またもおもむろに宙に浮かびながらこちらに向かってくる。
「……カガヤキ…………オワレ……オワレ…………イマワシキ……モノ……」
何やら気になることを言っているが、どうせ問い質したところでまともに答えてくれるとは思えない。
するとミミックがさらに上空へと上がっていき、五メートル、十メートル、十五メートルと、こちらの手が届かない場所まで行く。
(くっ、遠いな。これじゃ階段を作るのも時間かかるかも)
どれだけ浮上しようと、こちらの物資は無限大だ。幾らでも到達できる階段は作れるものの、さすがにこれだけの距離を詰めるには相応の時間を要してしまう。
ナクルも相手に攻撃が届かないから、てっきり悔しいだろうと思っていると、何故かその表情は確信に満ちた色をしていた。
「オキくん……何だか、今なら何でもできそうッス」
「ナクル?」
「よく分かんないっスけど、今のボクだったら何とかなるような気がするんスよ」
まさかここからでも攻撃を届かせる手段があるというのだろうか。もしかしてナクルもまた赤髪のようなオーラを放つ技を使えるのかと思わせた。
ナクルが血塗れで今にも死にそうになっている蔦絵に視線を落とし悲痛な表情を見せる。だがすぐに覚悟を決めたように、再度ミミックの方へ顔を上げた。
「オキくん、蔦絵ちゃんのこと任せてもいいッスか?」
「え? ああ、もちろんだ! できることがあるなら、全力でやってこい!」
「はいッス!」
沖長の後押しに一切の迷いを振り切った様子のナクル。するとまた彼女の身体から蛍火のような光の粒が溢れてくる。とても暖かな輝きでホッとする。そして素直に美しいとさえ思った。
そんな光の粒が、今度はナクルの両足へと集束していく。
「っ……絶対に許さないッスよ! 蔦絵ちゃんが受けた痛み、全部お返しするッス!」
さらに両足が輝いたと同時、ナクルが全力で跳躍した。
沖長は目を疑った。何せ、二十メートルほどはあろうかというミミックとの絶望的な距離を、ナクルがたった一度の跳躍でゼロにしたのだから。
「……ナニ……!?」
ミミックも想定していなかったナクルの凄まじいジャンプ力にギョッとしていた。それでも反射的だろうか、目前に即座に到達してきたナクルに対し、すぐさま妖魔力を針状にして攻撃する。
だが伸びてきた針を勢いのまま蹴り上げ、半ばから簡単に砕いてしまった。そして空中で体勢を立て直したナクルが、右拳に力を込め始める。同時に拳が眩いまでの光で輝く。
「――――《ブレイヴナックル》ッ!」
発言とともに突き出された右拳は、ミミックの巨大な眼球へとめり込む。いや、明らかに体内まで拳が貫いている。
そしてその威力からか、ミミックの身体がドンドンと膨れ上がっていき、ところどころひび割れて光が漏れてくる。
ナクルは拳を引き抜くと、そのままミミックを土台にして跳び距離を取った。
「……コレ……ガ…………ユウシャ…………オノレェ……ッ」
それがミミックの最期の言葉となり、ヤツは急激に膨れ上がって、そのまま爆発し消失したのであった。
(す、すげえ……コレがナクルの力……)
長門から聞いてはいたが、こうして実際に目にするのとではやはり違う。ナクルの勇者としての力は、まさに絶大ともいえるエネルギーを有していた。
あの蔦絵ですら、その支配力を完全に抵抗できなかったほどの妖魔という存在。それに対してナクルは圧倒的なまでの勝利を手にしたのだ。それにあの跳躍力は、どう頑張ったところで人間が出せるものではない。
まさに主人公たる力を見せつけられたと実感させられた。
「……あ! ナクル! ナクルは!?」
あの高さから落ちたらと思って彼女を探すが、彼女はすでに一つの大岩の天辺に降り立っていた。どうやら着地も問題なかったようだ。
そんな彼女の姿を見て安堵の溜息を吐く。ナクルもこちらに向かって屈託のない笑顔で手を振っている。
だが蔦絵がその時、強く咳き込みと同時に吐血した。それを見た二人は、急いで彼女の傍に駆け寄る。
ナクルもすぐに駆けつけたが、いつの間にかライトアーマーは消えていて普段着になっていた。
二人して蔦絵の名を叫ぶと、そこでようやく彼女の瞼が震えながら開く。
269
お気に入りに追加
1,460
あなたにおすすめの小説

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~
十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~
芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。
駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。
だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。
彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。
経験値も金にもならないこのダンジョン。
しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。
――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。

念動力ON!〜スキル授与の列に並び直したらスキル2個貰えた〜
ばふぉりん
ファンタジー
こんなスキルあったらなぁ〜?
あれ?このスキルって・・・えい〜できた
スキル授与の列で一つのスキルをもらったけど、列はまだ長いのでさいしょのすきるで後方の列に並び直したらそのまま・・・もう一個もらっちゃったよ。
いいの?

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる